2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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働き方改革の具体策にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を選び、社外からのサポートを得て一定の成果は得たものの、そこからの普及と運用を社内で引き取る体制が思うように整わず“次の一手”を模索する企業は少なくないようだ。RPA本格展開時の課題をユーザー企業に尋ねたRPA BANKのアンケート調査(2019年5月実施)でも「推進組織・体制(18%)」「業務改革関連(16%)」「投資対効果(14%)」の合計が、全体の半数に迫る結果となっている。
たとえば「集中したい作業があるときに限って、別件の電話対応が入ってくる」というオフィスワークの“あるある”は、意識の切り替えにストレスをかけ、業務効率を確実に落としている。もしRPAという新たなツールで、こうした仕事の進め方そのものを変えられるなら、余分な負荷が減って生産性が高まるだけでなく、進んでRPAを学び、業務に生かすモチベーションも一気に高まるだろう。
そこで本記事では、膨大な建物管理業務の中で、こうしたRPAの「使いこなし」に成功している大和ライフネクスト株式会社 ファシリティコンサルティング事業部(東京都千代田区)の事例を紹介。RPAを社内に定着させ、有機的に活用するためのポイントを共有したい。
<目次>
マンションやビルなどの管理で大手の一角を占める大和ライフネクスト。このうちファシリティコンサルティング事業部は、全国のビル・商業施設約3,000棟に対する清掃、警備、点検などの管理業務を年間約16万件受託。約2,000社の協力会社と連携してサービスを提供している。
同社でRPA活用の推進役を担うのは、これら受託業務のうち継続的な契約を管理する「事業推進部RC業務課」だ。10人強のメンバーは協力会社との日程調整や進捗管理など1人あたり月間1,300件の事務を処理するかたわら、業務プロセス改革にも積極的に取り組んでおり、RPAもその一環として採り入れたという。
行宗 恵氏(ファシリティコンサルティング事業部 事業推進部 RC業務課): ちょうど私が入社した2017年4月にRPAツール「BizRobo!」が導入され、およそ1年のテスト運用を経て本格的な取り組みが始まりました。
最初に実用化したのは「協力会社に対して作業可能な日程の登録を督促するメールの自動送信ロボット」です。メールを使わない方向けに、文面をファクス送信するサービスを組み合わせたほか、新たにコールセンターも利用するようにしました。
これにより、通常業務のかたわら、つながるまで何度もかけていた日程登録の督促電話を完全になくすことができました。
他部署からの要望を受けて作成したものとしては「OCRで読み取った、ホテル客室清掃の報告書を業務アプリに反映させるロボット」があります。RPAの実装だけでなく、手書きの報告用紙をOCRに適した書式に見直す作業も私たちが担当しました。
清掃と移動の時間を手計算で集計していた従来よりも手間を減らしつつ、集計の精度とスピードを大幅に高め、より効率的な人員配置が可能になりました。
同課が既存業務をRPAで置き換えたことでの時間短縮効果は現在、月間100時間相当に達する。さらに他部署での活用による効率化や、RPAを応用した新規業務のリソース創出効果も得られており、2020年3月までに全社で「ロボット運用100体」「社内開発者20人」「月500時間相当のリソース創出」を達成できる見通しという。
大胆に業務の流れを見直した中にRPAを埋め込む同社の手法は印象的だが「そこまで思いきったことが、なぜ可能だったのか」も気になるところだ。この点をキーパーソンに聞くと、ある社内事情が好機になったという。
田口 貴広氏(ファシリティコンサルティング事業部 事業推進部 RC業務課 課長 兼 デジタルアセットマネジメント推進室 担当課長): 当社は2015年、不動産管理を担う大和ハウスグループの2社が合併してできた会社です。両社それぞれのやり方で進めてきた業務を一本化して生産性を高める狙いから、合併を機に業務フローの見直しと標準化がクローズアップされるようになり、RPAも、まずはそこで役立つ手法の1つとして活用検討が始まりました。
私自身は現在入社15年目で、管理建物担当、営業、企画と建物管理業務を一通り経験したところでRPAを学びました。社外の専門家に検討してもらうのではなく「どの部署についても大体の業務内容を理解した上で、変えられる部分と動かせない部分をすぐ判断できる」のは、大きな強みになっていると思います。
それと同時に、業務に詳しい現場のスタッフがRPAを学び「手順を分解するスキル」を身につけると、その後に出てくる改善のアイデアが一気にレベルアップすることも実感しています。
今回「業務の見直し」と「集約」、さらに「ロボット化」が同時進行していると言えば大変に聞こえるかもしれませんが、逆に「変化するタイミングで一気に進めている」からこそ、ここまで踏み込めるのかもしれません。ただそのためには、業務改革に加わるメンバーが「社内業務」と「RPA」の両方を理解していることが大切だと思います。
「合併」という、必然的に社内が変化するタイミングに合わせて業務変革の成果を最大化させた同社は、豊富な業務知識をベースにした「現場主導でのロボット化戦略」を選んでいる。それを実際にどう進めているのか、さらに詳しく見ていくことにしよう。
田口氏: 日ごろから当社では「今までの3倍速を目指して物事を進めよう」と社長が呼びかけています。そこでRPAの活用に関しても「形を整えることに時間をかけない」「既に概要が分かっている課題をまずターゲットにする」「8割の出来でいいから、とにかくチャレンジする」という姿勢で取り組んできました。
技術面では「必要最低限のスキル習得から社内開発者の養成を始め、各自が身の回りの業務をロボット化していく」手法で実績を上げた竹内瑞樹氏の講演に感銘を受け、同氏が監修した「BizRobo!開発スキル研修」を私や同じ部署、さらにIT部門の有志で今春から順次受講しています。
受講後は復習を兼ねて、担当業務の中から簡単なテーマを選んでロボットをつくってもらうようにしています。ロボット化のターゲットを現場から遠い人に決めてもらうのではなく、よく知っている自身の周囲から探していく方法が、もっとも早くて的確だと感じます。
行宗氏: 本業とロボット開発の時間配分は厳密に決めていませんが、ロボット化で生まれた余裕を次のロボット開発に充て、他部署からの開発リクエストにも応じています。
RPA研修を受けた社内のメンバーは、週に1度集まって自作のロボットを“お披露目”し、よいところを褒め合いながら今後の課題を共有しています。研修受講者のコミュニティサイトが活発なので、社内に分かる人がいなかった内容も、投稿すると回答がすぐ得られることが多く、とても助かっています。
社内でもRPA開発者が多い私たちの部署は、以前から進めてきた「多能工化」で「お互いの作業内容が頭に入っている」という大きな特徴があります。これは本来「いつ・誰が休んでもカバーできるように」という狙いで始まった取り組みですが、やはり仕事内容が分かっている者同士で話し合うと、実用的なロボット化のアイデアが断然生まれやすくなります。
1人ひとりの職人芸で完璧を目指すのではなく、部署の内外から知恵を出し合い、素早く試しながら精度を高めていく。社内的な「マルチスキル」、そして対外的な「コラボレーション」を受け入れるオープンな雰囲気をつくれるかどうかが、現場主導型のRPA活用を成功させる上での大きなカギを握っているようだ。
ターゲット選定から実装まで、業務の現場が活躍をみせている同社のRPA活用。では、こうした動きをIT部門はどう受け止め、いかに関わっているのだろうか。
飯田 司氏(情報システム部 ゼネラルマネージャー 兼 ソリューション推進課 課長): IT部門ではRPAを理解した技術者を社内に2人置いた上で、随時協力いただける外部のRPAエンジニアも3人確保しています。
導入当初はIT主導でロボットを実装・運用する状況も想定し、相応の準備もしていました。ただ、実際に始めてみて「業務知識がある現場主導で進めたほうが圧倒的に速い」と分かってからは、不測の事態や将来的な展開への備えに重点を置くようになりました。
現在RPAに関して、私たちIT部門が主に担当しているのは「よくある質問と回答の整理」「部署を超えたロボット活用の支援」「関連テクノロジーを含む最新情報の提供」、そして「RPA未導入部署への働きかけ」です。
田中 健介氏(同部 ソリューション推進課 ソリューション推進チーム): 社内で運用するロボットの管理にはさまざまな方法がありうると思いますが、当社の場合は「派遣社員の勤務」に準じた扱いをしています。具体的には、稼働させる部署ごとにロボットを管理し、システムへのアクセスなどに際してはロボット単位で付与したIDを使うようにしています。
情報システム部は週1回、社内のRPA導入部署を回って相談を受け付けています。私がその担当ですが、RPAの社内技術は既に相当なもので、IT専門の立場からみてもハイレベルな内容しか出てこないレベルに達しています。
ロボットの横展開を想定した標準化や、統制から外れた「野良ロボ」を出さない仕組みづくりは、IT部門が全社向けに担うべきだと考えています。一方で、ロボットの管理に関する細かい事項は、既に部署単位の運用が確立しているので、私たちがマニュアル化で統一する必要はないように思います。
現場主導で進むRPA活用の勢いを削がないよう、同社のIT部門はサポートに徹していることがはっきりと分かる。さらに「声がかかれば他部署のロボット作成を引き受ける」という社内開発者の行宗氏も「エラー時の対処を含めたロボットの運用に、その部署が責任を持てるかどうかは事前に確認している」と明かす。
名実ともに「現場が主役」のロボット化を実現するには、あくまでも導入部署が主体となって取り組むことを大前提とし、同時に「周囲からいつでも手を貸せる環境」を構築しておくことが不可欠といえそうだ。
RPAについて「幻滅期」という声も上がる現在、本来のコンセプトである「現場主導型」での活用手法をどこまで定着させられるかは、企業規模やベンダーの違いを超えた一大テーマといっても過言ではない。
今回紹介した大和ライフネクストの取り組みは、RPAを通じて「10かかっていたものを1にする」効率化だけでなく「AをBに変える」創造性を随所に感じさせた。一見参考とするには難しそうな事例だが、成功をもたらした個々の要因を知ると、案外どれもシンプルなことに気づく。「自社はここから」という突破口を見いだした方も多いのではないだろうか。
「現場の事務職がロボットをつくるスタイルを、もっと広げたい。業務知識を改善に役立てる喜びは働きがいにつながり、魅力ある職場は採用面でも有利になる」(田口氏)
「RPAだけにとどまらないDX全般を見渡し、技術面で社内を支援していくのがIT部門の役割。現場のテクノロジー活用を制限するのではなく、活発化できる仕組みを育てたい」(飯田氏)
こうした思いを同じくするRPAユーザーの知見は今後、さらに厚く積み重なっていく。それらを確実にシェアし、実地に生かすことさえできれば、そう遠くない時期に「RPA幻滅期」は過去の話題と化すことだろう。
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