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テレワークとは? 導入の仕方、選び方、メリット・デメリットを解説

多様な働き方を許容したり、あるいは災害など通勤しての就労が難しい場合の事業継続性を維持するツールとしても注目されるテレワーク。導入するにはどういう手順が必要だろうか。また道具の選択肢にはどういったものがあるだろうか。

» 2020年02月04日 08時00分 公開
[キーマンズネット]

 テレワークというと、介護や育児など社員それぞれの事情に合わせた働き方を実現するために導入する企業が増えている。多くの場合、一部の従業員に限定して環境を構築していることだろう。だが、自然災害や事故、パンデミックの発生や想定外の有事など、全社規模で通常の勤務が難しくなるシナリオも複数考えられる。万が一の事態でも事業を止めず、信用を失わない最低限の業務を遂行するには、いざというときのための働き方を考えておかなくてはならない。

 だがいざテレワークを具体的に進める場合、設備や体制の整え方など不安な要素は多いことだろう。ここでは、テレワークの導入に当たり、何から手を付ければいいのか、具体的にどんな方法を選ぶのかを、導入を推進する責任ある立場の人向けに解説する。

テレワークにはどんな種類がある? 在宅勤務、モバイルワークとはどう違う?

 テレワークには「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務」の3種類がある。

 PCやスマートフォンでネット接続できる環境を前提に、従業員が自宅で業務を行うことを「在宅勤務」と呼ぶ。自宅で業務に従事し、必要な打ち合わせはWeb会議ツールなどを使って自宅から参加する。定期的な通勤を伴わないので、育児や介護をしながら働きたい人、身体に障害のある人などに向いている。一方、「モバイルワーク」は従業員が出先で仕事をすることを指す。営業などの外出が多い従業員が一時的にカフェなどを利用して働くようなケースだ。

 3つ目の「サテライトオフィス勤務」は、会社が用意したレンタルオフィスなどのスペースで仕事をするケースだ。サテライトオフィスは多くの場合、従業員の通勤経路や自宅近く、あるいは商談場所の近くなどで効率よく業務を遂行するための立地を選択することが多い。企業風土や文化を変える目的で利用する企業も増えている。

 テレワーク実施によって得られた/得られつつある効果としては「非常時の事業継続対策における体制整備」の他、多様な終了条件を許容することによる「人材の確保」や、オンラインで効率よく事業運営に取り組むための「業務プロセスの革新」をが挙げられる。以降では、実際にテレワークを実施する際に必要な手順と、具体的なツールの6つのパターンについて、それぞれのメリット/デメリットを見ていく。

テレワークの導入プロセスとは?

 企業がテレワークを導入する時は、次の図ようなプロセスをたどることが望ましいとされている。一度ルールを作って実施して終わりではなく、実施後の評価と改善もプロセスに盛り込んで、使い勝手をよくしていくプロセスも重要だ。

テレワーク方式、何を選ぶ? 6つの選択肢

 テレワーク実施環境は、「PC(テレワーク端末)にデータを保存するかしないか」「会社で使うPC(端末)と同じ環境を使うかどうか」「クラウドサービスを使うかどうか」によって次の6種類のパターンに分類できる。

  • 自宅PCから職場PCに接続するリモートデスクトップ方式
  • 社内サーバの仮想化基盤にアクセスする「仮想デスクトップ(VDI)方式」
  • クラウドサーバのアプリを操作する「クラウド型アプリ方式」
  • 専用ブラウザで接続端末からの情報漏えいリスクを減らす「セキュアブラウザ方式」
  • コンテナ型「アプリケーションラッピング方式」

 本稿ではこの分類を基にそれぞれの特徴を見ていく。

(1)自宅PCから職場PCに接続する「リモートデスクトップ方式」

 リモートデスクトップ方式は、ふだん使用しているPCをそのままオフィスに置いておき、従業員が自宅やサテライトオフィスなどからインターネット回線を通じて遠隔でオフィスのPCを操作する方法だ。

 作業したデータはそのままオフィスのPCに保存するため、テレワークで使用しているPCにデータは残らない。

 リモートデスクトップ方式のメリットは、ふだんと同じように作業ができ、データがテレワーク用PCに残らない点だ。通信の安全性を確保し、端末が保護されていれば安全に利用できる。ただし、遠隔のデスクトップを操作するため、通信回線が遅いと操作性が悪くなる。このため高速な通信回線を利用できることが前提となる。

図1 リモートデスクトップ方式のイメージ(出典:総務省「テレワークセキュリティガイドライン(第4版)」、以下同様)

(2)社内サーバの仮想化基盤にアクセスする「仮想デスクトップ(VDI)方式」

 仮想デスクトップ方式は、オフィスのサーバ内にある仮想デスクトップ基盤(VDI)に、従業員が自宅やサテライトオフィスなどからアクセスして作業する方法を指す。リモートデスクトップと同じように、アクセス元のテレワーク用PCにデータを残さない運用が可能だ。リモートデスクトップと比べて、仮想デスクトップ基盤で一括して管理できるため、均質的なセキュリティ対策を施しやすい利点がある。

 画面のデータを伝送する仕組みのため、リモートデスクトップ同様に、通信回線が遅いと操作性が悪くなりやすい。

図2 仮想デスクトプ方式のイメージ

(3)クラウドサーバのアプリを操作する「クラウド型アプリ方式」

 クラウド型アプリ方式は、テレワーク環境からWeb経由でクラウドサーバのアプリにアクセスして作業する。

(1)(2)に比べて通信回線速度は大きく影響しない仕組みになっている。

 ただし、場合によってはデータの保存先として業務用PCの他にテレワーク用の私用PCも選択できてしまうため、うっかりテレワーク時の私用PCにデータを保存されてしまう恐れがあるので注意が必要だ。場合によっては別途、ファイル保存を防ぐ施策を併用するとよいだろう。

図3 クラウド型アプリ方式のイメージ

(4)専用ブラウザで接続端末からの情報漏えいリスクを減らす「セキュアブラウザ方式」

 セキュアブラウザ方式は(3)「クラウド型アプリ方式」の安全性を高めた方法だ。専用ブラウザを使うことでファイル保存や印刷の機能を制限し、テレワーク用PCに業務データを保存させない。通信速度の影響が少ないメリットがある一方、専用ブラウザ経由のアプリしか利用できない点には注意が必要だ。リモートでできる作業を限定するような用途でも利用できるだろう。

図4 セキュアブラウザ方式

(5)PCにコンテナで保護したアプリケーションを導入する「コンテナ型アプリケーションラッピング方式」

 テレワークで使用するPCに、テレワーク用のOSやアプリケーションをインストールし、「コンテナ」という、ローカル環境が、独立した仮想環境、つまりは会社と同じ作業空間を作るものだ。従業員は「コンテナ」内でアプリケーションを操作できるが、逆にコンテナ内からローカル環境にはアクセスできないように制限できるため、業務データをローカル端末に残さない。また、通信速度の影響も受けにくい。

図5 アプリケーションラッピング方式

(5)いつもの業務環境をそのままテレワークに利用する「会社PCの持ち帰り方式」

 名前の通り、会社で使用するPCをそのまま持ち帰る方式だ。オフィスの業務アプリサーバにアクセスする場合は専用のVPN回線を使う。いつもの作業環境でそのままテレワークが可能であり、高速回線は必ずしも必要ではない。しかし、テレワーク時にPCにデータを保存することが前提なる。この方式を採用する場合はPC持ち出しルールなどは、最も厳格なセキュリティルールを決めておかねばならないことに留意したい。

図6 会社PCの持ち帰り方式のイメージ

ネットワーク利用や物理的リスク、周辺業務への配慮を忘れずに

 ここまで挙げた方法を活用する他、企業側はテレワークを実施する従業員(テレワーカー)のネットワーク利用にも注意を払いたい。例えば、「決められたVPN回線に接続して暗号化通信を行うこと」またモバイルワークにおいてカフェなどで仕事をせざるを得ない時は、「情報漏えいの危険性が高い無料Wi-Fiを使うのではなく、会社が支給したモバイルルーターを必ず使うこと」といったルールを定めておきたい。

 また、見落としがちなのが物理的なセキュリティリスクだ。例えば紙の資料の持ち出しやサテライトオフィスでのプリントアウトも情報漏えいにつながる。サテライトオフィスで作業を行う時には、鍵付きのロッカーを使うなど端末や資料の管理に配慮すべきだ。

勤怠管理は煩雑になる可能性が高い

 テレワーカーの勤怠管理や給与計算は煩雑になりがちで、人事担当者の大きな負担となる点にも配慮したい。一定以上の人数を従業員として抱える企業の場合、「Microsoft Excel」で作った表に記入してハンコを押すなどでは管理しきれないだろう。例えばスマートフォンやPCのログイン/ログオフだけで労働時間を集計・管理できるようなツールの導入も検討したい。

テレワーカーのモチベーションを下げないように

 もう一つ注意したいのが、セキュリティ対策を厳しくすればするほど、テレワーカーに強いる手続きが煩雑になり、業務効率を落としかねないことだ。使いやすさとセキュリティレベルの高さとのバランスがとれたツールやシステムを探すことが大事になるだろう。

 会社と離れた場所で業務を行うテレワーカーは、家族とは近いものの、会社組織の一員として孤独を感じることもあるかもしれない。打ち合わせ参加や社内コミュニケーションのために、チャットツールやWeb会議システム、掲示板などのコミュニケーションツールも必要だろう。

 技術を駆使してテレワークが可能になった今、働く環境は大きく変わった。ただし、働く側はやはり人間であり、技術的な注意点だけでなく、そのモチベーションを落とさないための工夫が求められる。ツール検討とともに、就業規則や人事評価制度の変更も検討すべきだろう。

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