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RPA先進ユーザー・住友林業情報システムが導き出した「最良のロボット運用」とは

» 2020年02月07日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

「ときおり止まったり、業務が変化する中で細やかなメンテナンスは必須だが、導入現場で自己完結するだけの習熟が追いつかなかったり、管理・運用方法に手間取ったりして苦労している」

生産性の向上を目指してRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入したユーザーの全社展開を阻む “壁”の典型が、この種の悩みだ。数を増す一方ソフトウエアロボットの管理統制、あるいは対象業務そのものを見直す必要性といった難題も絡み、業務効率化対策であるRPAの活用推進に思ったより手間がかかるという“ジレンマ”を感じだした担当者もゼロではないようだ。

こうした状況を招いている理由の一端は、「RPAの運用」という領域で現場・管理者、双方の負担を容易に解決できる方法論が、いまだ確立していない点にある。

ただ一方では、多数の試行錯誤のうえ誰もが容易に使用できる「Excelファイル」をベースに仕組みを構築した企業もいる。それが、RPAの先進ユーザーとして知られる住友林業情報システム株式会社(千葉市美浜区)だ。

同社はこうした独自の運用を、RPAツールの標準機能にこだわらない適材適所のソリューションで実現している。そのコンセプトと実際の仕組みについて取材した。

<目次>

  • 1.ロボット管理の行きついた先は「Excel」管理
  • 2.RPAとExcelの橋渡しに「xoBlos」を用いるメリットとは
  • 3.「適材適所」でツールを使い分ける

ロボット管理の行きついた先は「Excel」管理

──RPAの全社展開を目指す導入企業の多くが直面している「ロボットの管理運用」という課題に対し、貴社ではExcelファイルをベースにした運用を確立していると聞きました。まず、こうした仕組みを採り入れるまでのいきさつを教えてください。

成田裕一氏(ICTビジネスサービス部シニアマネージャー): 当社は2015年、住友林業グループから受託している事務処理の効率化を目的にRPAツール「BizRobo!」を導入し、ロボットの実装と管理運用には当初、同ツールが標準で提供している機能を使っていました。

RPAに取り組まれている方々がよくご存じのとおり、ある既存のロボットを少し改変して別用途に横展開できるケースは珍しくありません。一方で、いったん稼働を始めたロボットはまず間違いなく、その後の利用環境の変化に伴ってメンテナンスが必要となります。

したがって、全社展開時の規模も考えると、ロボットの実装は毎回ゼロから始めるのではなく、過去の開発成果を部品のように組み合わせていくのが効率的です。また、ロボットの簡単な改修を含む管理運用に関しては、われわれIT部門だけでの対応が難しく、導入部署での自己完結を基本としなければ間に合わないことも明らかになってきました。

これらを踏まえた結果、BizRobo!の標準機能に沿ったやり方とは別のアプローチをしたほうが手っ取り早いと考えたことから、途中で方針を改め、実装と運用に要する作業の多くをExcelファイル上で行うための仕組みを整備しました。

──RPAツールの標準機能を、一部とはいえ他ツールで代替するのは、かなり思いきった判断だと思いますが、なぜ踏みきったのでしょうか。

成田氏: 標準機能をフル活用するやり方も含め、最善の運用方法を1年近く検討したのですが、やはり「いま事務作業に携わる人にとって、もっとも身近で汎用的に使えるユーザーインターフェースがExcelだから」というのが大きな理由です。ロボットの導入現場で管理をお願いするにあたり、使い慣れたツールで簡単にできることが何より重要と考えました。

「ロボットがエラーを起こして止まる」といっても、実際のところは参照するファイル名が変わったなど、数値の修正、データの追加で解決可能な内容が大半です。どうすれば直るのか、作業に携わる現場のメンバーは本来容易に理解できるものの、RPAツールの奥深い階層にある設定画面を出したり、その方法を覚えたりするのに手間がかかる。そうであるなら、あとあと変更が見込まれる項目はRPAツール内ではなく外部のExcelファイルで管理し、そのデータをロボットの実行時に読み込ませればよいと考えたのです。

実際にこうした仕組みを採り入れたことにより「主要な接続先のURLが変わる」といった、多数のロボットが一斉に止まるような事態が起きても、「関係箇所を抽出し、まとめて正しいデータに置き換える」というExcelでなじみ深い操作によって対応できるようになり、習熟のハードルが大幅に下がりました。

また、Excelベースの管理に切り替えた結果、ロボットの仕様と設定値、あるいは実行する作業内容と実際の作業結果が同じシートで一覧できるようになり、このシート上で適切な説明を書き入れていれば、別個にドキュメントを起こす必要もなくなりました。

Excelファイルに各ロボットを管理する項目が一覧化されており、メンテナンス発生時にはExcelファイルの必要箇所を変更するのみの運用となっている。

──確かに、管理や保守の手間が相当軽減できそうな印象です。管理用のExcelファイルは、RPAツールで直接読み込むのですか?

成田氏: いえ、両者を連携させるために専用のツールを使っています。具体的には、RPAを導入する前から住友林業グループの住宅事業部門における予算管理業務などで使っていた、デジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社の製品「xoBlos(ゾブロス)」を利用しています。

xoBlosには、Excel形式のひな形に設定項目を入力するだけで作業指示ができる「制御シート」という機能があります。この機能を応用して(1)細かく部品化したロボットを動作させるシナリオを実装する工程 (2)外部からロボットに変数を与える仕組み (3)1日数回実施するロボット稼働状況の自動取得を実現しています。

RPAとExcelの橋渡しに「xoBlos」を用いるメリットとは

──外部のExcelファイルでロボットを管理する利点はよく分かりましたが、RPAツールで直接Excelファイルにアクセスするのではなく、両者の間をxoBlosで橋渡ししているのはなぜでしょうか。

成田氏: ロボットのつくりやすさ、管理しやすさなどの面で、そのほうが得られるメリットが大きいと判断したからです。

かりにBizRobo!からExcelファイルを直接読み取らせようとすると、ファイルから抽出したデータをロボットに正しく認識させるための設定がその都度必要となります。ここでxoBlosを使うと、Excelシート内のデータを常に一定のフォーマットでBizRobo!に渡せるので、ロボット側での設定を省いて開発工数を減らすことができました。

また、xoBlosからBizRobo!への実行指示は、利用者の排他制御や処理状況に応じたロードバランサー機能により「BizRobo!の能力を限界まで引き出して能力型ライセンスを最小限に費用対効果を最大化できる」ということであり、これもxoBlosを併用するメリットの1つです。

さらに、ロボットを細かく部品化し、組み合わせて実装するという私たちのやり方とxoBlosの相性がよいことも挙げられます。当社では、開発成果を使い回ししやすい区切りとして「画面遷移単位」でロボットを作成しているのですが、これらがリスト化されたExcel上でチェックを入れれば、その順番でxoBlosがBizRobo!に実行指示を出します。横展開程度であれば、さらにいくつか設定値を変更するだけで実装が完了するので、「1日10体」というハイペースでロボットの数を増やすことができています。

──使いやすくするために新たなツールを加えたことで、かえってロボットの導入現場で覚えることが増えたりはしませんか。

成田氏: その心配はないと思います。当社の場合、ロボットの導入現場で行うのは「どこからデータを取得してどこへ渡すか」あるいは「取得できるデータの中からどれを選ぶか」といった内容をExcel上で管理することだけで、BizRobo!の操作をまったく知らない人でも運用が可能です。

それに加えて、社内ポータルサイトのトップ画面から、閲覧者に管理権限があるロボット用のExcelシートだけを表示するサイトへのリンクを貼っています。このサイトは、xoBlosの管理機能であるWebサービス「xoBlosコントローラー」で構築したもので、表示されるExcelシート上で項目を修正すれば、xoBlosを通じてロボットの動作に反映されるため、特にxoBlosの操作を覚える必要もありません。

「適材適所」でツールを使い分ける

──RPAツールからExcelファイルを扱うだけでなく、ExcelファイルからRPAツールを扱うというのは、発想としても興味深いです。

楠本正彦氏(ICTビジネスサービス部 チーフ): 私たちは住友林業グループ各社から受託している事務処理の現場を持つと同時に、グループのシステム開発と保守も担っています。そこで管理しているさまざまなITツールの特性を理解していたことも、今回のような仕組みを選んだ大きな要因だと思います。

ソフトウエアロボットの実行はRPAツールにしかできませんが、RPAの運用にあたってはロボットの実装や管理など、派生的な領域でさまざまな機能が必要となります。そこをRPAツールの標準機能とオプションで全部まかなう必要はなく、むしろ既存のITツールを「適材適所」で組み合わせれば、ユーザーにとってより使いやすい仕組みが構築できるケースも多いと考えています。今後RPAが、AIやIoTといった他のテクノロジーと連携を強めていけば、こうした傾向はさらに強まるでしょう。

──その意味では、今後RPAの推進には導入部署だけでなく、IT部門がかなり深くコミットする必要がありそうですね。

楠本氏: 将来的にはそうなると思います。ただ直近について言うと、部品化したロボットを組み合わせて実装するソリューションについては、当社で使っているのと同様のものが近日中に利用できるようになると聞いています。

また、管理権限があるロボットの設定用Excelシートにアクセスできる、xoBlosコントローラーを利用したポータルサイト構築機能も、近く製品として提供されるとのことなので、自社の現状にマッチしたところから少しずつ採り入れていけばよいと思います。

──RPAと他のテクノロジーとの連携というお話もありましたが、貴社での今後のRPA活用戦略について、最後にお聞かせください。

楠本氏: 私はRPAのほかAI活用の担当も兼ねており、既に「BizRobo!が自動でサーバーにアップロードした営業車のドライブレコーダーの記録をAIで分析する」といった連携にも着手しています。

これは「自動車の速度変化をはじめとするデータを走行地点付近の事故発生状況などと組み合わせてリスクを把握し、有効な事故防止対策を立てよう」という取り組みで、いわば「判断できることを増やす」といったチャレンジです。今後はそれと同時に「RPAの処理結果をAIが確認し、人間のチェックを経ないで次工程に渡す」といった「判断することを減らす」ためにもAIを活用できたらと考えています。

成田氏: 事務処理のプロセスの中で、人とロボットがバトンタッチする部分には、工夫の余地がまだまだあります。両者をスムーズに連携させる上では、BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)の概念がカギを握っていると考えています。

まずは、改善のターゲットとなる業務をBPMのルールにのっとって整理するところから始め、人とロボットの業務をBPMソフトで一気通貫に管理したい。ゆくゆくはBPMソフトで組んだフローチャートから、ロボットが自動的に生成されるようにできたらと構想を進めているところです。

──新機軸についても成果が楽しみです。本日はどうもありがとうございました。

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