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DX(デジタルトランスフォーメーション)に焦点を当てた、株式会社豆蔵のプライベートイベント「豆蔵DX day 2019」が2019年10月25日、東京都中央区の東京コンベンションホールで開催された。
「ビジネス最前線の実践者が語る“DX”のリアル」をテーマに設けられた16のセッションでは、データ活用による生産性向上と事業創出に挑む先進企業が自社の事例を共有したほか、関連ソリューションのベンダーから最新トレンドが紹介された。
同イベントのメディアパートナーであるRPA BANKは今回、当日の模様を全2回のダイジェストで紹介。前編となる本記事では、経済動向の“映し鏡”である鉄鋼流通業の立場からDXの意義を説いた株式会社メタルワンの岩田修一社長による基調講演と、海外進出企業の会計実務に新たなソリューションを提案した株式会社オービックビジネスコンサルタントの発表をピックアップする。
<目次>
1.RPAを使いこなす現場の社員が先導役──メタルワン岩田社長が明かすDXの“第1ラウンド”
2.グローバル会計の“現実解”──OBCが推奨する「SaaSでつなぐ2層構造」
「あらゆる用途に用いられ“産業のコメ”とも呼ばれる鉄は進化を続け、かつて2mm厚だった自動車の外板はいま、1mmに満たない薄さでわれわれの命を守っている。ただ、そうした製品を扱う業界の体質は必ずしも先進的ではなく、当社もほんの2、3年前まで、デジタル活用にはほど遠い状態だった」
連結売上高2兆円超、連結従業員数およそ1万人を擁する国内最大規模の鉄鋼商社で2017年からトップを務める岩田氏は、自社をそう紹介する。景気指標にも用いられる鉄鋼の需要と、その動向を踏まえて社内のデジタル変革に着手するまでの経緯を振り返った。
株式会社メタルワン 代表取締役社長執行役員 兼 CEO 岩田 修一 氏
近年の粗鋼生産量推移をグラフで示した岩田氏は、三菱商事と旧日商岩井(現双日)の鉄鋼製品事業部門が統合してメタルワンが設立された2003年前後より世界全体での生産量が急増していることを説明。続けて伸びの大半は中国の内需拡大に伴う増産で、日本を含む他地域では横ばいが続いていると解説した。
先進国の需要停滞に加え、ここ数年は中国でも供給過剰が目立ち、鉄鋼メーカーの統合再編は世界的なトレンドとなり鉄鋼商社でも経営効率化を図る再編が相次いだほか、拡大するEC市場への対策も迫られる「戦国時代」に突入。リーディングカンパニーであるメタルワンにも「このままでは成長どころか現状維持で精一杯になる」(岩田氏)という危機感が高まった。
少子高齢化などの「マクロ環境」、商社を介さない販路や鉄以外の素材の出現という「競争環境」、そして属人化したタスクが散在する「内部環境」を踏まえ、同社はデジタル技術による社内変革を検討。当面の最優先課題として、既存業務の処理で手一杯な状況から従業員を解放するための「業務効率化」を掲げた。
「従業員を組織のリソースとして捉えたくない。むしろリソースフル(逆境から活路を見いだせる)な人になってもらいたい」。そう語る岩田氏は、デジタルを活用した業務効率化にあたり「新たなチャレンジができる時間を捻出したい一方、その実現に多くの時間はかけられない」ジレンマがあったと説明。DXのエキスパートである豆蔵にも助言を求めた結果、短期で着実な業務効率化が見込めるRPAの採用に至ったと話した。
岩田氏の社長就任直後から本格化した同社のRPA活用では、業務知識を持つ現場からの取り組みを、楽しみながら進められるよう配慮。希望者を対象にしたRPAツール講習の機会を設けたほか、普及の柱として自由参加の「ロボットコンテスト」を据えた。
経営陣も審査に加わる年1回のコンテストでは、上位3件の開発者に米国シリコンバレーの視察旅行が贈られる。過去2回のコンテストには、のべ250人が参加。その結果、これまでに120体のロボットが開発され、社内には年間5万時間相当の業務効率化効果を見込んでいる。
ここまでで見込まれる成果について、岩田氏は「単体の従業員数の2%近い、約25人分の新たな労働力が生まれるのは大きい。同時に(基幹システムからデータを取得して照合を行うなど)同じ作業の反復継続をロボット化したことで社員のモチベーションが高まり、社内の雰囲気も徐々に変わってきた」と評価。さらに「コンテスト上位に事務職の社員が多く選ばれるのは喜ばしい一方、自動化により効率化できる業務はまだ残っている。改革はまだ緒に就いたばかりだ」と語った。
DXのいわば“第1ラウンド”を、ボトムアップによるRPAの自社運用で幸先よくスタートさせた同社。今後の展望について岩田氏は「新たな成長の種を探すために、定型的な業務から解放される社員には新しいことにチャレンジしてもらいたい。ボトムアップで浸透したRPAの標準化・全体最適化をトップダウンで進めるとともに、AI-OCRとの併用で自動化の範囲を広げ、人材の有効活用を進める。その先でビッグデータやAIの活用も検討したい」と述べ、講演を締めくくった。
またグローバル企業のDXに関しては、中小企業向け業務パッケージソフト「奉行シリーズ」で知られる株式会社オービックビジネスコンサルタント(OBC)が自社製品の導入事例を紹介。会計システムが統一されていない拠点の業務を、日系企業になじみ深い「勘定奉行」のクラウドサービスで一本化し、そこからERPに連携させる「2層構造」のメリットを解説した。
株式会社オービックビジネスコンサルタント SI・コンサルティングパートナー推進室 室長 森 猛 氏
登壇した同社の森猛氏(SI・コンサルティングパートナー推進室 室長)はまず、海外展開する日本企業の多くでは、本社などの主要拠点において、世界的なデファクトスタンダードのERPを用いた会計業務が確立されていると説明。いっぽう海外法人ではコストの問題から安価なソフトを現地調達する例が多く、そこから必要なデータをまとめたExcelファイルを本社が受け取り、連結会計システムに再入力する運用が珍しくないと語った。
同氏は「こうした従来のやり方では、締め日からデータの到着までに時間がかかるほか、コミュニケーションのすれ違いが起きやすく、さらに現地でデータをまとめるプロセスが適正か検証できない」と指摘。経営の可視化、セキュリティー強化、さらに業績のタイムリーな把握という観点から、会計システムを統合する現実的なソリューションが求められていると説いた。
大企業において「本社で外資系ERPを使いながら子会社は奉行シリーズで統一し、両者を連携させる」という「二層化」した運用が普及している状況を踏まえ、OBCは2018年2月にSaaS型の会計システム「勘定奉行クラウド」を提供開始。特に現地法人をターゲットにした二層化の支援を視野に、2019年5月には「同Global Edition(GE)」を発売した。
セッションで森氏は「アジアの現地企業を買収後、会計情報を可視化するためGEに切り替えたメーカー」「海外拠点の会計業務をGEで統一する方針の情報通信関連企業」「本社で使い慣れている奉行シリーズのUIを評価し、新規進出先の欧州でGEを採用した外食企業」など、GEの導入事例を紹介。同製品の特長として「海外製品の空白を埋める価格帯」「シリーズで定評があるUI・機能などの品質」「世界25カ所に直営拠点を置くコンサルティング企業によるサポート」の3点を挙げた。
森氏はデモンストレーションを交えながら、Microsoftのクラウドプラットフォームで稼働するGEが利用可能な英文自動翻訳などの機能もアピール。「会計データのスムーズな統合を実現する本製品が、DX実現のファーストステップとして選択肢になれば」と語った。
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