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EDIの2024年問題とは? ISDN回線終了で何がどうなるか

既存の電子商取引システが使えなくなる。最悪の場合には業務が停滞してしまう可能性があるという2024年問題。費用と時間をなるべくかけずに対応する選択肢はあるだろうか。

» 2020年05月11日 09時30分 公開
[キーマンズネット]

 IT業界では人手不足や古いシステムの更新期限が一気に訪れる2025年を「崖」として危機感を持ってきたが、実はそれよりも前、2024年にも「期限」が訪れる問題がある。

 2024年には、POS(販売時点情報管理:Point of Sales)やEDI(Electronic Data Interchange:企業間電子データ交換)システムなどで通信に広く利用されてきた「INSネット」の「デジタル通信モード」が終了する。ISDN回線を使ったサービスが利用できなくなると考えると分かりやすいだろう。ISDN回線は企業内のさまざまなシステムの裏側で利用されていることから、関係するシステム全体で何らかの見直しや対策が必要になる。

INSネットのデジタル通信モード終了の理由

 ではなぜデジタル通信モードを終了するのだろうか。

 その背景には固定電話契約数の減少などの問題がある。総務省「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表(令和元年度第2四半期(9月末))」によると、2019年9月末段階で固定電話の契約数は5404万件、そのうちNTT東西は1762万件と、2002年の2610件から大きく利用者数を減らした。NTT東西の別の資料でも、固定電話契約数は1997年がピークで6270万件、2017年には2042万件と約67%も減少したことが明らかになっている。

1 図1 NTT東西「固定電話のIP網への移行後のサービス及び移行スケジュールについて」(2017年10月17日)

 こうした事情から、従来「PSTN」(Public Switched Telephone Network=公衆交換電話網)で提供していた固定電話サービスは維持コストの削減を余儀なくされている状況だ。IP網に移行することで、交換機や収容局などの運用負担を削減する狙いだ。

2 図2 IP網への移行イメージ(出典:NTT東日本)

 INSネットのデジタル通信モードは企業内のさまざまな業務で広く利用されている。例えば、小売店舗ではクレジットカード決済で使われるCCT(信用照会端末)やPOSシステム、医療機関ではレセプトのオンライン請求システム、メーカー間の取引で使われる電子商取引(EDI)、金融機関のシステムと接続して給与振り込みなどを実行する「エレクトロニックバンキング」などが該当する。中でも影響を受ける企業が多いとされるのがEDIだ。

「切替後のINSネット上のデータ通信(補完策)」では安心できない理由

 INSネットのデジタル通信モードのサービス終了は決定事項だが、影響範囲が広いことが問題となっている。そこでNTT東西はサービス終了に際して、影響を最小化すべく、既存の設備を利用した「切り替え後のINSネット上のデータ通信」(補完策)を2027年頃まで提供することを表明しており、そのための検証環境も提供している。

 このことから「急ぐことはない」と考えるかもしれない。

 だが、実際にはNTT自身が「全く同じ品質とはならない」「利用する危機によっては処理に時間時間が増加する」と表明しているように、今までと同じ業務を維持できるかどうかは保証していない。実装の使用上、既存のISDN通信よりもオーバーヘッドが大きく、データ遅延が生じやすいことが指摘されているため、現在の処理速度を前提とした業務が成り立たなくなる可能性が指摘されている。

3 図3 「切替後のINSネット上のデータ通信(補完策)」(出典:NTT東日本)
4 図4 「切替後のINSネット上のデータ通信(補完策)」の検証では大幅な応答遅延が懸念されている(出典:NTT東西による検証結果をまとめたJEITAの資料

 こうしたことから、既存のEDI利用企業が従来通りの取引業務を維持するには2024年までに何らかの方法でインターネットEDIに移行する必要がある。

EDIの移行方法は? 2つのタイプアプローチとそれぞれの課題、移行のデッドライン

 情報技術サービス産業協会(JISA)がまとめた「INSネットディジタル通信モード終了によるEDIへの影響と対策 V1.1.2」(JISA EDIタスクフォース)によると、インターネットEDIへの移行のアプローチは2つのパターンが考えられる。1つは、既存の業務フローを変えず、通信の部分だけをインターネットEDIに切り替える方式、もう1つは業務フローの見直しや標準化と合わせて各業界標準に準拠したシステムを導入する方式だ。

5 図5 情報技術サービス産業協会(JISA)「INSネットディジタル通信モード終了によるEDIへの影響と対策 V1.1.2」より

 1つ目の選択肢は、既存の業務を変えずにEDIのみを切り替えるため、一見すると手軽に移行できそうに見える。しかし、この選択をした場合、例えば全銀TCP/IPを使う場合のセキュリティの実装をどうするか、既存EDIパッケージで対応できるかどうかを逐一調査する必要があるなど、検討事項は少なくない。

 他方、業務標準化と合わせて業界団体ごとに標準の方式が異なる。主要なものは以下の通りだ。

 業界 標準仕様
流通業界 流通BMS
エレクトロニクス業界 ECALGA
石油化学業界 JPCA-BP/CeS
医薬品業界 JD-NET
JEITA、流通業界 ebMS手順
流通業界 AS2手順
流通、全銀 JX手順
Odette OFTP2手順

 いずれも自力で対応する場合は、それぞれの仕様への理解やシステムの継続的な運用に相応の工数が掛かる点が問題となる。加えて複数の業界と取引があるケースが想定される中間サプライヤーの場合は、各業界のEDIプロトコルに対応する必要がある。自社単独でこれらの取引に対応したり、複数の業界標準パッケージを導入したりするのは非常に負担が大きい点も課題だ。海外との商取引では更に別途追加開発が必要な場合もあり、EDI接続に対応できずに機会損失をしてしまうことも考えられる。

 このように2つの選択肢はいずれも時間とコストが相応に発生するため、EDI移行計画の開始時期を「遅くとも2020年」と設定している。ISDN回線の終了は2024年とされているが、2023年から段階的に一部サービスに遅延が生じるとされているため、確実に安全な移行を考えた場合は2023年末に対応が完了していることが望ましい。下図はJEITA(電子情報技術産業協会)が公表するEDIの移行ガイドラインの例だ。

6 図6 JEITAが提示する意向スケジュール例(出典:JEITA)

SaaS型、アウトソーシング型でグローバル対応込みの移行も視野に

 ここまで見てきたように、EDIのリプレースは、各種業界標準や国際取引への対応、機材や通信環境の整備、業務フローの標準化方法など、検討が必要な項目が非常に多い。予算化と実際の作業着手は2020年が期日とされてきたことから、今から検討する場合には、複数の業界標準に対応したSaaS型EDIやアウトソーシングサービスを利用する方法が注目を集める。

6 図6 海外取引に対応したWeb-EDIの例(出典:日立、TWX-21 Web-EDI Globalサービス)
7 図7 運用やインテグレーションを丸ごと受け持つEDIアウトソーシングの例(出典:NEC)

 どちらも自社と顧客が直接つながるのではなく、ITベンダーが提供するEDIサービス基盤に接続し、そこで各種業界標準フォーマットや顧客指定の仕様に合わせて適宜データ変換を実行してから顧客システムとつなぐ仕組みだ。

 データ変換部分の実装を外部化できること、サービス提供ベンダー側に対応実績があれば比較的短期間で対応可能なことなど、メリットは大きい。今後海外を含む取引拡大を考える場合にも対応しやすいだろう。

中小企業の脱「紙」「ハンコ」としての選択肢も

 中小企業向けには「つなぐITコンソーシアム」が提供する「中小企業共通EDI」が用意されている。国際標準規格「CEFACT」に準拠した仕様が特徴で、コンソーシアム参加企業がそれぞれサービスを提供する。製品によっては無料プランや月額数千円程度で利用できるものもあるため、従来EDIを利用してこなった中小零細企業でも新規に導入しやすい点が特徴だ。受発注の処理だけでも電子化できれば「紙」による業務を削減でき、データ化や押印処理削減にも使えるだろう。

 経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」にあるように2025年がデジタル変革の期限とされることから、多くのSIerは基幹系システムのリプレースや取引基盤刷新に対応するエンジニアが不足すると危機感を募らせている。EDIのリプレースについても直前に「駆け込み」が増えた場合には、期日までに対抗を完了することが難しくなる可能性が高い。まずは自社内のシステムのどこでINSネットが契約されているか、回線や接続機器がどういう状態にあるかを整理するところから始め、取引先ごとの対応状況などの情報整理を進めてほしい。

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