長引くテレワークに対し、英国の研究者から「これまで仕事が人間に与えていた重要なメリットを失わせている」という指摘が上がっている。それって一体?
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い緊急事態宣言が発令されてから1カ月が経過した。テレワークや時差出勤が長引き、現在の働き方に慣れてきたというビジネスパーソンも少なくないだろう。しかし、テレワークへの移行でストレスを感じている人も多い。このほど、英国の大学から「テレワークは仕事によって得られる重要なメリットを失わせている」という研究が発表された。一体どういうものなのだろうか――。
テレワークのデメリットについて発表したのは、英スコットランドのセント・アンドルーズ大学で哲学を研究しているデリン・トーマス氏だ。トーマス氏は、アカデミック系ニュースサイト「The Conversation」において、「Why working remotely feels so jarring & according to philosophy」(訳:「なぜテレワークが不快感を与えるのか――哲学的考察」)というタイトルで意見を発表した。
トーマス氏はまず、新型コロナウイルス禍で世界の人々の雇用形態が大きく変わったことを指摘する。雇用状況や働き方、仕事にまつわる人間関係などあらゆる事柄が根本的に変化してしまい、仕事がこれまで提供してきた「社会的利益」が欠如しはじめているという。
仕事が提供する社会的利益とは一体何なのか? トーマス氏は、複数の哲学者の考察を引用しこう述べている。「仕事は金を稼ぐためだけの手段ではなく『社会貢献』『社会的認知』『コミュニティーに属する経験』を得るための重要な手段だ」。
つまり、ビジネスワーカーは仕事をして社会に貢献しているという意識を得るとともに、社会的に認知されていると感じる。組織に属することで他のメンバーから評価されていることを意識する。週に40時間(起きている時間の約3分の1)以上の時間を仕事に費やしている人も少なくない。そういう場合、もはやそのビジネスパーソンの社会生活を支配しているのは「仕事上の関係」だ。家族とは異なる仕事上の人間関係が1人の人間に大きな影響を与えているとトーマス氏は指摘する。
トーマス氏が引用した哲学者アンドレア・フェルトマン氏の考察によると、ビジネスパーソンは仕事をこなすことで社会的なニーズに対応するだけでなく、知性や自立といった能力を構築し、成長を促している。ビジネスパーソンは仕事をこなすことで自身に対して肯定的な気分になり「心理的健康」を得るとともに、自分の能力の向上を望み、自己実現しようと努力しているという。
これらの考察を踏まえ、トーマス氏は「人間は『社会的な生き物である』とし、仕事は『社会的な生き物であろう』という欲求を満たすために欠かせない。人間に利益を与え続けてきた存在なのだ」と説明している。
テレワークによって自宅に籠り一人で仕事をすることが多くなったビジネスパーソンはその利益を得る機会を失いつつある。同僚との直接的なコミュニケーションはWeb会議や電子メール、チャットに取って代わった。新型コロナウイルス禍が収束した後も、従来の仕事の手法が変化、進化していくのは否めない。トーマス氏は、働き方が変化したとしても他の人々との直接的な交流やコラボレーションの機会を残す必要があると強く主張している。
確かに、テレワーク下ではオフィスで働いていた時のような組織の一体感は薄まってしまいがちだ。人間の社会的性質が薄れたり変化したりすれば、また新たな問題が起こる可能性もあるだろう。
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上司X: テレワークが仕事が与える人間の社会的欲求へのメリットを損ねるという話だよ。
ブラックピット: ええー。テレワーク最高じゃないですか? 本日も絶賛テレワーク中ですよ。
上司X: キミならそう言うと思ったけどね。
ブラックピット: まあ、確かにずっと1人きりで少し寂しいというか充足感が薄れている感じはありますが……。
上司X: それが今回紹介したような、仕事がこれまで与えてくれていた利益を失って、社会的性質が満たされなくなってきた状態なんじゃないのかね。
ブラックピット: 抽象的でピンとくるような、こないような……。仕事によるメリット、分からなくもないです。
上司X: 本来、リモートでもオフィスでも同じ仕事していることには変わらないのだろうけど、得られる達成感は確かに違うよな。
ブラックピット: でも、もうこのままフルリモートでも僕は全く構いませんよ。
上司X: とはいえ、オフィスでの勤務に戻れば、今のリモート体制とはまた違った充足感を享受できるはずだよ。ここはひとつ、事態が正常に戻るのを楽しみにしてみようじゃないか。
年齢:36歳(独身)
所属:某企業SE(入社6年目)
昔レーサーに憧れ、夢見ていたが断念した経歴を持つ(中学生の時にゲームセンターのレーシングゲームで全国1位を取り、なんとなく自分ならイケる気がしてしまった)。愛車は黒のスカイライン。憧れはGTR。車とF1観戦が趣味。笑いはもっぱらシュールなネタが好き。
年齢:46歳
所属:某企業システム部長(かなりのITベテラン)
中学生のときに秋葉原のBit-INN(ビットイン)で見たTK-80に魅せられITの世界に入る。以来ITひと筋。もともと車が趣味だったが、ブラックピットの影響で、つい最近F1にはまる。愛車はGTR(でも中古らしい)。人懐っこく、面倒見が良い性格。
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