新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、人材採用の方法は大きな様変わりを見せる。説明会もオンラインが当たり前になる中、対応に戸惑う企業もあるだろう。この中で注目を集めるのが「オンライン面接ツール」だ。オオンライン面接ツールの利点や、面接のオンライン化によって何が変わるかを整理する。
オンライン面接ツールとは、採用面接に特化したツールで、応募者とリアルタイムでやりとりする「ライブ面接機能」と応募者が動画をエントリーする「録画面接機能」を持つことが大きな特長だ。すでにさまざまなオンライン面接ツールがリリースされているが、前記の機能に加えて、面接の設問設定機能、応募者情報の管理機能、応募者・面接者へのリマインド機能などが準備されている。
また、オンライン面接は動画の送受信などで通信負荷がかかることから、応募者に面接用のURLだけを送り、アクセスすれば応募できるものなども存在する。多くはSaaSでの提供で、無料試用期間が設定されているので、料金や機能などは比較検討すればよいだろう。ちなみに、新型コロナウイルス対応として、一定期間無償提供をうたった製品もある。
オンライン面接ツールのメリットとしてまず挙げられるのが、パンデミックなどの事態にあっても将来の人材獲得のプロセスを止めずに運用できる点だ。
事業継続計画(BCP)策定では現状の事業運営を継続することに注力しがちだが、長期的に見れば事業を継続するための人材を定期的に確保し続けられるかどうかは重要な視点だ。新型コロナウイルス感染症拡大に伴うテレワークでは、人材採用プロセスの見直しが間に合わず、採用活動そのものを停止せざるを得なくなった企業もある。採用計画に狂いが出れば長期的には事業環境にも影響を与えかねず、経営リスクに発展する可能性もある。オンライン面接ツールを整備しておくことでこうしたリスクを排除できる。この他にもオンライン面接ツールは応募者の負担や採用担当の手間、コストなどの軽減を可能にする。
求職者にとって、面接に掛かる交通費、宿泊費などの費用は重荷になる。サポーターズの調査(2019年3月)によると、新卒者の就活費用は平均で約16万円に達する。中途採用の場合も在職者にとってはスケジュールの調整が難しい場合が考えられる。こうしたケースでもオンライン面接ツールを利用すれば、負担をかなり軽減できるだろう。
企業側はオンライン面接にも対応できることを示すことで、状況の変化に柔軟に対応できる組織であること、困難な環境の求職者に配慮がある組織であることを示せる。何よりも普段は接触が難しい、遠方に住む優秀な求職者を取り逃さず対応できるメリットがある。
オンライン面接ツールでは動画による応募(動画エントリー)を受け付ける機能がある。
ZENKIGENの調査(2020年2月)によると、動画で応募のメリットとしてオンライン面接を経験した大学生の70.1%が「撮り直しができる」を挙げている。失敗のできないリアルな面接に比べて心理的ハードルが下がると考えられる。
採用部門にとってのメリットも大きい。地方に出掛けて面接会場を設けたり、それに合わせて面接官のスケジュールを確保したりする手間を省くことができる。
「録画面接」機能がある場合は、面接時の動画を求人部門の担当者に共有して判断を仰ぐこともできる。書類でレビューを展開するのと比べると情報量は格段に多くなる上、採用部門担当者は現場を巻き込むことができる。カルチャーフィットが重視される現在、面接時だけでなく、配属部署の社員が見れば「人となり」を事前に知ることができ、入社後のスムーズなコミュニケーション形成に資するだろう。
Web会議ツールには「Zoom」や「Skype」などさまざまなサービスがあるが、求職者全員がそれらに精通しているとは限らず、また、それを設定するように求めると応募者のハードルがあがってしまう。また、動画はデータ量が大きいため、メールに動画ファイルを添付することも応募者の大きな負担になる。オンライン面接ツールでは、先ほど述べたようにメールに添付したURLのクリックやアプリなどで応募者の負担がないように設計されている。
さらに、応募者の通信環境にはバラツキがある。画質や音声が不明瞭になると、お互いストレスがたまる。オンライン面接ツールの中には、通信環境の悪化を感知して、画質を落として音声の質を優先させる機能を持つものもある。海外とのやりとりでは特に重要だろう。
オンライン面接ツールを導入することは、そもそもの採用プロセスを考え直す機会になるという声もある。採用プロセスのどの部分にオンライン面接を組み込むか、そしてその評価によって次にどうするかを設計することになる。そうすると、これまで行ってきた採用活動のムダがあぶりだされてくる場合も多い。採用プロセスは各社さまざまだろうが、会社によっては、総務担当者が兼務していて疲弊していたり、採用活動に現場社員が駆り出されて業務に影響したりという問題もあるのではないだろうか。
応募者側から見ても、早朝や夜間に面談してほしいなど多様な要望があるだろう。オンライン面接ツールの活用によって、それらを最適化できるかもしれない。
中には懲りに凝った面接動画を送ってくる応募者もいるという。業種や社風によっては、これまで見過ごしていたような応募者の面白い一面を見られる例もある。面談の風景は大きく変わっていくだろう。
オンライン面接ツールの導入に際しては、いきなり購入するのではなく無料試用期間に機能や性能を十分に確認しておきたい。導入後、いざ面接となった際にトラブルが発生してしまうと、取り返しがつかないため、自社の採用プロセスとの整合性や使い勝手の評価は慎重に行っておこう。学生を対象とした採用活動の場合、PCを持たない応募者も想定されるため、スマートフォンへの対応状況も確認しておくといいだろう。
実施時に注意したいのは「音質・画質」だ。オンライン面接の途中で音や画像のトラブルが起きると双方のストレスになる。ただし、考えようによっては、そんなトラブル時に応募者がどういう対応をするかという視点で「人となり」を確認できるかもしれない。むしろ、オンライン面接によって、テレワークへの向き不向きがかいま見える可能性もある。
この他に特に気をつけたいのが「情報管理」だ。オンライン面接では重要な個人情報のやりとりが生じる可能性があるため、情報漏えいには細心の注意を図りたい。ツール提供会社のプライバシーマーク取得の有無やその他セキュリティ体制も、情報システム部門と連携して事前に確認することも必要だろう。
この他、既に何らかの人事管理システムで採用管理機能を利用している場合は、既存システムとオンライン面接ツールの組み合わせや連携が可能かも確認しておくとよいだろう。
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