コロナ禍のテレワークで、多くの人が自宅回線で業務に取り組んだ。急きょ自宅回線を業務で利用したことで帯域不足や通信費用といった多くの課題が見つかった。企業はこれからどう対応するのか――。548人から寄せられた課題観と対応策を紹介する。
2020年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による被害が世界規模で広がり、日本でも生活に大きな変化がもたらされた。こと企業においては期初計画の見直しや在宅勤務など働き方の転換に追われたケースも少なくないだろう。そこでキーマンズネット編集部では“コロナ禍”における企業の実情を調査すべく「緊急事態宣言期間中のテレワークの実施状況と勤務実態に関するアンケート」を実施した(実施期間:2020年5月25日〜6月12日、有効回答数548件)。
第4回のテーマは「テレワーク時のネットワークの課題」だ。
第1回で述べたように、調査実施期間は5月後半から6月中旬と、緊急事態宣言が解除されたものの予断を許さない状況だったこともあり回答者の約9割がテレワークを導入済みだった。当媒体読者を対象としたオンラインアンケートであることを考慮すると、一般よりはテレワーク導入率が高くなることが予想されるが、同条件で2020年2月末に実施した調査ではテレワーク実施率が7割弱だったことを考えると、直近の数カ月でテレワークを導入した企業が一定数いると考えられる。
なお少数ではあったが「現在は導入していない」と回答した人に、今後のテレワーク導入意向を聞いたところ「1〜2カ月以内」に導入したい、とした回答が最も多く、全体的に見ても64.0%と過半数が「1年以内」と回答した。
緊急テレワーク環境下での通信環境について調査したところ「自宅回線(光回線)」が73.3%と最も多く、次いで「会社支給のスマートフォン、携帯電話のデザリング」18.5%、「会社支給のモバイルWi-Fi」12.6%、「自宅回線(ケーブルテレビ)」11.8%、「自宅回線(モバイルWi-Fi)」10.0%と続いた(図1)。在宅勤務の通信環境は自宅回線を中心に私用の回線で対応しているケースが多く、比較的通信が速く安定している光回線の利用率が高かった。
関連して社内ネットワークへのアクセス方法についても聞いたところ、全体の81.5%が「インターネットVPN」を利用していた(図2)。少数ではあるがエントリーVPNや閉域網SIMといった回答もあり、通信時のセキュリティ対策は各社進められているようだ。
一方、主にクラウドサービスを利用しているのか、「社内ネットワークにアクセスしていない」という回答にもケースも全体の1割弱あった。詳細は後述するが、テレワーク時のネットワーク課題として「VPNがボトルネックになっている」という課題を挙げる意見は多く、セキュリティを厳重にしすぎることで業務効率が悪化する側面も少なからずある。そのバランスには十分注意すべきだろう。
では、テレワーク時の通信環境について、不満の声や課題となった点はなかったのだろうか。フリーコメントで寄せられた声を紹介したい。緊急事態宣言下では、自分だけでなく“家族全員”が自宅にいたため、思わぬトラブルもあったようだ。
1つ目は、先述のVPN接続に関する課題だ。「従業員が一気にアクセスするため会社で利用しているVPNサービスがパンクしてログインできない。遅延などが発生した」「VPNに通信障害が起これば全ての業務が止まってしまい個人ではリカバリーが打てない」など、会社が用意したVPN環境が通信のボトルネックになったケースだ。前項で触れたセキュリティと業務効率をどうバランスよく見立てて構築しておくかが課題になろう。
2つ目は、自宅回線を利用しているとした回答者から寄せられた「家族全員が同時接続していた」「マンションに入居する多くの世帯が同時に接続していた」といったネットワークの帯域不足の課題だ。自宅で暇を持て余した子どもに動画サイトを見せたりタブレット端末を与えたりしていた結果、思わぬ通信トラブルを招いたという。一体どういうことなのだろうか。
【訂正】記事中「ネットワークが混線」という表現を用いていましたが、正しくは「ネットワーク帯域不足」でしたので一部文言を訂正いたしました。(9 July 2020 12:26)
ここからは、具体的に挙げられた声を紹介する。「夫婦そろってテレワークだったため、Web会議が被るとネットワークのパフォーマンス不足が顕在化した」「自宅学習の子どもに親が働いている間、動画サイトを見せていたらネットワーク負荷が上がってWeb会議に支障が出た」「マンション内の在宅勤務人数が多いのか、通信の遅延や切断が発生した」。
同様の課題は複数挙げられ、テレワークのために必要な通信性能とパフォーマンス維持のためにも「個々の通信環境が異なるので貸与wi-fiを導入すべき」といった要望も挙がっていた。
3つ目は、2つ目と関連して自宅回線を利用する場合の通信料金の負担についてだ。「自宅の作業場がWi-Fiルーターから遠くSIM頼みになってしまい、通信費用が増加した」「当然、テレワークで使用量が増大したが、その分の費用補助がない」など膨れ上がる通信料の負担について心配する声が多く挙げられた。緊急事態宣言期間中は「家族全員が利用(自分と妻は在宅勤務、子供たちはWeb授業)しているので通信料が莫大になる」などのケースも珍しくなく、負担は増えるばかりという悲痛の叫びも聞かれた。
先述のようにテレワークを実施したことで新たな課題が浮き彫りになり、企業は導入を検討し始めたネットワーク製品やサービスも複数あるだろう。「従業員にモバイルWi-Fiを配布」が24.2%と最も多く、次いで「従業員の自宅回線整備費用の資金援助」15.7%、「インターネットVPN装置」14.9%と続いた(図3)。「その他」には回答者が導入を決定する立場にないため不明とする回答が多く寄せられていた。
前項で挙がっていたVPN接続や自宅回線の利用時に起こるネットワーク遅延や切断といった課題に対応するネットワーク製品群や、通信料金の自己負担に対して資金援助を検討するケースが上位に挙がった。また、全体の1割弱と少数ではあるが該当企業も少なくなかった「社内ネットワークにアクセスしていない」企業を中心に、VPN環境を構築しなるべく安全に社内環境にアクセスできるようなネットワーク整備に取り組む企業もあるようだ。
これらの傾向から、どの企業も今後のテレワーク継続を視野にセキュリティリスクに考慮しながら業務効率の向上を実現できるよう、現場から出てきた課題を元に次計画を策定していることが推察される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。