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雷サージでデータ喪失も? 自宅ルータや店舗エッジサーバの電源を保護する最新UPS事情

雷や自然災害のシーズンが目前に迫る。在宅勤務やエッジサーバを使った遠隔監視などの利用が進むが、電源対策は十分だろうか。技術的には安定したUPSだが、最近は用事ごとのラインアップに加え、運用面で新しいトレンドが生まれている。不測の事態に備え、情報を確認しておこう。

» 2020年07月06日 08時00分 公開
[酒井洋和てんとまる社]

IT機器に欠かせないUPS

 サーバやストレージといったIT基盤を構成する各種機器に対して、安定的な電源供給と万一のバックアップとして機能するUPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)。停電や瞬停が発生した際にバックアップ電源をIT機器に供給することで、データおよびディスク破損を防ぎ、正しい手順でシャットダウンできる時間が確保できるようになる。

 電源管理のソリューションとしてUPSが広く普及していることは、よくご存じの通りだろう。保護する対象は、前述したもの以外にも、Wi-Fi環境に欠かせないアクセスポイントやルーター、スイッチといったネットワーク機器から、ネットワークカメラや複合機といったものまでが含まれる。

 UPSは、給電方式や出力波形によって種類が異なる。給電方式は、主に「常時商用給電方式」「ラインインタラクティブ方式」「常時インバータ方式」に分かれる。常時UPSを経由するかどうかで切り替え時間が異なる。出力波形については、正弦波と矩形波があり、商用電源と波形が近く精度が高い正弦波と、ノイズが乗りやすいものの低コストで提供可能な矩形波に対応したモデルがある。

常時商用給電方式 常時商用給電方式(資料提供:シュナイダーエレクトリック注1)

 常時商用給電方式は通常時には商用電源をサージ保護およびノイズフィルターを通して出力し、電源障害時にはバッテリーから出力する。バッテリーへの切り替え時間は8〜10ミリ秒。

ラインインタラクティブ方式 ラインインタラクティブ方式(資料提供:シュナイダーエレクトリック)

 ラインインタラクティブ方式は、通常はサージ保護回路とノイズフィルターを通してサージやノイズを除去して出力する。入力波形の検知ができ、フィルターで除去できない波形があるとバッテリー給電に切り替わる。バッテリーへの切り替え時間は2〜10ミリ秒。

常時インバータ方式 常時インバータ方式(資料提供:シュナイダーエレクトリック)

 常時インバータを経由して出力する方式。通常時とバッテリー稼働時の切り替え時間がゼロなだけでなく、インバータで一度交流を直流に変え、さらにインバータを通して交流に戻す(交流→直流→交流)ことで、ノイズが流れにくい仕組みだ。



今、UPSには何が求められているのか

 既に多くの企業で利用が進むUPSだが、現在は新たなニーズが増えているとう。具体的には異常気象をはじめとした災害リスクの軽減、クラウド化に伴うエッジ側の電源保護対策としての活用だ。

異常気象に対する事業継続リスク軽減

 日本においては、地震や台風、集中豪雨など多くの自然災害が発生しており、近年は異常気象が頻発している。事業継続に向けた対策に多くの企業が取り組む中、IT機器を中心とした電源周りのリスクについても懸念が広がっているところだろう。特に夏場は雷などの影響で停電や瞬電などが発生するが、近年はその頻度が高まっていること、IT機器を利用したシステムが増えていることから、UPSが求められる場面は増えている。

クラウドの広がりによるエッジのニーズ拡大

 昨今はデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)に向けたビジネスモデルへの変革が叫ばれており、多くの企業が変化の激しいビジネス環境に対応すべく、製品やサービスも含めたデジタライゼーションを加速させている。これまで以上にITの力がビジネスに大きな影響を与えており、その基盤を安定的に稼働させることが経営的な視点からも重視されている。

 その一環として、多くの企業でクラウドを柔軟に活用する動きが進んでいるが、ここで重要になってくるのがエッジの役割だ。全ての情報をクラウドで処理するのではなく、データが発生する場所に近いエッジ側に処理を任せる必要が出てきており、エッジ側に設置されたサーバやIoTゲートウェイ装置などについての電源保護が求められている。特に、自動化されたシステムなど通信のレイテンシがビジネスに直結するような場面では、パブリッククラウド上ではなく、エッジ側での処理が不可欠だ。その観点からも、エッジに対してUPSが重要な役割を果たすことになる。

 また、エッジ領域にはシステムに精通した人材を配置することが難しく、中には工場や社会インフラといった人的なアセスが困難な場所でのIT基盤整備も必要となることから、遠隔地から電源周りの管理、運用が可能な仕組みが急務となっている。当然ながら、何かトラブルがあってもすぐに現場に直行できない場面もあり、万一に備えて電源のバックアップ環境を整備していくことが必要だろう。このエッジ領域でリモートからでも柔軟に運用できるUPSに対するニーズも、これまで以上に高まってきているといえる。

 もちろん新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で自宅でのテレワークが進む中では、宅内ルーターや無線LAN設備にもBCPの観点で安定した稼働が求められる。今後は小型UPSへのニーズも増えてくると考えられる。

変わるUPSのラインアップ、エッジやマイクロデータセンターはどう守る?

 ここまでで見たようにUPSにはさまざまな場面で活用される。それぞれのシーンに合ったUPSがどういったものかを見ていこう。

リテールなどエッジ環境に適したマイクロデータセンター

 エッジ環境に求められるITコンポーネントをエンクロージャと呼ばれる1つの筐体内に集約し、サーバやストレージ、ネットワーク機器などが収納できる「マイクロデータセンター」ソリューションがある。このコンポーネント向けに最適化したUPSが登場している。

 交通などの社会インフラやコンビニエンスストアなどのリテール、工場プラントなどさまざまなエッジ環境が想定されるが、ラックそのものへの物理的なアクセスを回避するために施錠できる構造となっており、中には冷却システムが備わるものもある。UPS単体というよりもエッジのIT基盤としての環境そのものをソリューション化するものと言えるだろう。

厳しい環境にも適用できるUPS

 高温多湿で塵埃(じんあい)などが発生しやすい工場など、IT機器の稼働条件として通常よりも厳しい場面で活用可能なモデルも市場に展開されている。

 特に産業系のIoT(いわゆるIIoT)環境での利用が想定されるもので、交換頻度を少なくする目的で長寿命バッテリーを搭載し、電源障害が発生しても電力供給が遮断されない常時インバータ方式が採用される。防塵(じん)フィルターなどの付属品を定期的に交換できる製品もある。

リチウムイオンバッテリー搭載モデルも増加中

 もともと蓄電するためのバッテリー素材には、今まで蓄電機能の覇権を握ってきた鉛が利用されてきたが、今ではリチウムイオンバッテリーを搭載したモデルも徐々に増えつつある。

 鉛酸蓄電池は、バッテリー寿命が短めで重量がそれなりにあるため、これまでも運用の観点から改善が求められてきた。その代替として期待されているのがリチウムイオンバッテリーだ。リチウムイオンバッテリーの方が鉛に比べて高コストではあるものの、近年その価格差は埋まりつつある。交換や取り回しを考えると、鉛酸蓄電池と比較してバッテリー寿命が長く軽量なリチウムイオンバッテリーを採用するメリットはあるだろう。

リチウムイオンバッテリーと鉛酸蓄電池のメリット比較 図:リチウムイオンバッテリーと鉛酸蓄電池のメリット比較(資料提供:シュナイダーエレクトリック)(下記URLからの抜粋:https://www.se.com/jp/ja/work/solutions/for-business/data-centers-and-networks/lithium-ion-battery/

 リチウムイオンバッテリーはコンパクトで軽量、かつ長期間使用できるため、人気だがリスクも有る。2013年に飛行中の機内で発生したリチウムイオンバッテリーからの出火事故や、近年ではモバイルバッテリーやスマートフォンに利用されるリチウムイオン電池の発火事故などの影響で、採用にちゅうちょする方もいるだろう。

 しかし、リチウムイオンバッテリーには正極材料1つをとっても複数の種類があり、ひとくくりに議論をするべきではない。多くの携帯電話用リチウムイオン電池ではコバルト系の材料を利用しており、高密度実装が可能で性能バランスがいいが、熱暴走のリスクが懸念される。対して、産業用に利用されているものはマンガン系の材料が利用されており、密度は劣っているものの、熱暴走のリスクが低く、安定性に優れるという特徴を持つ。こういった視点もしっかり持つべきだろう。

 また、安全設計という意味でも、リチウムイオンバッテリー搭載のUPSには何重もの対策が施されており、安全に活用できる工夫が施されている。こうしたことから今後は多くの製品にリチウムイオンバッテリーが搭載されるようになるだろう。

遠隔地からのリモート監視、状況把握のソリューション

 エッジ環境にIT基盤を設置する機会が増える中、万一の障害時に現場にすぐに駆け付けられない状況も想定されることから、遠隔地から電源周りの状況をモニタリングし、原因特定を迅速に実施できる環境が望まれている。

 そこでUPS管理においても、クラウドを利用して遠隔監視できる仕組みが登場している。例えばシュナイダーエレクトリックが提供する「EcoStruxure IT」は、ベンダーに依存しない環境を提供しており、UPSやラック内に設置された電源タップであるPDU(Power Distribution Unit)などの情報を収集し、アラート含む電源周りの監視はもとより、グローバルなベンチ―マークを基に情報を分析し、潜在的なリスク予測も可能な仕組みだ。障害発生の検知や原因分析だけでなく、バッテリーの状況や交換タイミングの通知などの機能も備える。現場の状況をリモートから的確に把握できれば、事前に準備してから現場に入ることも可能だ。同様にITに精通していない人にバッテリー交換を指示するといったことにも使えるだろう。

 EcoStruxure ITの場合はEcoStruxure Platformと呼ばれるクラウドプラットフォームを用意しており、建物や自動化された工場、電力提供の配電設備、低/中電圧配電システムまで、遠隔監視のニーズが強い各領域で遠隔監視に対応している。

ニューノーマルな時代に注目される小型UPS

 ニューノーマル(新常態)な時代に適応すべく、自宅などで業務を継続するテレワーク環境の利用が広まるが、自宅では小型UPSが活躍しそうだ。もともと家庭向けに提供されていた小型UPSを利用し、ルーターなどのネットワーク機器やWi-Fi環境に必要なアクセスポイントなどを守ることも今後は考えていく必要があるだろう。

 COVID-19流行前の状況と同じ環境には戻らない可能性も想定されることから、社外のIT環境をより強固なものに刷新していくことも検討していくべきだ。小型UPSにも、安価な矩形波タイプのものもあれば、正弦波で給電可能な高性能モデルも登場している。中には価格を抑えながら正弦波に近い給電が可能な擬似正弦波のタイプもある。

UPS最新トレンド

 UPSに限らず、IT基盤をシンプルにしたいと考えるシステム部門の方は多く、柔軟にパブリッククラウドを活用していく流れもあるだろう。ただし、通信遅延が影響を与えるアプリケーションや機密性の高いデータを扱う場合、パブリッククラウドへの移行は難しく、自前で環境を整備する必要があるはすだ。

 最近では、オンプレミスの環境でもクラウド的な柔軟性や拡張性を持ったHCI(Hyper-Converged Infrastructure)が多くの企業で検討され、従来の3Tier環境からの移行も進んでいる。HCIを利用することで、シンプルなIT基盤の整備が実施できるようになるが、UPSの管理ツールもこのHCIとの親和性を高めている状況にある。今ではWebブラウザ上の簡単な設定によってHCIの各ノードに対するシャットダウン制御および自動起動が可能になっており、スケールアウトが容易なHCIに対するUPS構成にも対応している。

 特にCOVID-19の影響でVDI環境を整備し、テレワーク環境におけるセキュリティを確保するケースも増えているが、このVDI基盤にHCIを採用するケースも少なくない。柔軟な連携によって電源周りの運用負担も軽減できるようになっている。

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