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自治体におけるDXの推進が加速しつつある。DXとは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称で、ICTやテクノロジーの力で生活や企業活動をよりよい方向に変えていこうという概念である。人口減による働き手の減少が危惧される日本の自治体や企業において、今後ますます必要とされる取り組みであることは間違いない。
そして、世界のDX推進に着目してみると、既にエストニアはデジタル国家を確立しているなど、ブロックチェーンなどの先進的技術を政府単位で取り入れている行政・自治体は多い。
では、日本における行政はどのようなDX推進を行っているのか。また、DXを進めるために必要な視点について特に先進的な事例の紹介から、自身の働き方に活かせるヒントを見つけてもらいたい。
目次
自治体におけるDX推進は、待ったなしの状態にある。これだけインターネットが普及した世の中でも、自治体ではいまだに紙のやり取りが多い。自治体の取り扱う業務範囲は幅広く、行政上の手続きなどは全て独自に進めていくものだ。にもかかわらず、現場はアナログな手続きからなかなか脱却できず、苦悩しているのが現状だといえる。どうだろう、心当たりはないだろうか。
そのため、自治体においても業務負担の軽減のためにDXが必要となる。実際に、日本でもすでにDXを取り入れている自治体は、業務効率を上げるという観点からDXを採用している。また、事例として後ほど紹介するが、DXを取り入れている自治体は、このままでは業務がスムーズに遂行できなくなることを懸念していたケースがほとんどだ。
そして、自治体がDXを進めなければならない背景として、自治体の業務を行う人数が減少し続けている点も忘れてはならない。自治体は住民の属性情報や統計データなどを保有しているものの、現状のシステムではそれらを活かしきれておらず、データを活用した分析や提案に結びつけることも難しい。これは非常にもったいない状態だ。そのため、今後はDXをはじめとした様々な技術を取り入れていけるかどうかが、これから先の自治体の存続に関わるといえるだろう。
DXとは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略称だ。2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したと言われ、ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させることを指す。
もっと分かりやすく言えば、ICT(デジタル技術)を利用して、生活をより便利にする、そして現状に技術的革新を起こす、ということである。自治体においては、ICTを活用した国民・事業者にとって便利な行政のサービスの提供や、職員の効率的・効果的な業務の実現に向けた取り組みといえるだろう。
DXを推進する際に活用される技術には、以下のようなものが挙げられる。
いずれも重要な要素であり、DXと一言でいってもどの技術を利用するのかは大きく異なってくる。しかし、自治体でDXを推進する理由は、生産性の向上と自治体の業務を維持し続けることだ。この2つを実現するためには、ICTによる効率化や刷新が欠かせず、自治体におけるDX推進の動きは今後も加速していくと予想できるだろう。
DXの推進は、全国の自治体において有効な業務改善につながるだろう。しかし現状では、DXに積極的に取り組んでいる自治体とそうではない自治体の二極化が進んでいる。例えば、AI・RPAなどは人口が一定規模以上(都道府県・指定都市)の自治体を中心に導入されているが、その他の市区町村ではなかなか導入が進んでいない。
その大きな理由の1つは、何より人材リソースが足りないためだ。知識レベルもそうだが、働き手が足りず、DXを活用しようとしても担当者となれる人材がいない。2つ目は、人口が一定規模以下の地方自治体では、DXのノウハウを持つ協力企業が見つからないこともある。3つ目は、そもそもDXを推進するためのICT環境が整っておらず、財政が厳しい地方自治体にとってはそのための予算確保も難しいといえるだろう。
このままの状態が続けば、都市部以外の地方自治体は、遠からず業務が成り立たなくなる可能性が高い。そのため、DXを取り入れるための視点として必要なことは何か、またDX推進に成功している自治体はどのような方法で進めているのかを見ていこう。
自治体がDXを取り入れるためには、トップの変革に対するコミットが必要となる。DXに関する知見や優れたスキルをもつ人材を迎えることができれば、非常に効果的だろう。
例えば東京都では、ヤフージャパンの元会長である宮坂氏を副都知事に抜擢している。これは、首長が都の未来として、DXの要素の1つである5Gに対応すべきことを理解し、必要な人材を適正な役職に就けた事例だ。
また、職員によるボトムアップでの変革も重要である。これは、現場を知る人材から意見を取りまとめ、それを自治体のトップに伝えて変革を行っていくことを意味する。
自治体の中でDXに関連するスペシャリストを育成する余裕がなければ、外部の企業などから専門家を招き、プロジェクトを実行していく方法などもある。いずれにせよ、従来の視点にとらわれず、自由な発想でDXを進めていこう。
自治体でDXを推進するとしても、いきなり全てを変化させる必要はない。むしろ、そういった早急な取り組みは避けたほうがよいこともある。例えば、申請手続きを紙からデジタルへ移行させるなら、一気に全てのシステムを変えるのではなく、住民からの意見を取り入れたユーザーファーストの考え方を優先すべきだ。
従来のシステムから新しいシステムに切り替える際には、定型化された事務作業を自動化するRPAなどでも、小さく始めて改善を繰り返すことが重要だ。加えて、DX推進が必要な業務やその優先度は自治体によって異なり、他の自治体の導入例を参考にしても、そのまま適用できるわけではない。
あくまでも各自治体において、非効率な業務の洗い出しや住民の意見などに基づいて議論をすることが重要だ。そして、部分的にでもDXを取り入れていくことを繰り返し、少しずつ推進する姿勢が重要となるだろう。
日本においても、すでにDXを取り入れている自治体は多い。上記で触れたように、自治体の現状・実態に即した成功事例を知ることで、有効なDXを取り入れることができるだろう。
RPAやビッグデータの活用、AIチャットボットによる応答などの取り組みは、自治体における業務効率化を加速させている。そして、蓄積されたノウハウを用いて他の業務に応用することもできるため、DXを取り入れて何が変わるのかといった点もぜひ参考にしてみてほしい。
会津若松市では、電話対応に職員の時間が割かれること、ホームページだけでは市民に対する情報の周知徹底が十分でないこと、時間を問わない応対を行いたいといった課題を抱えていた。
そこで、以下のような内容に応えられるチャットボットを設置した。
他にも、ごみの出し方や収集日などを案内する「ごみ出しの疑問教えて」、問い合わせたい担当課がわかる「担当窓口の案内」など、市民の生活に24時間365日寄り添う機能を実装。情報の多いホームページよりも、ダイレクトに自分の必要な情報を知ることが可能となった。
こういった取り組みの成果として、市民の80%以上がAIチャットボットを好意的に評価している。加えて、簡易な問い合わせはAIが対応できるため、職員の時間の確保が可能となった。また、問い合わせ内容や件数、問い合わせ者の年代などのデータが蓄積できるため、今後さらに新しい行政サービスにつなげる予定だ。
岩見沢市では、基幹産業である農業において、人手不足や農家一戸あたりの経営面積の拡大など、厳しい状況に置かれている。高齢化も進み、この先も持続できる農村づくりが大きな課題となっていた。
そこで、市内の13カ所に気象観測装置を設置し、各種気象データや栽培履歴データを取得することで、農作業スケジュールを最適化する分析を開始。あわせて、以下のような情報を配信するようになった。
取り組みの成果として、ビッグデータを AI で解析することにより、勘や経験に頼らない農業が可能となりつつある。加えて、生産物の価値を高めることで新たな販路獲得にもつながり、岩見沢市の農業の維持・発展をDXが支えているといえるだろう。
港区では、職員の業務負担を削減する働きやすい職場づくりや、区民に対する質の高いサービス提供を行うために、AIなどのICTを積極的に活用したいと考えていた。
そこで港区では、 AIによる議事録作成支援の運用を開始。音声認識と機械学習の技術を生かしたツールを使用し、会議体の内容を自動でテキスト化することで、1時間の会議につき3〜4時間かかっていた業務を最短で30分ほどに短縮できた。
また、保育所AIマッチングシステムの実証実験も行った。兄弟姉妹の入園情報や利用調整基準等のルールをAIに学習させ、複雑な保育所入所選考をサポートする。これによって職員約15人が3日間程度をかけていた選考業務が数分で完了するようになり、その精度も100%信頼できると実証された。
議事録作成支援は現在まで数百の会議で活用されており、保育所 AI マッチングシステムに関しては、今後本格的に導入されることで、職員の時間の削減だけでなく、内定通知の早期化などの効果も期待できるだろう。
つくば市は、全国の自治体で初めてRPA全面導入に踏み切ったことで知られる。
もともとは、特に市民窓口課・市民税課の事務処理業務の時間の長さが課題だった。単純で定型的な作業ではあるものの作業量が非常に多く、特に確定申告時期は税務処理業務が集中するためである。
加えて、今後も人口が増えていくことが予想され、このままでは職員に対する負担が高まるだけでなく、公共サービスとしての質も問われる可能性があった。
そこでつくば市は、NTTデータとRPA導入に向けた共同研究プロジェクトを開始。まずは上記2課において導入を試行し、全庁へ展開していくことにした。
例えば市民窓口課では、異動届出受理通知業務の発送簿作成にRPAを導入し、年間約85時間かかっていた作業時間が、導入後は約14時間へと大幅に削減できた。市民税課でも、新規事業者登録や電子申告の印刷作業等の5業務にRPAを導入し、年間8割近くの作業時間短縮に成功している。
それ以外の成果として、従業員の入力ミスが減少し、単純作業を RPA に任せることで、対面サービスに注力できるなどの変化も起きている。PRAの導入によって時間を有効に活用できるようになった好例だといえるだろう。
宇城市では、エクセルデータを人手で打ち込む時間が非常に多く、ふるさと納税などの処理においても職員の作業時間が増加していることが課題だった。
そこで宇城市は、職員の給与、ふるさと納税、住民異動、会計、後期高齢、水道の6分野に対してRPAを導入し、作業の自動化に取り組んだ。基本的にはシステムへのデータ入出力を自動化し、住民異動については職員を補助・支援するRPAの構築を実施した。
取り組みの成果としては、年間で1,700時間の削減が可能となり、より公共サービスに注力できるようになる予定だ。加えて、業務を自動化したことから、入力ミスや手戻りが減少し、業務をスムーズに行えるように変化することが期待されている。
福岡県うきは市では、「RESAS」と呼ばれる地域経済分析システムを使用し、観光プロモーションの施策改善に取り組んでいる。
RESASを用いて観光客の来訪について分析したところ、観光客数が増加する時期が明らかになったほか、期待していた福岡市からの来訪が少なく、別市や県外からの来訪が多いことも浮き彫りになった。
そこでうきは市はプロモーション対象地域を見直し、観光PRの効果を可視化できるように施策を展開。目的地分析データで「道の駅うきは」が人気を集めていることも分かり、ヒアリング調査の実施へとつなげている。
取り組みの成果としては、観光客の満足度やニーズを把握したり、施策の効果を検証するなどの細かいデータを蓄積したりすることが可能となった。地域経済の活性化のために、自治体が計画・予想したことだけでなく、 RESAS のデータを組み合わせることによって、より的確な分析と施策の実施が可能になったといえるだろう。
神戸市では、先進的な取り組みとして「Urban Innovation JAPAN」を行っている。Urban Innovation JAPANは、全国の自治体が抱えている課題に対して、DXでの課題共有やメンタリングなどを含めて、全国各地で4カ月の協働実証実験を行うといったものだ。
過去の事例を見てみると、予約管理業務削減、 IoT や AI などを駆使したツールの開発などによって、行政窓口の案内ロスを3分の1にしたなど多くの自治体で成果を上げていることがわかる。今までの実績から今後も成果をあげつつ、DXによって様々な自治体の課題をサポートしていくだろう。
広島県では地域や暮らしなどに対して、「欲張りなライフスタイルの実現」をビジョンにDXを推進している。例えば、行政と民間企業が協力することを前提に、教育・ネットワーク環境の構築、行政データの提供など新しい取り組みが多い。
具体的には、DX推進本部を設置し、以下の3つの柱で取り組みを進めている。
広島県の取り組みは、例えばスマートシティのように、行政だけでなく民間企業も協力しなければ成立しないものも多い。また、デジタル環境を整えることによって、行政だけでなくそこに住む人々にも恩恵があるため、DXを推進する自治体の好例として多くの自治体に影響を与えていく可能性がある。
自治体におけるDXとは、ICTを活用した業務効率化や組織・サービスなどの刷新を指す。DXの推進によって、地方自治体が抱える人手不足やリソース不足といった課題を解決できる可能性を持つだろう。
実際に全国各地の自治体では、すでにDXを取り入れ成功を収めている所も少なくない。日本の人口減少が進んでいくことは確実で、効率化や合理化は必須であり、政府としてもスマートシティ/スーパーシティを提唱している。また、企業のDXは加速すると考えられ、人々はますます利便性を求めていく。そういった未来に対応するため、今後もDXは推進されていくことは間違いない。
また、各自治体は独自の視点と方法で、DXを取り入れている。つまり、各事例はそのまま応用できる訳ではないものの、DXを取り入れた運営が全国の地方自治体に必要な状況にあるといえる。そのため、いきなり全てのシステムを変えるのではなく、取り入れられるポイントからDXを取り入れ、対応していく必要があるといえるだろう。
(取材・文/小松央直 デザイン/藤澤専之介 構成/RPA BANK編集部)
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