2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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残業時間の削減などを目的としてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入したものの、途中で行き詰まってしまう例は少なくない。その場合ライセンス費用や外注費だけがかさんでいき、推進担当者の悩みの種となってしまう。こういった事態を避け、本来の目的である業務改善を成し遂げるためにはどのような工夫が必要なのだろうか。
今回は、RPAとOCR(光学文字認識) を組み合わせることにより、区役所業務として頻度の高い申請書などの「紙を使用した業務」を自動化し、結果として多岐にわたり業務改善に成功した東京都葛飾区の事例を紹介する。ICT政策の担当である政策経営部情報政策課の担当者らに、具体的な施策やRPAを推進するにあたって必要なことを聞いた。
−葛飾区では、RPAがそれほど普及していなかった2016年頃からRPA導入を検討されていたとのことですが、背景にはどういったことがあったのでしょうか。
谷口 正氏(葛飾区政策経営部情報政策課長): 2016年1月にマイナンバー制度の運用が開始されたのにあわせて源泉徴収関連の業務に用いる新たなシステムを稼働したのですが、これに伴い膨大な事務作業が発生しました。例えば、源泉徴収票にマイナンバー記載項目が追加され、これには支払いデータとの紐づけ作業が必要でした。作業量は多い課で年間約1万件にのぼり、職員から業務負担を軽減したいとの声が上がるようになりました。
この問題を解決するための方法を調べていくうちに、RPAを使ってみたらどうだろうかという話になりました。そして2017年から2018年にかけてRPAの実証実験を行い、改善が望めるとの判断から本格導入することになったのです。
−RPAを導入することでどのような成果を実感されていますか。
野口茂樹氏(葛飾区政策経営部情報政策課企画係): 特に成果を実感しているのは、保育課です。保育園の入園申込書に関する業務は課の職員にとって一番負担になっているところでした。この業務をRPAとOCRを組み合わせて自動化を行い、年間3,000件を処理しています。
−年間3,000件! 従来は職員の方が手で打ち込んでいたのですよね。
谷口: そうですね。紙で提出された申込書を手入力していました。件数も多いですが、お子さんの名前であったり、希望する保育園、兄弟姉妹がいる場合など、項目数も多く、一枚の申請書ごとに入力されている項目が異なるため、かなり時間がかかっていました。これらの入力業務を軽減する事により、保育相談など区民との対話に時間がさけるようになり、効果が実感できていると聞いています。
野口: 他には、介護保険課の介護保険料還付業務などです。介護保険料の還付金請求書というものがあるのですが、区民の方から提出された請求書の情報をシステムに入力する業務を自動化し、同様に業務の効率化が図れています。
−RPAやOCRにはどのようなツールを使用されているのですか。
谷口: 当区には住民情報系と内部情報系という2つのシステムがあるのですが、保育・介護などの区民情報業務を取り扱う住民情報系のシステムの自動化には「BizRobo!」を採用しています。また、契約・支払業務などを取り扱う内部情報システムの自動化には「BizRobo! mini」を使っています。
OCRは、富士ゼロックスの「ApeosWare Record Link」を使っています。手書きされた帳票を読み取り、結果をパソコンの画面上で確認しています。走り書きなどは読み取れない場合もあるようですが、精度はかなり上がってきているのではないでしょうか。
−どのように業務改善プロジェクトを推進していったのか教えてください。
結城庸介氏(葛飾区政策経営部情報政策課企画係主査): 窓口業務などでは、申請書を受け取り、内容を審査し、手続きや支払いに回しますが、一つの申請に対して1〜2カ月程度かかってしまい、結果として区民の方をお待たせしていました。また、これを早く処理する為に、職員の残業が続いてしまうなど負担も大きい状態でした。
野口: そこで、残業を減らすためにRPA導入を検討していることを各課に対して説明する、RPA説明会を行いました。RPAとは業務自動化ツールであり、人の代わりにOCRで読み取ったデータを自動で既存のシステムに文字入力してくれるため、業務負担の軽減化につながることなどを伝えました。当初はRPAと言ってもピンと来ない職員もいましたが、最近では「この業務を自動化したい」と提案されるようになってきています。
−その他、取り組まれているICT政策にはどのようなものがあるでしょうか。
結城: 葛飾区総合アプリというものがあります。その中にAI(人工知能)で課の業務について、自動でアンサーバック(返答)するチャットボットを導入しています。昨年度は、戸籍やごみ収集に関するチャットボットを導入しました。今年度は、自転車や保育に関するチャットボットを追加予定です。
−チャットボットですか。どういった課題意識から導入を決定されたのですか。
谷口: RPAと同じで、まず課題があり、それを解決するために導入を決めました。チャットボットですと24時間365日、いつでも回答することができます。区民の方が、区に問い合わせをしたいが電話をするほどでもないと感じる程度のことでも、チャットボットが相手であれば気軽に利用することができます。また、これまで電話で問い合わせをしていた区民がチャットボットを利用するようになり、職員の負担軽減につながりました。そして職員の負担が軽減されることにより、結果的に区民サービスが向上しています。
−RPA導入に際してよく言われるのが業務プロセスの見直しです。RPAを導入する前に、業務プロセスを見直されたのでしょうか。
谷口: RPA導入にあたり業務を見直そう、となるとRPA推進の妨げになる可能性がありました。ただでさえ職員は忙しいですし、業務の見直しをする、と聞くととても大変なことのように感じてしまいます。それよりもRPAの良さを実感してもらう、まずはそこからです。業務の在り方から検討しようとするとハードルが高い。RPAを導入することにより結果的に業務改善がなされていく、というところを目指しました。
−今後取り組んでいきたいと考えていることについて教えてください。また、これからRPAを含むDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していきたいと考えている他の自治体に向けたアドバイスがあればお願いします。
谷口: 職員に対し、RPAに限定しないデジタルリテラシーの向上を目的とした研修を行おうと考えています。fマニアックな知識を身につける必要はないのですが、デジタルに関する必要最低限の知識を全職員が持てるよう啓発を行っていきます。それに加えて各種資格の取得支援も行いたいです。また、RPAを全庁展開し、より一層、区業務への定着を図っていきたいですね。
結城: 現在は、事業者に依頼してシナリオを作成いただいています。スピード感があり、導入初期の段階では任せて良かったと考えていますが、一方で事業者任せになってしまっている感も否めません。RPAを使いこなすためには、事業者任せにしすぎず、自分たちも理解しながら進めていくことが必要だと考えています。ただ全て職員がやろうとすると負担が大きすぎて全く進まない事態になりかねませんので、その辺りのバランスが課題になるのではないでしょうか。今後は情報政策課でもシナリオ作成の前段階であるエクセルデータの作成などを手助けし、事業者任せになり過ぎないよう内製化に向けて取り組んでいきたいと考えています。
谷口: 昨年、デジタル手続法が公布されました。今後は区としても紙の電子化、電子申請化などを検討することになるでしょう。しかし現在紙で手続きが行われている以上、RPAやOCRなどのツールは現段階における業務改善のための手段として必要です。DXとしては通過点かもしれませんが、RPAは目の前にある課題に対する現段階で最も有効的な解決策の一つだと考えています。
(取材・文/藤澤専之介 デザイン/lifebook 構成/RPA BANK編集部)
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