ITを活用したジム運営でコロナ禍を戦う「マガジム」を運営するハマーフィストの代表がその“戦い方”を語った。
2020年2月末、スポーツジムで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のクラスタ感染が発生した。その後、2020年4月に政府が発出した緊急事態宣言をきっかけに、自治体がスポーツジム業の営業自粛を要請した。
コロナ禍で苦境にあえぐスポーツジムを、実はSalesforceが支えていたことはあまり知られていない。Salesforce主催のオンラインイベント「Salesforce Live:SMB(中小企業・スタートアップ向け)」(2020年9月14〜15日開催)で講演したハマーフィストの代表の熊谷篤広氏は同社が運営するジムのコロナ禍での取り組みを紹介した。
ハマーフィストが運営するのは、20世紀前半にイスラエルで考案された接近戦闘術「クラヴマガ」のジム「マガジム」だ。同ジムはCOVID-19によってもたらされた困難を、ITの力で解決したという。
熊谷氏は「イスラエル軍式護身術であるクラヴマガは、例えば安心して乗っていたエレベーターで突然襲われた時に役立つようなもの。予期せぬコロナ禍での対応にもクラヴマガで重要な『機動力』や『立ち止まらないこと』が生かされました」と振り返る。
マガジムはどんな“戦い方”で壁を乗り越えたのだろうか。創業当初から導入していたSalesforceの力を借り、営業自粛から2日でその課題を解決したという。ジムとSalesforce、その関係性とコロナ禍での取り組みとは。
ハマーフィストは2013年の創業当初からSalesforceを導入していたという。2年目にはインストラクター用の会員管理システムを開発。会員の名前や顔写真を一目で確認でき、クラスの参加者を「会員さん」ではなく名前で呼べるようになった。結果として、利用者がジムに愛着を持つきっかけともなったという。
しかし、ジムの運営が好調となるにつれ、思わぬ問題も起きた。
会員数が増加したことでジムが混雑するようになったのだ。20人ほどの来館が適正だったが、日によっては倍の40人ほどが来館するケースも出てきた。当然、会員からはクレームも寄せられた。そこで熊谷氏は新たにSalesforceを利用して「クラス予約システム」を構築した。
「コストはかかるが経営課題となっていた混雑を緩和するしかない」(熊谷氏)
「導入当時、会員の方は喜んではくれませんでした。『来たい時に来れない』『予約が取れない』『面倒だ』という声が寄せられました。しかし、およそ2カ月もあればユーザーは慣れてくれます。システムを導入して課題を解決したことで、その1年後には年間利用者数30%アップという結果を生み出しました」(熊谷氏)
予約システムは参加人数を制限する仕組みだ。制限を設けた結果、なぜ利用者数増加を実現したのか。
熊谷氏は、リアルタイムでの情報開示にこそその理由があるという。「予約の取れない日にバツ印を付けるだけでなく、予約者の男女比を公開、カリキュラムの内容を詳細に開示したことで、ジム側の都合を利用者が把握して利用者側で予定を調整してくれるようになりました。一方通行から双方向でのコミュニケーションへと変化しました。結果、平日昼のような稼働率の低い時間帯の稼働率が上昇しました」
コロナ禍で営業自粛に追い込まれたマガジムは、2日で生配信によるオンラインジムを開設した。生配信にこだわった理由は利用者がオフラインでジムに通っていた頃と生活リズムを崩さずに取り組むため、また、コメント機能などを通じて双方向でのコミュニケーションを実現するためだという。
既に導入していたスケジュール調整システムを利用し、オンラインクラスを開講した。「顧客が慣れ親しんだ情報プラットフォームがあったおかげでストレスなく移行できました。予約の方法が今までと全く同じで参加のハードルが低かった。開始1カ月で顧客の45%が利用してくれました」。
しかし、さらなる困難がマガジムを襲う。2020年4月の緊急事態宣言によって、休眠状態だった会員から解約のメールが続々と届き始める。オンラインジムを活用する会員からも「施設を使えないなら価格を下げて」と連絡が届くようになった。
そこで、インストラクターの発案の下、食事相談などのトレーニング以外のコンテンツを発信した。無関心顧客へのアプローチは、Salesforceを使ってあぶり出し、直接電話をかけてコンテンツを紹介した。同年5月には、オンラインジムの利用者は55%になったという。
同年6月にはオフラインでのジムトレーニングを再開し、オンラインと併せて運営している。
熊谷氏は「Salesforceによる実態把握、何をすべきかの提示、機動力の高さがコロナ対応でも改めて重要でした。クラヴマガで重要な、素早い反応や立ち止まらずに動き続けることにも通じることです」と締めくくった。
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