2021年9月13日、RPA BANK はキーマンズネットに移管いたしました。
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労働人口の減少に伴い、生産性の向上が喫緊(きっきん)の課題となっている。特に自治体はコロナ禍や多発する自然災害などに伴い今後ますます業務が増えることが予想され、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などのデジタル技術の活用が必須となるだろう。
しかし前例や慣習を重んじる自治体では、民間企業と比べてデジタル技術の導入が思うように進んでいないのも事実だ。対策を講じることができないまま現場の職員の負担だけが増え続け、気づいた時には身動きが取れなくなっていた、という事態に陥らないためにはどうすればよいのだろうか。
他の自治体に先駆けてRPAを導入したことで知られる茨城県つくば市には、全国の自治体から年間70〜80件もの業務改善に関する相談が寄せられているという。RPAを導入する際に課題となることや導入のポイントについて、つくば市総務部ワークライフバランス推進課業務改善推進係係長の三輪修平氏に話を聞いた。
ーまずは、つくば市のRPA導入の背景と成果について教えていただけますか。
市役所には定型化された単純業務が多く存在し、長時間労働の要因の一つとなっています。つくば市は繁忙期にはほとんどの職員が100時間以上残業する月があり、負担軽減が課題となっていました。そこで2017年7月に約400人の職員に対してアンケートを行った結果、4分の1もの職員が定型業務の改善が必要だと回答したのです。さらに業務改善について「何から始めればよいか分からない」「改善のための方法を考える時間もない」と感じている職員が多くいることが分かりました。
この問題を解決するために、私たちはRPAに着目しました。2018年1月から民間企業と共にRPAを活用した定型業務の自動化についての共同研究を始め、市民税課の5業務と市民窓口課の1業務を自動化し、約80%の時間削減に成功しました。現在20部署以上にRPAが導入され、業務効率化に役立てられています。
−最初に共同研究を行い成果を出すことで、RPAの効果が認知されたのですね。しかし自治体の中にはRPA導入を検討しているものの、なかなか踏み切れないところもあるようです。
まずどうやって上層部の理解を得るかという課題があります。上層部が予算を付けることに反対したり、自分たちの自治体では無理だと諦めているところもあるようです。RPAをはじめとしたDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めなければならないという危機意識を持った職員はどの自治体にもいると思うのですが、上層部の理解が得られないことで頓挫してしまっているようですね。RPAの導入が進んでいる自治体というのは推進担当者が強い意志で進めようとしているか、上層部の理解があるという印象です。
つくば市はその点「世界のあしたが見えるまち」というスローガンを掲げていることもあり、上層部に新しいことに積極的に取り組もうという姿勢がありました。むしろ他の自治体に先駆けて新しいことに取り組み、実証実験を行って結果を全国の自治体に公開したいと考えているため、積極的に後押ししてくれましたね。
しかし、上層部が舵を取ってしまうとどうしても下の人間がやらされていると感じてしまうので、推進担当者はできれば現場に近い立場の人間が望ましいです。RPAの導入当時私は役職についていなかったので、その点もよかったのではないかと考えています。推進担当者を上層部が後押ししてくれるような体制ができれば、その後はうまくいくことが多いような気がします。
−そうは言っても理解を得るのが難しいこともありそうです。思うようにいかない場合にはどうしたらよいのでしょうか。
つくば市でも、最初から全ての職員に理解してもらえたわけではありません。当初RPAに難色を示している管理職職員がいたのですが、その職員が昔手作業で行っていた業務をRPAで自動化し、実際に処理している様子を見せたところ「当時RPAがあったらよかったのに」という話になり、その後はRPA導入に積極的に協力してくれるようになりました。知っている業務をRPAで自動化し、具体的に何ができるのかを見せることは大きなインパクトがあるようです。
ー最初にRPAで業務を自動化している様子を見せることで、理解してもらいやすくなるのですね。具体的にどのようなことから始めたらよいか教えていただけますか。
まず簡単な業務を自動化してみるのがいいと思います。自治体の中にはかなり綿密に計画を立て、BPRをきちんと行って業務を見直してからRPAを導入しているところがあります。これは理想的な順序だとは思いますが、現実的には業務を見直しましょう、とただでさえ忙しい現場に呼びかけるとまず嫌がられてしまうのではないでしょうか。
そこで私たちは自動化対象業務がほとんど決まっていない段階で、簡単な業務を自動化し実際に動いている様子を見てもらいました。そうすると「これはすごいね」という話になり、他の職員も興味を示してくれます。その後はどうしたら日々の業務を効果的に自動化できるかを彼らが自分たちで考えるようになるので、とにかくまず実際に自動化してみることが大切です。
この段階では投資対効果は考慮しません。1時間や30分程度の業務を自動化したところで効果は知れていますが、実際に動いているところを見て感動し、自分もやってみたいと思ってもらうことが大事なので、細かいところは気にせずにとりあえず始めてみることを大事にしています。
最近は一定期間RPAツールを無償で使えるサービスもあるようです。無償で使える機会を活かし、現場のファーストペンギンを見つけて、とりあえず一緒に飛び込んでみてはいかがでしょうか。導入が決まっていなくてもまずは実際に触って何ができるか試してみることを勧めています。
−RPA導入は「まず始めて効果を実感してもらう」ことが大事ということですね。これはRPA以外についても言えそうです。RPAのほかにDX(デジタルトランスフォーメーション)の施策で効果を実感していることがあれば教えてください。
まだ試験段階なのですが、会議の議事録作成や電話応対などをAIを使って自動化すれば、かなりの効果が実感できるだろうと考えています。会議の中には内容を共有したり、記録して残しておかなければならないものがありますので、人が文字起こしをする手間をAIで省くことができれば随分と負担が軽減されることになります。また、電話応対は私たち職員が最も多くの時間を費やしている業務であり、これが自動化できれば業務改善が大幅に進むことになるでしょう。
ーコロナ禍による外出制限により、従来通りのサービスを行うことが難しくなっています。今後自治体におけるサービスはどうなっていくのでしょうか。
これまで対面で行っていたサービスが、非対面に切り替わっていくだろうと思います。市役所での手続きには本人確認が必要などの理由で、どうしても窓口に来ていただかなければならない場合があります。その際にタブレットを操作して必要事項を入力いただくとデータが基幹システムに自動で入力される、というサービスの実証実験を行いました。このサービスが実用化すれば、職員だけでなく市民の負担も大幅に軽減できるでしょう。
私たち職員の仕事が自動化され、それまで定型業務に使っていた時間が自由に使えるようになれば、市民に対してもより良いサービスが提供できるようになります。きっかけは職員の業務改善ですが、最終的には市民サービスの向上という形で市民にしっかりと還元できるようになるだろうと考えています。
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