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寡占が続くSDNが描く企業ネットワークの未来

SDNを中心とするネットワーク仮想化/自動化市場について、昨今の情勢からオフィスへの出社を制限する企業も増えていることから、リモート環境を含めたネットワークの柔軟な運用管理を可能とするネットワーク仮想化ソリューションのニーズは今後増加するだろう。本稿では、ベンダー別シェアとネットワーク仮想化に対する取り組みについて概観する。

» 2020年09月30日 08時00分 公開
[草野賢一IDC Japan]

アナリストプロフィール

草野賢一(Kenichi Kusano):IDC Japan コミュニケーションズ グループマネージャー

国内ルーター、イーサネットスイッチ、無線LAN機器、ADC(アプリケーションデリバリーコントローラー)、SDN、NFVなど国内ネットワーク機器市場の調査を担当。ベンダー調査に加え、ユーザー調査やチャネル調査にも携わり、それらの調査結果をベースに、国内ネットワーク機器市場の動向を検証、市場動向の分析および予測を提供する他、さまざまなカスタム調査を実施している。IDC Japan入社前は、エンジニアとしてユーザー企業のネットワークの設計、構築を担当。商品企画にも携わる。


クラウド化のニーズによって今後市場はどう変化するか

 国内ネットワーク仮想化/自動化市場について、主にSDN(Software Defined Network)を中心とする市場であるとIDCでは捉え、市場をデータセンター領域と企業ネットワーク領域に分けている。また、ネットワーク仮想化オーバーレイソフトウェアで構成される NVO Software(Network Virtualization Overlay Software)と、ネットワーク仮想化/自動化コントローラーで構成されるController Applianceに分けて、それぞれのベンダー別シェアを見ている。

 まず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に拡大する前に実施し、2020年4月に発表した国内ネットワーク仮想化/自動化市場と国内NFV(Network Functions Virtualization)市場の予測を見ていこう。

 データセンター領域と企業ネットワーク領域を合わせた国内ネットワーク仮想化/自動化市場において、2019年の実績は572億円だったが、2024年にかけては年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)8.2%で拡大を続けるとIDCは予測する。

 データセンター領域は、2019年では前年比16.3%の二桁成長を遂げており、今後もデータセンター向けネットワーク構築や運用における効率的な手段として成長を続けていくと考えられる。また企業ネットワーク領域においては、2019年度の成長率は8.7%と十分な伸びを示しており、2019年〜2024年のCAGRは7.1%と堅調に拡大すると予測している。

IDC Japan 出典:IDC Japan

 ただし、COVID-19の影響下にあった2020年6月に実施したネットワーク仮想化領域に関する調査によると、テレワークが広がる状況の中で、IaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Servic)などクラウド活用に重きを置く企業が増加傾向にある。オンプレミス運用が中心のデータセンターに対する投資の優先度が以前よりも低下する可能性を秘めており、オンプレミスのリプレースや次世代化を進めていくべきかどうかを尻込みする担当者が出てきているのが現状だ。

 つまり、順調に成長を続けてきたデータセンター領域におけるSDNは、少し風向きが変わりつつあると見ている。いずれにせよ、クラウド化のニーズが企業ネットワーク環境の変革を後押しする可能性は十分に考えられる。

ネットワーク仮想化のベンダー動向、各領域で高いシェアを占めるのは?

 2019年におけるネットワーク仮想化/自動化プラットフォームのベンダーシェア(売上額ベース)を見ていこう。ソフトウェアとアプライアンスでは構成の違いで売上額も大きく変わってくるため、ここではNVO SoftwareとController Applianceのそれぞれの領域でのベンダーシェアを紹介する。

ソフトウェア市場で圧倒的なシェアを占めるVMware

 まず、NVO Software領域では、76%を超えるシェアを占めるのがVMwareであり、「VMware NSX Data Center」をすでに導入している企業が実績と導入効果を評価した上で、データセンターへの展開を進めている。「VMware vSphere」をプラットフォームとして採用している場合、サーバやストレージの仮想化基盤との関係性を考えれば当然の選択肢だろう。Big Switch Networksを買収したArista Networksの「Big Cloud Fabric」をはじめ、Juniper Networksの「Contrail」や、Nokiaの「Nuage Networks」といったソリューションもあるが、強固な顧客基盤を有するVMwareが優位であると考える。

アプライアンスでは6割超えのシスコシステムズ

 Controller Appliance領域では、シスコシステムズが66.7%と圧倒的なシェアを占めている。データセンターネットワーク向けの「Cisco ACI(Application Centric Infrastructure)」と企業ネットワーク向けの「Cisco DNA Center」の2本柱で構成されており、Cisco ACIはデータセンターネットワーク向けで安定した地位を維持している。もともとプラットフォームとしての物理スイッチで高いシェアを占めているだけに、SDNを実装しやすい点がシェアの獲得につながっていると考える。

 ただし、企業ネットワーク領域では、物理スイッチや無線LANのアクセスポイントといったネットワーク機器の制御が中心となるため、SDNによる高度なネットワークの自動化を実現するCisco DNA Centerのようなアプローチだけでなく、遠隔地にあるネットワーク機器の可視化や設定の自動化といったニーズも根強くある。具体的には、最近無線LANにも注力するアライドテレシスの「AMF」(Autonomous Management Framework)やNECが提供する「UNIVERGE Network Operation Engine」などだ。企業ネットワークにおける運用管理の一つの形として注目されるところだ。

IDC Japan 出典:IDC Japan

 なお、SDNコントローラーという位置付けではないためシェアには含めていないが、拠点の物理スイッチや無線LANのアクセスポイントの柔軟な管理と可視化を実現するクラウド管理型ソリューションも、企業ネットワークにおける可視化や自動化に向けた環境づくりには役立つものであり、注目したいところだ。

データセンターネットワーキングを変革するか、買収で注目のNVIDIA

 SDNにおいて注目されるのは、NVIDIAによるSDNベンダーの買収の動きだ。2020年4月にデータセンター向けのインターコネクト企業であるMellanox Technologiesを、そしてネットワークOSを提供するCumulus Networksを買収し、データセンターネットワーキング関連のポートフォリオの拡充に向けて動きを見せる。具体的にどんなソリューションが登場するのかは未知数ながら、その動きに注視したい。

 ソフトウェアによってWANを制御するSD-WAN領域についても、SD-WANソリューションを展開するSilver PeakをHPEが買収し、同社のAruba Networksと統合する動きや、NTT東西がSD-WANのマネージドサービスの提供を開始するなど、SD-WAN市場の動きも活発化することが予測される。今後の企業ネットワークの形を左右する動きになる可能性もあるため、こうした動きも見ておきたい。

企業ネットワーク構築において必要となる視点とは

 企業が今後ネットワーク構築において、どのような視点ともって検討を進めるべきなのだろうか。特に重要な視点となるのが、今後活発化が予想されるクラウド活用を視野に入れることだ。COVID-19の拡大以前は、「Microsoft 365」やSaaSアプリケーションによるトラフィックはネットワーク担当者にとって頭の痛い問題と考えられていた。それに加えて、現在では「Microsoft Teams」や「Zoom」といったWeb会議ツールのネットワークトラフィックにも焦点が当たる。企業のクラウドアプリケーションの活用方法に合わせて、考えていくことが求められる。

 従来のようにデータセンターを経由して全てのクラウドアプリケーションを利用する環境から、ローカルブレークアウトによって直接インターネットに接続するなども検討する必要があるだろう。その流れに合わせて、ゼロトラストネットワーキングといった考え方を取り入れることも必要になってくるはずだ。

 利用が急増したVPN(Virtual Private Network)によるリモートアクセスも、費用面を考慮した上で恒久的な環境として利用するべきかどうかの検討を迫られている。2020年8月には、VPNの認証情報の漏えいが発生するなど、VPNに関する課題も顕在化しているため、これまで以上に、ゼロトラストネットワーキングという視点でネットワークを考えざるを得ないだろう。

 リモートアクセスの環境を短期的な視点で見ている企業も、今後の働き方やオフィスの在籍率なども見据えた上でネットワークの整備を検討する必要がある。もちろん、ビジネス環境が見通しにくい今は予算も十分に確保できない状況にあるため、市場動向を見ながら徐々に検討していくことになるだろう。

 すでにベンダーからは、自宅などテレワーク環境において利便性とセキュリティを両立させるために、ゲートウェイ機器や無線LANアクセスポイントを配布してIT管理者が管理する境界を自宅にまで広げることが可能なソリューションも提供されている。企業側でも、自宅を含めた遠隔地までをも企業ネットワークとして捉える傾向が高まる可能性もあり、運用管理の境界線を拡張する可能性は十分に考えられる。

 いずれにせよ、企業ネットワークを考える上で、エッジも含めて管理対象が広がる可能性があり、IT管理者のリソースが十分に確保できない状況下では、“ソフトウェアデファインド”の視点を取り入れた管理手法でなければ、現実的に耐えられなくなることが想定される。程度の差こそあれ、ネットワークの効率的な運用管理を実現するための、SDNやSD-WANといったテクノロジーを取り入れていくことが必要になってくると見ている。

 これまでの企業ネットワークは、「どのベンダーのスイッチを選択するのか」「どの無線LANを選ぶのか」といった視点が考えの中心にあったが、今後はSDNコントローラーや無線LAN端末が提供する運用管理手法やクラウド管理手法が自社に適しているかどうかなど、日々の運用管理視点でネットワーク全体を俯瞰(ふかん)し、経営者が考えているアジェンダに対して何が最適なのかといった見方が重要になってくるだろう。

 何十年もわたって積み上げられてきたネットワーク管理の手法をそのまま踏襲するのではなく、ゼロベースの思考であらためて考え直す時なのかもしれない。もちろん、COVID-19以前の状況に戻る可能性はゼロではないが、ネットワーク環境を見直す絶好の機会として捉えるべきだろう。

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