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これからどうなる5G 日本での活用方法は……「おすし」?【最新事例集】

本格利用の始まった5G。世界各国の5G活用事例を紹介する。

» 2020年11月10日 09時00分 公開
[加山恵美キーマンズネット]

 2020年10月に5G対応の新型「iPhone」が発売され5Gは身近なものになりつつある。本稿では、ローカル5Gとモバイルエッジコンピューティング、ネットワークスライシング、Open RANなどを中心に、企業向け5G事例と今後の展望をITRのチーフ・アナリスト、マーク・アインシュタイン氏が解説する。

世界各国の5G活用事例

 Vodafoneでは、教育向けの拡張現実(AR)や仮想現実(VR)ソリューションに5Gのスタンドアロンネットワークを活用している。これまでは、AR、VR機器はケーブルでPCなどと接続していたために、動きづらいなどの問題があったが、ワイヤレスになったことで利便性が大きく向上した。

 ベライゾン・コミュニケーションズは地図データ事業者のHEREと協力し、交通分野で精度の高い地図情報サービスを提供している。渋滞情報などを正確かつ迅速に地図に反映している。

 ノルウェーでは日本に多く出荷されているサケの養殖が盛んで、これまでは4Gでモニタリングをしていたが、通信回線を5Gにしたことで、より詳細なデータを取得できるようになった。監視画像が鮮明になることでエサを食べている様子や健康状態をすぐに把握できるという。

 韓国のKorea Telecomは、緊急事態向けの5G活用の準備を進めている。例えば、自然災害でモバイルネットワークが寸断された地域があれば、飛行船からシグナルを送信してモバイル通信を可能にする。他にもドローンで医療物資や食料を届けることも計画している。

 同じく韓国のSK Telecomは5Gでデジタルツインを実現している。これまでも重工業分野においてデジタルツインの活用が進んでいたが、5Gを活用して、デジタルツインによるモニタリング環境を実現した。関係者によると、実際に事故防止につながったという。

 また、オランダのT-Mobileではロボットアームを用いて遠隔で入れ墨の施術を成功させた。これは5Gの低遅延性が寄与し、遠隔医療へと発展が期待されている。特に新型コロナウイルス感染症患者を非接触治療したり、遠隔地から外科手術をしたりするなど、医療の可能性を広げそうだ。

 新型コロナウイルス感染症との関連についても触れておこう。2020年は世界中が新型コロナウイルス感染症に翻弄(ほんろう)され、日本における5G展開にも少なからず影響を与えた。

 「自宅待機要請で労働力が確保できなかったという話もあったが、これは短期的な影響でしかない。新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークが増え、都会から郊外に人が移っている。これは通信トラフィックにも影響する。これまで5Gの展開は都市部先行で進められてきたものの、人の動きに合わせて展開計画は見直しが必要になるかもしれない」と、アインシュタイン氏はトラフィックパターンの変化を指摘する。

 中国では新型コロナウイルスに関連して5G活用が顕著に進んだ。医療機関では患者が家族や親戚と話す、ロボットが消毒作業するなどのシーンで、公共における衛生管理ではカメラで検温するなど、感染防止のための非接触を実現するために最新技術と5Gが活用された。

日本での活用事例とは?

 ここからは5Gに関するトレンドについて、いくつかピックアップして見ていこう。まずは日本で注目を浴びている「ローカル5G」だ。これは和製英語で、海外では「Private 5G」と呼ばれている。広域で利用できる従来型とは異なり、企業ネットワーク内など限られたエリアで5Gを展開できる。周波数も一般向けとは異なる。

図Private 5G Network Architecture

 限られた領域で展開し、ネットワーク構成を柔軟に構築できる。インターネットと接続しないようにもできるため、外部からの攻撃を防ぐなどセキュリティを高められる。ミッションクリティカルなシステムを持つ大企業や軍事、原子力発電所など機密性が高い分野に適している。

 実際に米国では軍事、ドイツでは製造業、韓国では発電所などで導入が進んでいる。日本では三菱電機が愛知県の製造工場で使うために5Gのライセンスを取得し、秋田ケーブルテレビはスマート農業での利用を目指して5Gライセンスを申し込んでいる。

 続いて「モバイルエッジコンピューティング」だ。この分野で進んでいるのはドイツテレコムの支援を受けた米国企業MobiledgeXだ。特徴は「Cloudlet」と呼ばれるサーバをネットワークエッジとデータセンターの間に追加し、遅延を低下させている点にある。

 今後はデバイス上の処理が進んで行くとみられる。例えば「AIStorm」はAIチップをエッジデバイスに埋め込み、エッジで顔認証を行う。エッジで処理ができると通信量が減り、デバイスの消費電力を減らすこともできる。

 面白い事例をいくつか紹介したい。ボルボは車に動物を画像認識する機能を実用化した。北欧ではトナカイやヘラジカなど大型動物が道路に飛び出すことで交通事故が発生し、死傷者が出ている。事故防止には、動物の検知機能が重要になる。なおオーストラリアではカンガルーで同様の取り組みがあるものの、カンガルーはジャンプするため認識が難しいという。

 小売業では、レジコーナーでの商品の画像認識や在庫管理にも使われている。日本だと回転ずし店で回転台に乗せる皿を管理することで、すしの鮮度やカスタマーエクスペリエンスの向上につながっている。

 2021年、日本でも進展が見られそうなのが「5Gネットワークスライシング」だ。例えば野球球団なら、試合がある時間帯だけネットワークの接続性を高められ、雨で順延になれば変更することもできる。必要な時に必要なだけ、ブラウザなどから設定可能だ。

 ネットワークスライシングは多くの分野、特にコネクテッドカーやヘルスケア分野での多様な活用が期待される。他にもドローン、スマートグリッドが主な適用領域となりそうだ。

 海外で注目されてきているのが「Open RAN(Open Radio Access Network)」。従来型のRANは既存のモバイルネットワークであり、基本的にスイッチやルーターなどハードウェアで定義されたものとなる。すでに登場しているvRAN(仮想化されたRAN)はL3以降でソフトウェア定義がなされているものの、単一のベンダーが提供する。

図 Traditional RAN vs. vRAN vs. Open RAN

 Open RANになるとさらにソフトウェア定義が進むだけではなく、オープンスタンダードを採用しているのが特徴だ。クラウドをベースにしている割合も高い。「クラウドを通信ネットワークに入れていくのがコンセプト」とアインシュタイン氏は表現する。オープン化されているため、複数ベンダーを組み合わせることができる。例えばハードウェア、ソフトウェア、ネットワークインテグレーション、サポートなど、価格や性能などでベストなベンダーを選び、カスタマイズすることが可能となる。

 日本でOpen RANの事例を持ち、先頭を走るのが楽天モバイルだ。「プラン料金1年間無料キャンペーン」を提供できたのは、コストを抑えられるOpen RANを採用しているところも大きい。アインシュタイン氏は「今後Open RANが普及していくとローカル5Gが安くなり、企業レベルのWi-Fiのようになり爆発的に増えていくだろう」と見ている。

 英VodafoneでもOpen RANの準備が進んでいる。2027年までにHUAWEIの設備を排除することが背景にあり、代替を模索しているところだ。主に郊外エリアをカバーするために使われる見込み。まだ発展途上の新しい技術ではあるものの、相互運用性やコスト面において「とても期待できる。近々話題になるだろう」とアインシュタイン氏は言う。

 最後のトピックは「6G」。5Gが出始めたところだが、すでに次の6Gの準備が始まっている。2030年をめどに商業化が進む見込みだ。まだ10年もあるのに話題にする理由をアインシュタイン氏は「日本にとって6Gが重要だから」と話す。日本は5Gにおいては中国に先行されてしまい強い競争力を持たないが、6Gには可能性がある。

 6Gはピークのデータレート(速度)は1000Gbps、つまり1Tbpsと提案された。5Gだと20Gbpsなので、理論値ではあるもののざっと50倍になる。遅延はほぼゼロに近くなると設計されている。パフォーマンスに明らかな違いをもたらすことになるだろう。

 加えて6Gで使う周波数は100GHzになるだろうと見込まれており、スマートデバイスに新しい可能性をもたらすとされている。例えば空港で手荷物をスキャンする時にスマートフォンやスマートグラスを用いることができるかもしれない。

 5Gネットワークは高速化を実現したものの、個人消費者向けサービスではまだ収益化できていない。そのため5Gは大企業向けにフォーカスしていくようになるだろう。モバイルエッジコンピューティングやネットワークスライシングのような新技術は近いうちに急速に伸びていく。またオープンスタンダードで構成されるOpen RANはネットワーク展開コストを下げるため、普及が進むとされる。6Gは2030年の商用化を目指し、研究開発が始まったところだ。新たな展開が期待され、日本にとってはチャンスでもある。

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