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クラウド健康管理システムとは 健康管理業務が必要な理由、システム導入のメリットと選び方

従業員の健康状態を管理する「健康管理業務」。健康管理業務は、これまで人事部や総務部が中心となって人手で実施してきた。基幹業務のクラウド化の波にならって、健康管理業務をサポートするクラウド型「健康管理システム」にもにわかに注目が集まっている。本稿は健康管理業務とクラウド型健康管理システムについて説明する。

» 2020年12月14日 06時30分 公開
[指田昌夫キーマンズネット]

 人事や総務部門から健康管理や残業の削減、ストレスチェックなどの指示が以前よりも増えたと感じている人は多いのではないだろうか。これらは全て「労働安全衛生法」という法律で企業に義務付けられている。同法は1972年に労働基準法から派生した従業員の健康管理に特化したもので、企業や学校といった法人が、従業員に労働させるに当たって守るべき項目を定めている。

 健康管理業務と一口に言ってもその内容は複雑だ。基幹業務のIT化のトレンドにならい、健康管理業務をITでサポートする「健康管理システム」が、コロナ禍でひときわ注目を集めている。クラウド型の健康管理システム「Carely」を提供するiCAREの中野雄介氏(取締役 CRO/健康経営アドバイザー)に、健康管理システムとは、そもそも健康管理業務とは何か。企業がサービスを選ぶ際のポイントはどこにあるかを聞いた。

健康管理業務とは? 管理義務があるのは日本だけ

 中野氏によると企業に対して、従業員の健康管理義務が法律で定められているのは日本だけで、欧米をはじめ海外にはほとんど例がないという。従業員に健康診断を受けさせるというのも日本特有だそうだ。

 日本における健康診断などの労働安全衛生の取り組みは、1950年代に、結核や狂犬病などの確認を企業に求めた法律に端を発する。それらの伝染病が収束した後、1970年代から定期健康診断などの実施に形を変えてきた。

 iCARE代表取締役CEOの山田洋太氏は、産業医として働く医師だ。 産業医は、企業と契約して従業員の健康診断やストレスチェックの結果をチェックし、企業の健康管理体制に助言指導することを仕事にしている。企業は産業医を選任して労基署に届ける法的な義務がある。iCAREは、山田代表が、産業医として企業の健康管理の現場を見て感じた課題を解決するために2011年に設立した企業だ。

人手による健康管理の限界、健診から逃げ回る従業員という負担

 企業は、全ての従業員に対して、定期健康診断などを受けさせる義務があるため、その手配をしなければいけない。通常、その業務は人事部または総務部が担うことがほとんどだ。

 まず、健康診断の予約を取る作業が煩雑だ。病院やクリニックは基本的に電話、FAXでしか受付をしていない。さらに、従業員が予定した日時に急に仕事が入った場合など、いわゆる「リスケ」をすると、もう一度予約のやり直しになる。担当者の負担は非常に重い。「この作業がいかに大変で、いかにアナログかということです。どこの企業も苦しんでいます」(中野氏)

iCAREの中野雄介氏

 さらに、どんなに企業側が働きかけても、健康診断を受診しない従業員が一部残る。「忙しいから」などといって逃げ回る従業員に対するフォローも、企業がしなければならない。健康診断を受けさせて終わりではなく健康診断の結果は、本人だけでなく、企業側にも送られる。

 「企業側は、従業員の健康診断の結果を一人一人チェックします。問題がある人、例えば脳出血、脳梗塞、糖尿病などの疑いがある場合は、仕事をさせてはいけないと法律で決まっています。そこに至らない場合も、悪いところは改善させていく義務が発生します」(中野氏)

ストレスチェックと労働時間の管理で負担増

 さらに2015年からは健康診断で身体の病気をチェックするだけでなく、心の病気をチェックする「ストレスチェック」の義務も追加された。厚生労働省は従業員50人以上の事業所に対して、年1回のストレスチェックとその結果による面談を義務付けている。

 「この制度は、その前年の2014年に起きた電通社員の自殺が大きなきっかけになり、できたといわれています。従業員が抱えるストレスは社会の課題だということが定着し、心の状態をチェックすることを企業に求めているものです」(中野氏)

 テストは簡単で5分程度で終わるものだが、その結果を集めると、多くの企業で1割程度「ストレスが高い」という従業員が出てくる。その人たちに対して、企業は産業医との面談をさせなければいけない。「健康診断と同様に、企業はストレスが高い従業員を改善させる義務があるということです」(中野氏)。

 身体の健康診断、心のストレスチェックに加えて、企業に課せられた第三の義務が長時間労働の是正だ。

 2019年に、働き方改革関連法が制定された。同法は、長時間労働を改善しない企業に対して罰金を課すという異例の処罰が定められている。仮に長時間労働者がいなくても、「いない」と報告しなければいけないため、企業に対して労働時間の管理を徹底させるものとなっている。ストレスチェックと連携し、過労死や過労のストレスによる自殺を無くそうという国の狙いがある。この結果、多くの企業が従業員の健康管理、ストレスチェック、長時間労働の是正に向けた取り組みを進めている。

 このこと自体は、非常に意義のある取り組みである。だが、企業でこれらの運用を担当する人事、総務部門の負担はますます増しているのが実情だ。特にアナログな作業が非常に多く、担当部署が業務に追われると対応が遅れていく。その結果、身体やメンタルに問題がある、あるいは過労に見舞われている従業員へのケアが遅れていく。その上、人事、総務部門の従業員自身が、長時間労働に追い込まれる本末転倒の事態になりかねない。

 この問題を産業医として現場で見ていた山田氏が、なんとか状況を改善したいと思い、作ったサービスがクラウド健康管理システム「Carely」(ケアリィ)である。

 中野氏はいう。「法制度で定まっているのだから実施できない企業が悪いという意見もありますが、全て企業の問題として片付けるわけにはいきません。現状のやり方では煩雑すぎて、企業の中で運用を回すことができないことにも問題があります。Carelyは、その問題を解決するためのクラウド健康管理ソリューションです。企業の健康管理業務が楽に進められれば、病気やストレスを抱える人が少なくなると信じています」

 また、コロナによって、健康管理システムへの注目は急速に高まっていると中野氏はいう。「コロナ禍で、企業はテレワークを進めるにあたり、人事や総務などの間接部門を積極的に在宅勤務に移しています。ですが、従業員の健康診断の結果が企業に郵送で送られて来た際に、それを会社に見にいかなければいけません。従業員の健康管理を担う担当者が、危険を冒して出社する皮肉な事態になっています」。多くの企業で、どう対策したらいいのか分からない状況になったという。

 また、基礎疾患がある場合の医師の診断書など、従業員の健康状態を記載した情報は、通常企業内に物理的にファイリングしてある。コロナ禍で、自社の誰が感染した際の重篤化のリスクが高いのかなどの情報も、やはり出社しないと分からない。ここも大きな問題となっている。それらの対策を考える企業から、クラウド化したいという要望が増加している。

企業の健康管理業務を4分の1に軽減

 クラウド型健康管理システムで、一体何ができるのか。Carelyの機能は、大きく三つに分かれている。まず「健康情報の一元化」が図れることだ。健康診断の実施状況を一括して見られ、紙で送られてくる健康診断の結果もiCAREが預かり、データ化してクラウド上のシステムにアップロードする。企業の担当者はシステムにログインし、従業員の過去の健康診断の結果、医師の診断書などを含めて、健康に関する情報をチェックすることができる。

健康診断受診状況を一括で見られる(提供:iCARE)

 サービスの利用開始時に、過去の情報を何年前まで入れるかは企業の判断だが、経過を見る意味で2年前程度の企業が多いという。法的には過去5年分の情報を保管しておかなければいけないが、データ化すれば紙は破棄してもよい。

 過去のデータを一覧できるので、例えば年々体重が増加している従業員には、生活習慣の改善などのアドバイスを出すこともできる。ストレスチェックの情報も同様に、過去のデータも含めて管理できる。

ストレスチェックの部署別スコアを一元管理(提供:iCARE)

 加えて、労働時間の管理も可能だ。自社で勤怠管理システムを導入していれば、そのデータを取り込んで労働時間の管理を健康管理と連動させることができるのも特徴だ。

過重労働防止のため、残業時間の管理も可能だ(提供:iCARE)

 二つめは、健康診断の結果から、結果が悪い人を自動的にピックアップする機能だ。「健康診断の結果は従業員の健康リスクですが、同時に企業にとっては労務リスクです。これをシステムが自動的に抽出してくれるので、企業のリスク管理にとって極めて有益です」(中野氏)

 特に従業員が1000人を超えるような企業では、健康診断の結果を1人ずつチェックするのは途方もなく大変な作業だ。また人間が見る限り、見落としもあり得る。それをデータ化した上で、システムが自動的にチェックし、異常値にアラートを出してくれれば、間違いは起きない。

 「結果が悪い人のアラートはシステムが出しますから、今までチェックに充てていた時間を、本来人事の方がすべき従業員のケアに使ってください、といつも話しています」(中野氏)

 そして三つめは、健康相談の自動化だ。健康状態の悪い従業員に対して、何かしらのケアをしていく必要がある。だが、医師の診断が必要なほどではないが、リスクが高まってきた人への対応は、リソースが足りず十分にできないのが企業の実態だ。

 そこでCarelyでは、従業員自身がシステムから専門家にチャットで相談できる機能を設けた。iCAREでは山田代表をはじめ、医師の資格を持った専門職員が常駐しており、契約先企業の従業員からの相談に対応する態勢を整えている。健康診断、ストレスチェック、長時間労働の全てに対して、リスクの高い従業員に直接健康指導している。

 「当社の試算では、一般的な企業にCarelyを入れることで、健康管理の業務量をおよそ4分の1に削減することができます。同時に、法令を順守した運用管理が継続的に可能です」(中野氏)

 さらに、健康管理システムのクラウド化は従業員にもメリットがある。Carelyを例とすると、同サービスには個々の従業員向けのページも用意され、自分の健康診断やストレスチェックの結果を過去にわたって確認できる。また病院で受診しているときに、過去の健康診断の結果を医師に見せて診断の参考にしてもらうことができる。

長く使うにはユーザーインタフェースが重要

 企業が健康管理システムを選ぶ際、何に気を付ければいいか。中野氏は「『健康管理システム』という名称の商品、サービスの範囲は非常に広く、内容は各社によってさまざまです。最近ですと、受付に置かれる体温確認のシステムも健康管理システムといわれています。ですので、自社の課題がどこにあり、何を改善し、効率化するためにシステムを入れるのかをしっかり検討してから、サービスを選ぶべきです」とアドバイスする。

 Carelyは、コロナにかかわらず、企業が毎年実施しなければいけない健康診断、ストレスチェックのデータ管理にフォーカスしており、企業の法令順守と間接業務の大幅な効率化を実現するシステムだ。「コロナでわかったことは、企業の義務として必ずしなければいけない業務をシステム化し、DXすることの重要性ではないでしょうか。既存の仕事を効率化しておくことで、コロナ禍で必要になる突発的な業務に対応する余力を残しておかなければいけないと思います」(中野氏)。

 じつは、健康管理システムは大手のITベンダー各社が長年手掛けている。そこからクラウド型の健康管理システムに乗り換えるケースも多いという。「大手ITベンダーの製品のほとんどはオンプレミス型なので、基本的に出社しないと使えない製品です。それではテレワークに対応できないので、クラウド型に切り替えたいという企業が増えています」

 また中野氏は、長く使い続けられる機能と使いやすさも重要だという。「過去に健康管理システムを導入していた企業でも、いつの間にか使われなくなったケースが多いようです。使い勝手に問題があったのではないでしょうか。システムを選ぶ際は、使いやすいことも確認して決めた方がいいと思います」

 先が見通せない時代だからこそ、企業が変化にスピーディーに対応するには、従業員の健康管理がまずもって必要だ。同時に、企業のコンプライアンス面でもしっかりした運用が求められる。クラウド健康管理システムはこれからの企業に取って欠かせない装備となるだろう。

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