オフィスでの勤務が中心だった頃は、コストをかけて導入したビデオ会議専用端末でグループ会議を行うこともあっただろう。しかし、テレワーク全盛の現在、会議もリモートで済ませるケースが目立ってきた。このテレワーク時代、社内に残された専用端末を有効活用する方法を本連載で解説する。
急激なテレワークシフトが進む中で、コミュニケーション基盤として利用されている「Microsoft Teams」。最近、これまでビデオ会議専用端末を利用していた顧客企業から、「Microsoft Teamsとビデオ会議専用端末を連携させてグループ会議で活用したい」という要望が当社に多数寄せられています。ですが、Microsoft Teamsとビデオ会議専用端末を直接接続することができない点を理解されていないのが現状です。
本連載では、テレワーク全盛の現在、Microsoft Teamsと接続して社内に残されたビデオ会議専用端末を有効活用する方法や、運用面で注意すべきこと、コミュニケーション基盤の整備方法などについて解説します。
連載第1回となる本稿では、ビデオ会議専用端末とMicrosoft Teamsの違いについて解説します。
2005年5月にVTVジャパンに入社。現在大阪オフィスで勤務。営業職を経て、2013年に営業企画チームに配属。メールマガジン「VTVジャパンメールニュース」の編集長として、オンライン会議やビデオ会議、Web会議、周辺機器など、ビジュアルコミュニケーションにまつわる最新情報やリアルな現状を毎月1回配信中。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に広がる以前、高品質な音声と映像を提供するビデオ会議専用端末は、主に会議室に複数人が集まって多拠点をつなぐグループ会議などで使われていました。特に意思決定など役職者が参加する重要な会議の場合は映像や音声の品質が問われるケースが多いため、テレビ会議専用端末が広く利用されていたのです。
一方で、担当者同士の打ち合わせには、PCで手軽に利用できるWeb会議システムが使われています。また、会議室に設置されたビデオ会議専用端末とPCにインストールされたWeb会議システムを連携させたミーティングの方法も広がり、双方が融合したソリューションも数多く登場しました。
しかし、COVID-19の流行によって、従業員の出社を控える動きが進み、自宅で業務を継続するテレワークへの移行を進めざるを得ない状況となりました。そうした状況下で、テレワークにおけるビジネスコミュニケーションツールの一つとして利用が進んだのがMicrosoft Teamsです。Microsoft Teamsが多くの企業に受け入れられた理由として、Microsoft 365を契約している企業が多かったことがあり、追加投資の必要がなく即座に利用できたことが考えられます。
ビデオコミュニケーションのツールとしては、コロナ禍でツールを無償開放した「Zoom」をはじめ、Googleの「Google Meet」、シスコシステムズの「Cisco Webex Meetings・Teams」などもテレワーク環境下でのミーティングで広く利用されました。一部のツールについては、セキュリティ問題も取り沙汰されるなど、企業で推奨するツールには至らないものもありました。
その点、Microsoft 365のライセンスを保有していれば即座に利用できるMicrosoft Teamsは、企業に受け入れられやすいツールだったと言えます。テレワーク環境下でも意思決定が求められる案件は発生するため、重要な会議においてメール以上のリッチなコミュニケーションが必要な企業にとっては、ライセンスを契約していれば利用できるMicrosoft Teamsは、まさに渡りに船だったわけです。
2021年現在も予断を許さない状況が続いていますが、2020年5月に1度目の緊急事態宣言の解除後、限定的ではあるものの、出社する人数を制限しながらもオフィスへの出社を許可する動きが見られました。出社率はコロナ禍以前の状況とまではいきませんでしたが、日常的にオフィスへ出向く人も増えていました。VTVジャパンの営業部では、週2日テレワークを実施し、社内外とのコミュニケーションには、Microsoft TeamsやWebex、BlueJeansといった相手に都合の良いWeb会議ツールやサービスを利用しながら、業務を進めています。
そうした中で、当社の顧客企業から要望として寄せられているのが、これまでグループ会議で利用してきたビデオ会議専用端末と、テレワーク環境で幅広く利用してきたMicrosoft Teamsを連携させて活用したいという声です。これまで複数拠点をつないだ重要な会議のインフラづくりに投資してきた企業も少なからずありますが、高品質なビデオ会議専用端末を使いながらも、使い方に慣れてきたMicrosoft Teamsを連携させ、ニューノーマル時代の新たなコミュニケーション環境を整備したいという声が出てくるのは自然な流れと言えるでしょう。
ただし、中には緊急対応措置としてMicrosoft Teamsを導入した企業もあり、音声や映像の品質などを十分に検証した上でツールの利用を許可した企業はそう多くないのが実態です。もちろん、ビデオ会議専用端末との接続性も含めて考慮したわけではないため、「ビデオ会議専用端末との連携にどの程度費用がかかるのか」「ビデオ会議専用端末の品質が維持できるのか」「運用管理面で負担はかからないか」など、具体的にイメージがわいていないほう企業も少なくないはずです。
ニューノーマル時代にふさわしいコミュニケーション基盤として、どのような形が理想的なのか、多くの企業が模索し始めているわけです。
ビデオ会議専用端末とMicrosoft Teamsの接続方法の前に、まずはビデオ会議専用端末とMicrosoft Teamsの仕組みの違いを理解しておく必要があります。
ビデオ会議専用端末は、専用のシステム(ハードウェア)を使い、Web会議はそのエンジンをPCに持たせ、利用者はPCを操作して会議に参加します。どちらの方法でも音声と映像を使ったビジュアルコミュニケーションや、「Microsoft PowerPoint」や「Microsoft Excel」などのファイル共有が可能です。しかし、技術的には大きな相違点があり、一足飛びに双方を連携させられるわけではありません。
ビデオ会議専用端末は、コーデックと呼ばれる映像や音声を変換するためのハードウェアを会議室に設置し、ビデオ会議専用端末同士がPoint to Point(P2P)通信をすることで音声と映像をやりとりします。このコーデックには、カメラやマイクを個別に接続するものと一体型のものがあります。複数拠点同士を接続する場合は、MCUと呼ばれる多地点接続装置にビデオ会議専用端末を接続することで実現できます。コーデックにも複数拠点を同時に接続するためのMCU機能が備わっていますが、3〜5拠点などの制限付きです。全国に展開する各拠点に設置されたビデオ会議専用端末を同時に接続するには、MCUもしくはMCU機能を備えたクラウドサービスを利用する必要があります。
ビデオ会議専用端末の場合、接続手順が国際規格で決められており、IPネットワークで利用する場合は1997年にITU-Tで標準化された「H.323」と呼ばれる規格が利用されています。このH.323は、呼び出すためのシグナリングの手順以外にも、音声や映像の送受信や音声、映像コーデックについても規定されており、長く利用されてきたことで安定した環境を整備できます。このH.323に準拠していれば、異なるビデオ会議端末メーカーの製品同士でも接続することが可能です。
近年ではIETF(Internet Engineering Task Force)が標準化した「SIP」と呼ばれる、インターネットとの親和性が高い規格を利用するケースも増えています。なお、ビデオ会議専用端末においては、アナログ映像をデジタル化するための映像圧縮符号方式として「H.264」と呼ばれる規格が採用されているケースが一般的です。
Microsoft Teamsなど Web会議ツールの仕組みは、PCにインストールされたソフトウェア、もしくはWebブラウザがコーデックの機能を果たすもので、MCU的な役割を果たすサーバに対してPCが通信します。ビデオ会議専用端末同士が接続するP2P通信とは異なり、クライアントとなるPCはサーバとだけ通信する形で接続を確立します。
つまり、最初にサーバにログインすることで接続が開始されるクライアントサーバ方式の通信となります。基本的には1対1であってもサーバが集中的に制御することになるため、自社で立てた管理サーバ、もしくはサービス提供事業者が設置したサーバへアクセスすることで通信が確立します。映像や音声については、PCに内蔵されたマイクやカメラを利用することはもちろん、USB接続された外部カメラやマイクを利用することも可能です。
Web会議ツールの場合、ソリューションによってはH.323に準拠した仕組みも存在していますが、ソリューションごとで独自仕様となっていることが多く、異なるメーカー間の互換性はありません。ただし、広く普及しているビデオ会議専用が端末との接続が可能なソリューションは存在しており、ゲートウェイ的な環境を用意することで、ビデオ会議専用端末とWeb会議ツールの相互接続を果たします。
Microsoft Teamsも他のWeb会議ツールと同様に、Microsoft Teams独自のプロトコルで動作するため、例えばZoomといった異なるWeb会議ツールとの接続はできません。あくまでMicrosoft Teams同士を接続するために最適な環境を提供しています。
ここまで見てきた通り、ビデオ会議専用端末とMicrosoft Teamsには、標準的な国際規格が用いられているか否かという大きな違いがあることがお分かりいただけたはずです。この2つの仕組みをうまく連携させたいという声が多く寄せられているわけですが、そもそも両者の仕組みの違いを理解しておくことが大切です。
次回は、Microsoft Teamsの仕組みにテレビ会議専用機を組み込むための3つの方策と課題について解説します。
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