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オフラインでのデータ保護に欠かせない「テープバックアップ」とは

企業の貴重な情報資産を守るために必要なバックアップ手法の一つとして長年活用されてきたテープバックアップ。本稿では、“テープバックアップの今”を改めて振り返る。

» 2021年06月28日 07時00分 公開
[酒井洋和てんとまる社]

バックアップに用いられる磁気テープとは

 1950年代に巨大なオープンリール型の商用データ記録磁気テープが登場したのを皮切りに、多くの企業においてシステムバックアップに利用されてきた磁気テープ。テープの上のフィルムに塗布された粉末状の磁性体を磁化し、さまざまな情報を記録する仕組みだ。つまり、「0」と「1」の配列で記録されるデジタル情報と同じように、磁性体をS極とN極に磁化し、S極とN極の配列によってテープにデータを記録するもので、この磁気テープが納められたカートリッジをドライブやオートローダーといった装置に挿入し、情報を記録する。

 企業がバックアップ用途に使ってきた磁気テープは、2000年代には多くの規格が市場に展開されていたことは、ご存じの方も多いだろう。エントリークラスでは、DDS(デジタルデータストレージ)/DAT(デジタルオーディオテープ)やDLT(デジタルリニアテープ)と呼ばれるものから、ミッドレンジにはAIT(アドバンスドインテリジェントテープ)やLTO(リニアテープオープン)、そしてエンタープライズクラスにはIBMやOracleなどがシステムとして提供しているTSファミリーやTシリーズといったベンダー固有の磁気テープカートリッジが存在する。

 しかし現在は、ミッドレンジを中心にエントリー領域でも利用されているLTOが中心的なオープンフォーマットの規格であり、「IBM 3592」TSシリーズやOracleのT10000シリーズといったハイエンドモデルの一部はいまだに残っているものの、バックアップに用いられる磁気テープの規格はLTOがスタンダードといっても過言ではない。

 なお、記録密度を高めていくためには磁性体の微粒子化を進めることが必要だが、従来利用されてきたMP(Metal Particle)磁性体でその限界を迎えたことから、今ではBaFe(Barium Ferrite:バリウム・フェライト)磁性体が主に利用されている。提供ベンダーの違いによる互換性を確保する意味でも、LTOの規格ではBaFe磁性体を利用することが明記されている状況だ。

磁気テープを用いたバックアップの重要性

 磁気テープを用いたバックアップは、すでに何十年もの歴史があるが、磁気テープ自体の存在を知らない世代が増えている。そもそもCDやDVDが登場する以前は、3.81mm幅のテープを用いて音楽を録音するカセットテープが一般家庭にも広がり、多くの人が“磁気テープで情報を記録する”ということになじみがあったはずだ。

 しかし、今ではCDやDVDはもとより、デジタルデータによる音源配信などを利用して音楽を楽しむことが増え、磁気テープそのものを目にする機会が少なくなったのが実態だろう。そのため、データ保護の仕組みとして磁気テープという選択肢があることを知らない方もいるのが現実だ。

バックアップにおける基本となる「3-2-1ルール」

 その意味でも、テープバックアップはもはや古いテクノロジーと思われがちだが、現実的には企業におけるデータ保護の手法として重要な位置付けであることは間違いない。それは、データ保護のためのバックアップ運用の基本的な考え方となっている「3-2-1ルール」が関係してくる。

 この考え方は、米国国土安全保障省(DHS:United States Department of Homeland Security)のサイバーセキュリティー・インフラストラクチャー・セキュリティー庁(CISA:Cybersecurity and Infrastructure Security Agency)によって提示されたもので、重要なデータ保護にはファイルのコピーを3つ(うちバックアップは2つ)保管し、データを保管する記録メディアは異なる2種類を用意、そしてコピーのうちの1つはオフサイトもしくはオフラインに保管するというものだ。

 データを保管する記録メディアには、ディスクやメモリはもちろん、オンラインストレージなどのクラウド環境、そして磁気テープがその候補に挙がってくる。最適なバックアップ環境の構築や運用におけるノウハウはインテグレーターなどがコンサルティングを含めて最適化支援を行っているが、その中で磁気テープによるテープバックアップは現在でも重要な選択肢の一つだ。データ保護におけるポリシー策定を自社で行う際には、この3-2-1の法則をベースにバックアップ運用を考えることが重要だ。

テープバックアップに必要な環境

 そもそも磁気テープを用いてバックアップを行う場合、磁気テープそのものに情報を読み書きするための装置が必要になる。具体的には「テープドライブ」「オートローダー」「ライブラリ」という大きく3種類の機器が存在する。

 テープドライブは、サーバと1対1で接続され、1巻ずつカートリッジを抜き差しするなど単体で運用する際に利用される。一方で、複数のカートリッジが収納できるスロットとテープの自動交換のロボット機構が備わったものが、オートローダーやライブラリと呼ばれるものだ。

 かつてはサーバごとにテープドライブを運用するケースもあったが、複数のサーバに対するバックアップや複数の世代管理を行うには1巻だけでは十分な容量が確保できない。オートローダーやテープライブラリなどを用いれば、複数サーバに対する統合的なバックアップ環境とテープの自動切り替えによる運用の自動化が可能となる。

 オートローダーは、データを読み書きするドライブが1つだが、ライブラリは複数のドライブを搭載可能で、より大規模な運用が可能なソリューションだ。オートローダーはおおよそ10巻ほどのテープを格納するスロットを運用することで、数百TBまでのバックアップが可能になる。ライブラリの場合は1万を超えるスロットを備えることで、最大でもEBクラスの大容量データをバックアップすることが可能だ。

(出典:HPE提供資料)

 また、バックアップ運用を効率的するには、バックアップソフトウェアを用いてスケジューリングすることで自動化することが多く、万が一の際のデータ復旧についても効率的に行うことが可能になる。最近ではクラウドサービスとして提供されるバックアップツールを利用する場合でも、バックアップデータの保管先の一つとして、磁気テープが選択できる。

 この磁気テープとともに、読み書きするための機器、そして効率的な運用を可能にするバックアップソフトウェアをうまく活用することで、データ保護が可能になるわけだ。

磁気テープの市場動向とその用途

 かつてはサーバ1台に対してテープドライブが必須の時代もあるほど、バックアップ用途にテープが多く利用されていたが、その後はHDDを複数搭載して大容量ディスクとして活用されるディスクアレイ製品が登場し、複数のディスクアレイを用いたレプリケーションやスナップショットを取得してディスクアレイ内で世代管理することでデータ保護につなげる動きが拡大した。

 そして、バックアップソフトウェアが内蔵されたアプライアンスタイプのディスクバックアップソリューションも数多く登場し、現在は業務システムのクラウド移行も進む中で、磁気テープそのもののニーズが以前ほど大きくないのは事実だろう。

 それでも、以前から実施してきたデータ保護の運用プロセスを変更したくないというニーズも根強く残り、ある意味安定している市場となっているのが現状だ。

 具体的な用途としては、万一のディスク障害時のリスクを回避するためのバックアップとともに、GB単価が安く安定性の高いテープに長期間アーカイブする際に用いられるものが主だった。バックアップについては、複数のテープドライブに対して同時に書き込むことで、複数のコピーが作成できるなどコピー性能の高さもメリットになる。

 バックアップ用途としては、一般企業のみならず、クラウド事業者も自社が展開するサービスのデータバックアップとして用いており、大規模な障害時にも契約者のデータを保護し、復旧できる環境づくりを行っている。

 また、「Amazon Web Services」(AWS)が提供するデータアーカイブ用のサービスである「Amazon S3 Glacier」は、企業が運用する磁気テープの代替手段として利用できる。契約者は磁気テープでのバックアップ運用の負担軽減が可能になるが、サービスの裏側で磁気テープが利用されているようだ。

 データの保管時に電力が必要なディスクと比べて、長期間オフラインでもデータが保管できるという面も、環境面やコストを考慮すれば長期間のアーカイブには最適な手段と言えるだろう。さらに、LTOの第三世代から機能が備わった、一度書き込んだデータを消去、変更できないWORM(Write Once Read Many)を利用し、コンプライアンス対応として変更されていない形で長期的にデータを保管するといった使い方も可能だ。

 そして昨今大きな話題となったのが、感染したPCに特定の制限を掛け、その制限の解除と引き換えに金銭を要求するランサムウェアへの対策だ。2017年に猛威を振るった「WannaCry」などが有名なランサムウェアの一つだが、このランサムウェアは感染したコンピュータのデータを勝手に暗号化し、その復号を条件に金銭を求めるもの。ネットワークに接続された他のPCにも影響を与えることになり、NAS(Network Attached Storage)やディスクアレイ装置のバックアップデータも暗号化されてしまう。

 そこで、感染前の情報がバックアップデータとしてオフラインで保管されている磁気テープによって、コンピュータのストレージを一度初期化し、その磁気テープから感染前の環境に復旧させることが可能になる。最近では、このランサムウェア対策としての有効性が評価され、改めてバックアップ手法としてのテープが注目されている。

テープメディアの最新トレンド

 バックアップテープの中心的な存在であるLTOは、1997年にオープンで新たな磁気テープ規格標準を目指し、HPEやIBMおよびQuantumの3社が共同で策定した規格で、当初からオープンな規格として市場展開したことが功を奏し、今では多くのベンダーからメディアやテープ装置が提供されている。

 LTOは、2000年に登場した第一世代のLTOを皮切りに、2021年6月現在は12TBの容量を持つ「LTO-8」が最新のもので、2021年度中には最新規格となる「LTO-9」に対応したバックアップテープが登場する予定だ。LTO-9は、非圧縮時で12TBから18TBにまで容量が拡張され、最大転送速度は360MB/sから400MB/sにまで高速化する。

(出典:HPE提供資料)

 そして、LTOではすでにロードマップがはっきりしている。現時点では1巻あたり144TBという大容量の「LTO-12」までが計画されており、今後のロードマップにも期待が寄せらるところだ。

 なおLTOは、書き込みについては1世代前まで、読み込みについては2世代まで互換性があり、古いLTO規格のものでもタイミングによっては新たな規格へのマイグレーションが必要になる。

 LTOは、ディスクやメモリスティックように簡単にフォルダ作成やデータコピーが可能になる「Linear Tape File System」(LTFS)と呼ばれる機能が「LTO-5」の規格から実装されており、ドラッグ&ドロップでファイルの移動が可能になるなどファイルが容易に管理できる。LTFSが利用されているのは、主にテレビやアニメーションといった動画や画像の素材を数多く扱う業界で、容量単価の安いテープをファイルとして扱うことで、長期的なアーカイブはもちろん、素材へのアクセスや加工を行う際にも使いやすい環境が構築でき。

(出典:HPE提供資料)

 ちなみに、持ち運びできる可搬性のあるメディアという大きな特徴を持つテープだが、実はHDDやSSDを利用した可搬性のあるメディアとして利用されているが「RDX」(Removable Disk Exchange system)と呼ばれるものだ。

 USB接続でRDXカートリッジ内にHDDやSSDを格納し、操作は一般的なディスクと同様だ。ただし、容量はHDDなら数TBほどのものが中心で、磁気テープと比べて容量は大きくない。また、基本的には単体ソリューションであり、複数のRDXを束ねて運用するものではなく、従来行われてきた複数のテープを運用する大容量のバックアップ用途の代替には至っていない。過去のDDS/DATなど容量の小さなものでサーバ単体のバックアップ用途としては十分活用できるものだ。

as a Service化する「TaaS」って何?

 現在IaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)などといったクラウドを柔軟に活用し、業務システムを構築する企業が増えているが、テープバックアップに関してもクラウドを用いたものが登場し始めている。

 もともとストレージをサブスクリプションで提供することで急なストレージ増設にもシステムに対するアジリティ(機敏性)が確保できるSTaaS(Storage as a Service)は以前から提供されてきたが、テープバックアップ向けのサブスクリプションサービスとしての「TaaS」(Tape as a Service)を提供する事業者も出てきている。さまざまなソリューションが“as a Service”化する中で、テープバックアップに関してもサブスクリプションで運用が可能になってきている。

 また、明確にTaaSと表現していないものの、最近では機器調達や運用を含めた業務に必要なITインフラ全体を“as a Service”として提供する企業も出てきており、テープ装置の導入からバックアップ運用も含めてサブスクリプションで利用可能だ。

 例えばHPEでは、エッジやコロケーション、データセンターで行われているオンプレミスのワークロード向けに、従量制課金モデルでフルマネージドのサービスを提供する「HPE GreenLake」を展開しているが、バックアップ運用に関しても包括的なサービスとして提供可能な環境を整備している。既にテープバックアップに必要な装置もas a Serviceとして提供できる体制を整えており、磁気テープによる運用についても選択肢となってくる。

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