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次のワークスペースはどう作る? UC/コラボレーティブワークスペース動向

テレワークが常態化しつつある今、国内ユニファイドコミュニケーション(UC)/コラボレーティブワークスペース市場はどう動いているのか。2020年度の状況とともに2025年までの予測を見ていきたい。

» 2021年07月28日 07時00分 公開
[太田早紀IDC Japan]

アナリストプロフィール

太田 早紀(Saki Ota):ソフトウェア&セキュリティマーケットアナリスト

ソフトウェア市場のアナリストとして、コラボレーティブアプリケーション、コンテンツワークフロー管理アプリケーション、CRMアプリケーションの市場動向や企業ユーザー動向の調査/分析、ベンダーの動向/戦略分析、将来の市場予測を担当、ベンダー/ユーザー企業に提言を行っている。


国内UC/コラボレーティブワークスペース市場とは?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響から、働く環境が大きく変化している今、国内ユニファイド コミュニケーション(UC)/コラボレーティブワークスペース市場はどのように動いているのだろうか。IDCが発表した国内UC/コラボレーティブワークスペース市場の予測から、今後の動きについて見ていきたい。

 まずはこの市場に含まれるセグメントを見ておきたい。大きく分けて「IPテレフォニー」「IPカンファレンスシステム」「IPコンタクトセンターシステム」「コラボレーティブワークスペース」の4つのセグメントがある。

 IPテレフォニーは、IP電話やIP-PBXといったハードウェアを中心とした電話関連ソリューションだ。IPカンファレンスシステムは、ビデオ会議や電話会議などで利用されるハードウェアを中心としたもので、最近製品が出そろってきた「Zoomミーティング」や「Microsoft Teams」などに特化した専用端末もこのセグメントに含まれる。

 IPコンタクトセンターシステムは、コンタクトセンターの構築に必要なハードウェアやIVR(自動音声応答)などのソフトウェア、そしてコンタクトセンター構築のためのサービスなどが含まれる。

 そして、最も大きな市場となっているコラボレーティブワークスペースは、コラボレーティブアプリケーションおよびコンテンツワークフロー/管理アプリケーションという2つのセグメントに分かれる。前者は主にデスクトップ環境で利用されるWeb会議や電子メール、SNSやチャットといったコミュニケーションに関わるアプリケーションで、後者にはファイル共有システムやポータルなどコンテンツ管理に関するソリューションが含まれる。

49.8%と高い成長率を誇る領域はどこ?2020年の実績

 今回発表した2020年の国内UC/コラボレーティブワークスペース市場は、売上額ベースの市場規模は4084億7800万円で、年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は8.7%だった。

 2020年度はCOVID-19の感染拡大による三密回避の必要性から、Web会議アプリケーションやコンテンツ共有アプリケーションなどのコラボレーティブワークスペース市場を中心に高い成長率を示した。セグメント別の成長率は、IPテレフォニーが0.1%、IPカンファレンスシステムが3.8%、IPコンタクトセンターシステムが4.3%、コラボレーティブワークスペースが13.9%という結果だった。

 セグメント別に見てみると、リプレース需要が中心のIPテレフォニー市場は、オフィス勤務の減少や三密回避の対応によって大きく影響を受け、上半期は緊急事態宣言の発令などもあって環境設置が難しい状況が続き市場が停滞した。しかし、リプレースに関する予算を期初に確保していたこともあり、下半期にはその投資が進み始めたことで、前年度とほぼ横ばいの結果となった。

 現状はオンプレミスが中心の市場ではあるものの、在宅勤務の需要増加でクラウドPBXへの切り替えも視野に入れた動きもあり、またソフトウェアベンダーの音声システムへの参入も進みつつあることも手伝って、今後はクラウド化に向けた動きが注目されるところだ。

 IPカンファレンスシステム市場は、IPテレフォニー同様、上半期はオフィスへの出社機会が大きく減る中で投資が停滞した部分もあったが、2020年後半からオフィスと在宅双方のハイブリッドな働き方が試行されるなか、小型の専用端末への需要が増加し、堅調に推移した。

 特に在宅で勤務する人とオフィスに出社する人をつなぐソリューションの必要性が高まりつつある。専用端末ベンダーが提供するソフトウェアを在宅環境で利用する、もしくはオフィス内の専用端末と連携するためのゲートウェイソリューションを駆使するなど、ハイブリッドワークを実現するための取り組みが進んでいる。

 IPコンタクトセンターシステム市場は三密回避の対応に向けて、コンタクトセンターの在宅化や分散化需要が顕在化しただけでなく、ECサイトの利用増で呼量が増えたこと、デジタル化が進行したことによる電話以外のマルチチャネル対応や機能追加に向けた投資が進み、4.3%の成長率と好調だ。当初は年間を通じて苦戦が予想されたが、下半期から予算化されていたプロジェクトが進捗(しんちょく)し、在宅化や分散化の需要が増加したことで堅調に推移した。

 最も成長率の高いコラボレーティブワークスペース市場に関しては、コミュニケーションに関連したコラボレーティブアプリケーションが19.8%、コンテンツワークフロー/管理アプリケーションは7.6%という前年比成長率だ。

 前者のコラボレーティブアプリケーションの中では、Web会議などのカンファレンスアプリケーションが49.8%と高い成長率となり、リモート営業などを含む対面業務のデジタル化の需要がWeb会議に代替されたことが大きい。また電子メールアプリケーション(5.3%)や社内SNSなどのエンタープライズコミュニティーアプリケーション(17.0%)、Slackなどチャットを中心としたチームコラボレーティブアプリケーション(10.2%)もそれぞれ高い成長率である。

 後者のコンテンツワークフロー/管理アプリケーションは、デジタル上で業務を遂行するためのアプリケーションだが、中でもコンテンツ共有、コラボレーションに関しては前年比成長率で20.4%と高い伸びを示しており、カンファレンスアプリケーションに次いで高い成長率となった。

2025年までの予測が堅調に推移すると見られるワケ

 2021年以降の同市場の推移については、テレワークの適用範囲が拡大し、生産性向上に向けた高度化や、Web会議をはじめとした非接触ソリューションに蓄積されたデータ分析およびデータの活用需要が拡大するとIDCは見ており、堅調に成長すると予測する。その結果、国内UC/コラボレーティブワークスペース市場は2020年〜2025年の年間平均成長率は4.0%で推移し、2025年には4968億1500万円になると見ている。

国内ユニファイドコミュニケーション/コラボレーティブワークスペース市場予測(2021年〜2025年)(出典:IDC Japanのレポート)

 IPテレフォニー市場については、国際的なスポーツイベント関連投資が一巡し、テレワークの影響でハードウェア投資が減少していくと見ており、全体ではマイナス0.2%の成長率と予測する。

 在宅勤務の浸透によって音声環境の見直しが進み、オンプレミスからクラウドへの移行が進んでいくことも想定されるが、どこまでをクラウドPBXなどに移行するのかは未知数だ。それでも、半数近くが「COVID-19以前のオフィス環境には戻らない」と回答しているアンケート調査もあるほどで、働き方のハイブリッド化に合わせて音声系のクラウドシフトも徐々に進んでいくと考えるのが自然だろう。

 次にIPカンファレンスシステム市場については、オフィスとリモートを最適な形で組み合わせるハイブリッドな働き方が進む前提で予測を立てており、ビデオ会議に関連したハードウェアの需要は堅調に推移し、2025年までのCAGRは1.7%と見ている。

 もちろん、オフィス回帰の流れがある程度進んだ場合でも、顧客との打ち合わせなどが急激に対面式に戻るのではなく、そのペースは緩やかに推移すると見ている。中でも、オフィス内の会議室で顧客とのコミュニケーションを行うシーンは2019年以前よりも増えると考えられ、市場自体は堅調に推移していくはずだ。

 IPコンタクトセンターシステム市場については、以前から生産性向上や働き方改革などの実現に向けたテレワーク環境の整備が課題となり、オペレーターの在宅化やリモートに限らない分散化、そしてマルチチャネル対応や音声認識技術への適用など、さまざまな機能付加が継続して実施されていくと見ており、2.2%の成長率と堅調に推移すると予測する。

 IPコンタクトセンターシステムについてもクラウド需要は伸びる可能性はあるが、もともとオンプレミスの比率が高い市場だけに、機能面では現状オンプレミスの方が充実していることもあり、クラウドシフトは緩やかだろう。ベンダー各社ともクラウド対応を進めながら、オンプレミス需要への対応を継続していくことになると見ている。

 コラボレーティブワークスペース市場に関しては、2025年までのCAGRが6.1%で推移していくと予測され、クラウドが9.8%、オンプレミスがマイナス2.9%と見ている。市場別には、Web会議を中心としたコンファレンシングアプリケーションが11.4%と最も高く、社内SNSなどのエンタープライズコミュニティーアプリケーションが10.4%、コンテンツ共有/コラボレーションが8.4%と続く。

Web会議と電話統合のカギとなる「クラウドPBX」

 この市場の動きで注目したいのが、クラウドPBX関連ソリューションが拡充されてきている点だろう。在宅勤務が浸透する中、これまで電話とWeb会議などのコミュニケーション手段が個別に提供されていたが、クラウドPBXを新たに機能拡充することで、それらが統合できる環境が整いつつある。

 具体的には、Web会議ソリューションを提供するZoom Video Communicationsの「Zoom Phone」やCisco Systemsが提供する「Cisco Webex Calling」など、音声系の新たなソリューションとなるクラウドPBXが提供され始めている。2020年から続く行動変容によって、ソフトウェアベンダーが音声システムに参入する動きが進みつつあり、企業の音声環境がどの程度クラウドにシフトするのかが注目されるところだ。

 また、ワークスペース活用の高度化に向けた動きも気になるところだ。Web会議ソリューションはデスクトップをメインにした活用が中心だが、利用する端末を変えることで、フィールドワーカー向けのソリューションなど新たな活用シーンへの展開が期待される。

 これは、デスクトップ向けに提供されているコンテンツ領域のソリューションも、フィールドワーカーが効率的にコンテンツにアクセスできるような環境づくりが進められており、デスクトップから離れた部分のデジタルワークプレースへの拡充に向けた動きが今後活発化していく可能性はある。

 例えばMicrosoftは、医療業界向けにMicrosoft Teamsでオンライン診療を行いながら、深度センサーの「Azure Kinect DK」やMRデバイスの「Microsoft HoloLens」を組み合わせて遠隔医療を提供している。またGoogleはノーコードツールの「AppSheet」で、現場からアクセスしやすいアプリを内製化、効率化できる環境づくりを支援するなど、フィールドワーカー向けに提供するデジタルワークプレースという視点で高度化が進展していくことが期待される。

UC/コラボレーティブワークスペース市場における課題

 国内UC/コラボレーティブワークスペース市場に関しては、全体で見ても高い成長率であり、在宅勤務の割合も増える中でWeb会議をはじめとしたさまざまなソリューションが浸透してきている。もちろん、在宅勤務を実施することが難しい流通やサービス、公共といった業種別では実施率が低いケースもあるが、今後も高い水準で需要が続くと見ている。

 しかし、生産性の観点で見ると課題もある。ある企業の調査によれば、個人の業務やシステムへのアクセスなど、個人で完結できる業務については生産性の低下は見られないものの、提案活動やアポイントの設定など社内外で調整することが求められる領域については、生産性が上がっていないと回答した企業の割合が高くなっているという。

 特に生産性については、コミュニケーションツールとともに、デジタルワークスペース上で利用するコンテンツに関連したソリューションも重要になってくる。ただし、現時点では特定のツールさえ導入すれば解決するわけではないため、活用の高度化に向けた新たなツールへの期待も含めて、生産性に関する改善に取り組むことが今後は求められるだろう。

 また、大企業に比べてSMB市場においては、Web会議やチャットといったコミュニケーションソリューショの導入が十分ではないことも課題となっており、SMBに対してどのように行き渡らせるのかは課題になってくる。

 日本におけるカルチャー的な課題も以前から指摘されている。日本の場合、組織のアーキテクチャに沿った情報伝達手段としての電子メールがコミュニケーションの中心だが、Web会議やチャットなどは、組織を超えたところで利用されるフラットなコミュニケーションの手段といわれる。

 電話をしていると仕事をしているように見えるものの、チャットのコミュニケーションはどうしても仕事をしているように見られないといった感覚もいまだに残っており、そのようなカルチャーを変えていくことも、課題の一つとなる可能性は高い

ソリューション選びのポイント

 今回ターゲットとなっている国内UC/コラボレーティブワークスペース市場におけるソリューション選択についてだが、まだ十分に浸透していないSMBの場合であれば、個別のベストオブブリード製品だけでなく、豊富な機能が備わったスイート製品も有力な選択肢になってくるだろう。

 また、コミュニケーションやコンテンツそれぞれ複数のアプリケーションを組みわせていく場合、各アプリケーションで業務を推進する中で情報が分散するため、コンテンツの情報をどのように保有するのかをしっかりと考えておくべきだ。

 コンテンツ自体を1箇所に集約し、各アプリケーションから参照できるような環境が理想だ。もちろん、生産性向上という観点から、デジタルワークスペースをどう活用していくのかといったこともしっかり見直した上で、最適な環境を選択したい。

 また、コラボレーションにおいてもデータを生かしてビジネスにフィードバックしていく動きが今後ますます増えていくため、データをプラットフォームに統合していつでも分析、可視化できる環境を作り上げるべきだ。そこで重要になるのがセキュリティやガバナンスの視点だ。その点がしっかりと考慮されたベンダーを選択しなければ、導入後に苦労することになる。もちろん、データそのものが増えるため、スケールしやすい環境づくりとしてのクラウド活用が一つのキーになる。そこでもガバナンスへの配慮をしっかりと意識したいところだ。

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