メディア

ハイブリッドワーク定着の裏で「オンサイト必須」従業員に課題 海外企業はどう対策?HR Dive

オンラインとオフラインを柔軟に使い分けるハイブリッドワークが企業に浸透した結果、浮き彫りになったのがオンサイト必須業務の従業員との分断だ。オンサイト必須業務をデジタルの文脈に持ち込みリモートを実現する方法を模索する企業はどんなチャレンジをしているでしょうか。複数の調査資料と海外の実務リーダーの声から打つべき対策が見えてきました。

» 2021年08月11日 08時00分 公開
[Roberto TorresHR Dive]
HR Dive

 コロナ禍を経て働き方は大きく変わりました。これからの働き方はオンラインとオフラインを器用に行き来するものととらえるのは、いっけんすると簡単そうに見えます。しかし、一部の業務は、リモートワーカーとオンサイトワーカー間のシームレスな接続には適していません。

 発電所の仕事を考えてみると分かりやすいでしょう。安全要件が従業員のみならず地域の周辺住民の生死を左右するケースです。例えば、10マイル先に建設された化学プラントからの発煙の原因として、ネジがさびの兆候を示しているかどうかを検出するには、物理的な監視が必要で「現場に人員を配置する必要があります」とGE Digitalのシニアバイスプレジデント兼CTOのコリン・パリス氏は話します。

 マネジャーとのZoom会議の背景にネジのさびがあっても目立たないでしょう。これはハイブリッドワークのセットアップに制限があると考えるビジネスリーダーが参考にすべき問題です。

 ほとんどの企業は、2020年にテレワークのセットアップに関する短期的なプレッシャーを察知して対処しましたが、これは「火消し」に重点を置いたフェーズでした。現在、企業は長期的にハイブリッドワークモデルを形成するための障害に対処しています。

 一部の企業にとって、ハイブリッドワークは単に自宅とオフィスを行き来することを意味しており、従業員が場所を選択できるようにすることを意味しています。また、医療や建設、エンジニアリングなどの業界では、現場の作業員が遠隔地のマネージャーやオペレーターとシームレスに連携しなければならないこともあります。

 エンジニアリングおよび建設会社のBlack&VeatchのCIO、アービン・ビショップJr.氏は「従業員が適切なアプリケーションに常時接続して運用を維持できるようにしなければならない、とのプレッシャーは高まっている。ただし、テクノロジーの観点からするとホームネットワークや帯域幅を制御することはできないのです」と課題を説明します。

 調査会社Gartnerによると(注1)、ハイブリッドワークがどの分野に適しているかを考えた場合、ビジネスリーダーは従業員の57%が完全にリモートで作業でき、3分の2近くが少なくとも一部の時間はリモートで作業できると見積もっています。ハイブリッドワークが支配的なパターンとして浮上する一方で、労働力全体のの50〜60%でのみ可能だとGartnerは指摘しています。

 ハイブリッドワークの次の段階では、テクノロジーでは埋められないギャップが焦点となります。技術的なツールは、長期的な操作性への懸念を解消するのに役立ちますが、仕事の性質や技術スタックにシステムを追加することに課題がないわけではありません。従来は対面式で業務をこなしていた企業がテクノロジーの進歩の恩恵を受けているにもかかわらず、単純にハイブリッドワークが機能していない場合もあります。

エンジニアリング部門における根強いオンサイトの要求「リモートで管理はムリ」を疑う

 パンデミック後の時代に物理的な場所を管理する際の課題は、現場の作業員とリモートで洞察を提供できる専門家をどうスムーズに結び付けるかという点にあります。

 「1人の優秀なトップクラスのエンジニアが、新たに開設する工場群を飛び回るって支援することは不可能だ」とパリス氏は指摘します。この問題を解決するには「現場に人員を配置し、指導的なエンジニアの指示を仰ぐことになる」とパリス氏は言います。

 建設業界にとってテレワークのギャップが現場作業員とオペレーターの間でコミュニケーションの断絶を招くことは明らかです。少なくとも現時点では建物をZoomで構築することはできません。

 「建設管理業務を完全にリモートで実施する方法があるというのはばかげていると思う」と、StructionSiteのCEO兼共同創設者であるマット・デイリー氏はコメントします。デイリー氏の会社は、ユーザーが取り付けた360度カメラとAIテクノロジーを通じて、建設現場を監視するプラットフォームを開発しています。

 石膏ボードを取り付ける前の壁の監視などの作業はハイブリッドモデルに適している場合があるかもしれませんが、他のほとんどの作業は現場で手掛けなければなりません。

 「建物を稼働させる前に、バルブを物理的にテストして正しく動作していることを確認する作業をリモートでは実行し得ない」とデイリー氏は言います。

 デジタルと物理的な世界をつなぐという課題は、業界によってさまざまです。Mackinseyの調査によると(注2)金融サービスおよび保険業界の企業は、効果を維持しながら最大76%の作業をリモートで実行できますが、製造業ではその数字は19%です。建設業界の従業員は、時間の約15%をリモートでの作業に費やすことができますが、農業ではその基準はわずか7%に低下するという調査もあります。

 エンジニアリングの分野では、デジタルツインはハイブリッドワークで生じるディスコネクトのデジタルメタファーであり、それを解決する手段といえます。データを備えた実際の物理コンポーネントのデジタルコピーは、障害の予測と管理業務に役立ちます。

 COVID-19の懸念により混乱が生じたとき、メンテナンスを延期したい企業は、起こり得ることを理解するためにデジタルツインテクノロジーに目を向けました。GEは中東の工場に飛行機で赴くことなく「累積的な損傷の量」を予測し、メンテナンスを延期しても安全かどうかを判断できたとパリス氏は言います。

 デジタルツインの採用は必然的に生まれたものです。「より多くの作業がテクノロジー対応のワークフローになるにつれて、ツールは個々の作業者が管理、監視し、スケジュールを維持するためにパフォーマンスメトリックを提供するのに役立ちました」とコンサルティングファームWest MonroeのHealthcare & Life Sciencesのディレクター、ネイサン・レイ氏は言います。

 2021年には、この種の課題の解決に伴い、企業を動かすITバックボーンにさらに圧力がかかるようになります。1年間の財務的制約の後、世界的なテクノロジー支出は2021年に改善の兆しを見せるでしょう。

 「自動化の波により、より簡単に、より多くのリモートコントロールで操作を管理できるようになる」と、West Monroeの消費者向けおよび工業製品部門のマネジングディレクターであるサム・ドース氏は言います。より多くの監視、管理および例外制御がリモートで実行できるようになり、特定のタスクの実行を直接監視する時間が短縮されます。

 エンジニアリング企業であるBlack & Veatchは、特定の場所に物理的に行く人の数を減らす手段としてウェアラブルデバイスを試しています。

 「1人が現場に出かけてウェアラブルデバイスを通して状況を確認し、リモートで作業している別の人が同じ状況をリアルタイムで確認できます」とビショップ氏は説明します。「チームのさまざまな専門知識を持つ人々は、何をすべきかを提案することができ、常に物理的にそこにいる必要はありません」

 センサーとIoTデバイスを施設全体に配置することによって、現場に実際に赴く必要性を減らし、現場が意思決定の指針となる情報を直接企業に提供できるようになります。

ヘルスケアの同期:課題と回避策

 ハイブリッドワークは柔軟性への期待をもたらしました。従業員はホームオフィスで円滑に仕事ができるため、作業プロセスがそれに対応する必要があります。PwCによると(注3)、従業員の半数以上が、少なくとも週に3日は自宅で仕事をしたいと望んでいます。

 ハイブリッドワークモデルは非同期性を意味し、ヘルスケアなどの分野で自然なリズムに圧力をかけます。このシフトにより、運用を維持するためにスケジューリングの管理の必要性が生じました。

 McKinseyが定義するヘルスケアおよび社会支援の分野では、従業員は20%の時間をリモートで作業に費やしていると見られています(注4)。

McKinseyのデータを基にRoberto Torres(CIO Dive)が作成

 「パンデミックの発生直後、多くの介護スタッフと管理スタッフが完全に仮想化された労働力になりました」とThe Chartis Groupのディレクター兼デジタルヘルスリーダー、トム・キエサウ氏は語っています。

 テクノロジーの時代を先取りする組織では、本質的でないケアが再び緩和され始めたときに、患者を直接訪問するためのオンラインスケジューリングを提供し始めた。

 しかし、「患者側には、オンラインで仮想訪問をスケジュールする方法がありませんでした」とキエサウ氏は言います。「逆説的に、仮想訪問をスケジュールしたい場合は、コールセンターに電話する必要があったのです。場合によっては、医師の診療所に個別に電話する必要もありました。リモート運営に関するヘルスケアの包括的な問題の一つはスケジューリングでした」とレイ氏は言います。

 レイ氏によると、従業員がワークフローをスケジュールし、ビデオ会議または実際の物理的な面談のいずれかで一致する方法を調整する組織の能力は、ハイブリッドワークシフトの勝者と敗者を決定します。

 オンラインや対面の仕事は、単純なスケジューリングカレンダーでは対応できず、特定の時間帯に仕事を進めるためには、より強固なルールベースのソフトウェアが必要となります。レイ氏は「患者のスケジュール管理、従業員のスケジュール管理、評価のためのスケジュール管理、これら全ての概念は、企業にとって実際には非常に難しいものです」と述べています。

 技術ツールは、医療業務全体を調整するのに役立ちます。開業医や他のスタッフの予約状況の同期が難しい場合は、ワークフロー管理ソフトウェアを使用して、医療従事者の空き状況や出欠を確認できます。物理的なアクセス管理の技術は、現場でのキャパシティコントロールを支援でます。

 エレクロトニクス企業Schneider Electricのデジタルエネルギー担当EVPを務めるローラン・バタイユ氏は、テクノロジー、プロセス、文化が「よりハイブリッドな作業環境の方向に向かっている」と述べています。同社は、医療従事者が「特定の時間に特定の場所にいること」を示して場所を予約する技術を開発しています。

 「ハイブリッドモデルによる従業員の管理は、ヘルスケアリーダーが直面するもう一つの課題であり、ワークフロー管理ツールに自己管理のレイヤー追加することで容易にできるタスクです」とレイ氏は語ります。

技術的負債:ハイブリッドワークへのハードルは

 パンデミックにより、ほとんどの企業が技術面での準備不足に陥ったのは事実ですが、混乱が始まってから1年経っても問題は解決していません。Stripeの調査によると(注4)、エンジニアは時間の3分の1近くを技術的負債に費やしています。

 経営幹部は、在宅の従業員と現場の従業員をスムーズに結び付けようと試み、ディスコネクトの課題に対応するための技術ツールとポリシーに目を向けています。

 ITコンサルティング会社Beyond20のCEO兼共同創設者であるエリカ・フローラ氏は、組織全体で、技術的負債がハイブリッドワーク環境でスタッフを採用したり、ワークフローを管理したりしようとする企業に影響を与える可能性があると述べています。しかし、より大きな障害は、ハイブリッド環境のためのプロセスとテクノロジーの設計と、組織全体に明確さを示すことに集中しています。

 「全ての企業は、半分のテレトワーク、半分のオンサイトワーク、あるいは両方を組み合わた環境に対処しようとしている」とフローラ氏は述べます。

Roberto Torres氏(CIO Dive)がPwCの資料を基に作成

 フローラ氏は、「あるチームから別のチームへのワークフローを受け渡す流れを会社が理解できるようにすることが、CIOの役割だ」と説明します。

 もう1つのハードルは、ハードウェアやソフトウェアなどのIT資産の可用性を理解し、ハイブリッドモデルの下でITインフラの管理を考えることです。コラボレーションツールは両者を接続するために必要なレイヤーですが、アナリストは新機能が登場するにつれてメッセージングの過負荷を懸念しています。

 ドース氏は「製造業の幹部は施設の技術的負債に苦慮している」と言います。 財政的制約のプレッシャーの下で、ハイブリッドワークを解決するために、プラント設備への支出をとるかコラボレーションツールへの支出をとるかを考えた場合、管理者はプラント設備を選択することが多いとドース氏は指摘し、「(コロナ禍の)2020年、当社は実際にこの問題を考慮することを余儀なくされました」とコメントしています。

 製造分野のCIOは、ハイブリッドモデルの下で顧客が現在使用しているものと同じ販売体験、関係および顧客サービスを、デジタル販売やサービスに反映させることは会社の指示であっても困難だと感じています。

 West Monroeのテクノロジープラクティスディレクターを務めるカウミル・ダラル氏によると、作業のデジタル化が進むとIT部門にさらなる圧力がかかります。オフィスがハイブリッドワーカーを中心に改造されると、オーディオやビデオ機能などの新しいテクノロジーがITワークロードに追加されます。

 「新しいハイブリッドワークの職場について考えると、オフィス内のテクノロジーはもっと魅力的で包括的なものにシフトする必要があります」とダラル氏は語ります。

 企業は、システムが顧客パターンの変化に、より適切に対応できるようにクラウドへの移行を推進しました。しかし、テクノロジー面の課題としてモバイルデバイスからのアクセスのためにレガシーアプリケーションを最適化するなど、ハイブリッドワークに不可欠な業務がまだ残っている企業もあります。

 キッチンやリビングルームで作業する従業員の接続の問題を解決することは、多くの組織に残るハードルの一つです。2020年10月に発行されたNavisiteのレポートでは(注5)、リモートワーカーの長期的サポートを検討する際に、ITリーダーと経営幹部の間で最大の懸念事項として在宅ネットワークの帯域不足が指摘されました。

 Black&Veatchでは、ITワーカーのグループが接続問題の管理、 ホームネットワークのトリアージ、ホームインターネットの速度が低下した理由を評価するためのガイドなどのスペシャリストになりました。「彼らを『チューニングの専門家』と呼んでいます。率直に言って彼らに助けられました」とビショップ氏は説明します。

ハイブリッドである理由と「次に来るもの」

 ハイブリッドワークへのハードルを乗り越えることは、企業にとって魅力的なコンセプトです。課題を克服し、ハイブリッドが最も適している場所についての戦略を組み立てられる企業にとっては、業務上、財務上、競争上、文化上の利点があります。

 「ハイブリッドワークを適応可能で持続可能なものにできる企業は、大きな競争優位性を得られるでしょう」とダラル氏は言います。柔軟な働き方が期待されており、ビジネスリーダーはハイブリッドワーク環境における従業員のエクスペリエンスについて考えることを余儀なくされています。

 「ハイブリッドワークは、従業員にとって仕事と生活のバランスを取りやすい利点がありますが、それに関連する技術効率と運用コストの制約も受けています」とTalent Pathのイノベーション担当バイスプレジデント、ジェフ・フレイ氏は語ります。企業は従業員の通勤費を削減し、それを利益や福利厚生、顧客向けのより良い製品、その他の改善に転換することができます。「規模はさておき、多くの企業が注目するものでなければなりません」とフレイ氏は言います。

 しかし、従業員をオフィスから完全に退去させるのは大多数の企業にとって「論外」の話です。従業員の一部はいずれ現場に戻って業務をこなすと考えていて、少なくとも50%がオフィス勤務に戻ることを望んでいる状況を、先のGartnerの調査データが示しています。

 ハイブリッドワークにより、リーダーは不動産へのアプローチを再考しています。「パーティションで仕切られたオフィスには無駄な面積が多すぎて、必ずしも最適な作業環境になっていません」とバタイユ氏は言います。

 長期的には、ビジネスリーダーは、ハイブリッドワークがもたらす断絶の中で企業文化を支える施策を打つ必要もあります。West Monroeのデータによると(注6)、ワークモデルが移行する中で、60%の経営者が最も懸念しているのがこの問題です。

 経営幹部は、主要なプロセスとそれを長期的にサポートするテクノロジーを最適化する必要があります。しかし、ハイブリッドワークへの転換期には、企業が特定の役職をどのように判断するかなど、さらに多くの新しい課題が浮上します。「完全にリモートで仕事をしているカスタマーサービス担当者がいるとすれば、そのワークモデルや役割の定義は適切に見えるでしょうか」とダラル氏は問いかけています。


© Industry Dive. All rights reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。