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地域金融の構造改革を支えるロボット――第四銀行のRPA(前編)

» 2018年08月24日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

かつての保守的なイメージとは裏腹に、思い切った改革に踏みきる地方銀行がこのところ相次いでいる。新潟県を本拠とする株式会社第四銀行(新潟市中央区)は今年10月1日、県内の同業である株式会社北越銀行(長岡市)と共同持株会社を設立して経営統合する。

他地域に先がけた打ち手を繰り出し、複数の大型プロジェクトが併走する第四銀行では、事務部門の生産性向上と業務効率化による余力の創出を目的に、定型業務をソフトウエアで代替するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の本格運用も始まっている。同行がRPAに期待する役割と活用の状況、さらに今後の展望を取材した。前編では、RPA導入の背景と経緯、そしてロボット量産体制に入った同行が発見したRPAの意外な効能について焦点を当てる。

銀行業務の構造改革を支えるロボット

1873(明治6)年設立の新潟第四国立銀行が前身で“現存する国内最古の銀行”と称される第四銀行。同行は、全国の有力行が基幹系システム共同化などで協力する「TSUBASAアライアンス」に参加し、2017年に基幹系システムを共同化したほか、今年2月には千葉銀行との間で、業務手順の統一といった事務部門の共同化も始めている。さらに行内では、この4月から3年間の中期経営計画がスタート。顧客接点の改善として、自動家計簿などのフィンテックサービスと自行の口座を連携しやすい仕組みを導入したほか、営業店での事務処理を県内3カ所の「ミドルオフィス」へ移管し、店舗を顧客サービスに特化させる構想も進んでいる。

「営業店が営業に専念できるようにするための諸施策に取り組む中では、本部の生産性向上が不可欠。本部自体の定型業務を軽くしてリソースを捻出するのはもちろん、営業店から本部への事務集中化を拡大するためには、まず事務集中部門で業務負担を軽減しておく必要がある。こうした構造改革のツールの一つとして選択したのがRPAになる」。同行でRPAを推進する事務統括部業務革新室の宮路拓也審議役は、行内でロボットが担う役割を、そう説明する。

(右手前)事務統括部 業務革新室 審議役 宮路拓也氏

課題は地銀特有の業務特性「少量多品種」の効率化

同行でRPAの導入検討が始まったのは、メガバンクによる活用事例が地銀の会合で話題となった2017年2月のことだ。同年3月に活動を開始した事務プロセス改革プロジェクトに採り入れるための情報収集を開始。PoC(概念実証)を経て同年8月にはテスト運用に入り、その3カ月後には本番運用へ移行した。

現在同行では、投資性金融商品の販売状況をモニタリングする本部業務における基礎データを取得する作業や、営業店事務を行う事務集中部署における申込者の情報を照会する作業など、合計34業務で130体のロボットが稼働中。業務システムに関連する事務処理やデータ処理業務を幅広くロボットで代替していく計画だ。

同じ銀行業での成功事例が導入の契機だったとはいえ、宮路氏は「メガバンクのやり方を、そのまま当行に応用できないことは最初から分かっていた」と明かす。膨大な照会・登録・転記作業が日常的に生じ、人がそれらの処理に終日かかりきっている企業であれば、その工程1つをロボットに置き換えた瞬間、目覚ましい効率化が達成できる。しかし「当行ではメガバンクのような業務量はなく、比較的処理量が大きい業務は既にシステム対応されている場合が多い」(同)。そのため、ロボット化のターゲットを丹念に探し“単打を重ねる”ようにして余力を創出する必要があった。

さらに、セキュリティに敏感な銀行ならではの問題もあった。外部からの不正アクセスを確実に防ぐ観点から、同行のコンピューターネットワークはインターネット環境から「物理的に遮断」されている。つまりインターネット専用PCを除いて行内ネットワーク用PCではインターネットが使えず、RPAの“定番”ともいえるサイト巡回や運営サイトの自動更新といった用途に投入できなかった。「Webサイトへのアクセスを伴う業務についてもロボット化の要望が寄せられている。それらへの対応は今後の課題だ」と宮路氏は語る。

業務のロボット化を通じて発見される「重複業務」

ツールの検証とロボットの試作、さらに経営陣を前にした自動実行の実演も経て正式導入に至った同行のRPAは、その存在を周知する意味合いも込めて「行内各部で最低1業務のRPA化」を目標に設定。業務革新室のメンバーが各部署の現場に出向き、ロボットの説明とあわせて業務内容のヒアリングを続けていった。

ロボット化の対象業務を見定める中では、想定外の部分から改善のポイントが見つかることも多いという。「『どこにロボットを入れれば効果的か』という観点で、一連の業務をひととおり確認するのが大切」と説く業務革新室の深海憲一副部長は「例えば、ロボット化できそうな『目視での照合』があるとき、前後の工程も調べると、実は全く同じことを2度・3度やっていることがある。その場合、仮に何らかの理由で照合作業をロボット化できないとしても、照合を1度で済ませば効率化は達成できる」と説明。「『作業を肩代わりしてくれるロボットの使い道探し』という名目があるからこそ、突っ込んだ検証ができる。業務を見直し、新しいやり方を考える上で、RPAには機能以上の効果がある」と評価する。

事務統括部 業務革新室 副部長 深海 憲一氏

RPAの適用を検討する中では、「業務自体を取りやめても差し支えない」と判断され、ターゲットそのものが消滅することさえある。「当行のRPAは既に量産体制に入った」と自信をみせる同室上席調査役の本間豊氏も、本来の機能の外でRPAが威力を発揮している点を大いに認めて、こう語った。

「対外的なサービスと同様、社内業務にも受益者がいる。引き継ぎ資料に『他部から依頼されている作業』と書かれていても、それは当時の事情で、今の状況は変わっているかもしれない。異動の多い職場だからこそ、目の前の作業が本当に役立っているか確かめることが大切で、RPAの活用を継続的に考えることで、それを仕組み化できるのではないか」

後編へ続く

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