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【弁護士が解説】プロバイダ責任制限法は改正でどう変わる? 誹謗中傷に速やかな”特定”で対処する方法

SNSや動画などから発信される誹謗中傷は匿名性が高く、加害者の特定が困難とされてきた。しかし昨今の悪質な事例を背景に、速やかな被害者の救済を図るべく法整備が進んでいる。自社や自社の従業員が被害を受けた際、企業はどのように対応すべきか。

» 2021年09月01日 07時00分 公開
[BUSINESS LAWYERS]

本記事は2021年6月14日のBUSINESS LAWYERS掲載記事(8月12日最終更新)をキーマンズネット編集部が一部編集の上、転載したものです。

 インターネット掲示板やSNS、動画配信プラットフォームといった個人が自由に情報発信できる環境が普及し、匿名性の高い環境でユーザーがさまざまな情報を発信できるようになった。その中で社会問題となっているのが「誹謗(ひぼう)中傷」だ。従来は匿名の加害者から企業や個人が悪質な攻撃を受けても、さまざまな制約から攻撃者の情報開示や損害賠償請求、それによる名誉毀損(きそん)からの回復には多大な時間がかかっていた。

 2021年4月21日、誹謗中傷などによって権利を侵害された被害者の救済をより速やかに実行すべく、いわゆる「プロバイダ責任制限法」が改正された。

 現行法の問題と改正後の改善点、具体的な違い、企業における対応の方法などを弁護士が解説する。

プロバイダ責任制限法改正の経緯

  • 改正の経緯
  • 現行法の問題点
  • 改正法の施行日と準備

発信者情報開示命令事件(非訟手続)

  • 発信者情報開示命令事件
  • 手続きの一体化

ログイン型投稿への対応

  • 侵害関連通信
  • 特定発信者情報

意見聴取義務

企業法務における影響と対応

  • サイト管理者
  • 接続プロバイダ
  • 一般企業
  • 準備の必要

資料

総務省「プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律案(概要)

弁護士 神田知宏 公式サイト「令和3年プロバイダ責任制限法」(2021年4月22日、2021年5月21日最終確認)


プロバイダ責任制限法改正の経緯

改正の経緯

 2021年4月21日、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」が成立しました(以下、改正後のプロバイダ責任制限法を「新法」といいます※1)。

 改正の目的は、インターネットでの誹謗中傷などの権利侵害につき、より円滑に被害者救済を図るべく、発信者情報開示について新たな裁判手続(非訟手続)を創設するなど、制度的見直しを図ることにあるとされています(総務省「プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律案(概要)」)。

 今回の法改正は、木村花さんの事件※2がきっかけとも言われていますが、総務省では、それより少し前から、「発信者情報開示の在り方に関する研究会」を開き、法改正へ向けた調査研究が始められていました。ただ、木村花さんの事件により、世論の高まりがあり、法改正の動きが加速したものと思われます。

現行法の問題点

(1)2度の手続き

 現行法のもとで匿名の発信者を調べるには、2段構えの手続きが必要です(図1)。まず、サイト管理者(コンテンツプロバイダ、CP)から、IPアドレスを開示してもらい(第1段階目)、次に、そのIPアドレスを管理する接続プロバイダ(アクセスプロバイダ、AP)に対し、IPアドレス使用者を開示請求します(第2段階目)。

 このように手続きが2つに分かれているため、従来、さまざまな問題が生じていました。例えば、サイト管理者に対しIPアドレスを開示請求している間に、接続プロバイダの通信記録が消えてしまう問題(ログ保存期間の問題)、開示されたIPアドレスだけでは接続プロバイダが特定できない問題(接続先IPアドレスやMVNOの問題)などです。もちろん、請求者に技術的な知識が必要となるがゆえのハードルもあります。

(2)被害回復までにかかる期間の問題

 現行法のもと、IPアドレスの開示請求と、住所氏名の開示請求にどちらも裁判手続を利用すると、発信者の住所氏名が判明するまでに、少なくとも6〜9カ月はかかります。1年以上かかることも珍しくはありません。

(3)SNS事業者に対する電話番号の開示請求

 SNS事業者に対し、アカウント情報(電話番号やメールアドレス)を開示請求するには、訴訟手続が必須です。アカウント情報は原則として消えないため、仮処分による開示請求ができないのです。

 加えて、SNS事業者の多くはカリフォルニア州法人のため、外国への送達が必要となることから、第1回期日までに5〜8カ月かかり、判決までに少なくとも1年はかかります。

(4)ログイン型投稿における開示請求

 現行法には、ログイン型投稿の問題もありました。現行法は、「投稿時IPアドレス」を前提に作られているため、Twitterのように、サイト管理者が「投稿時IPアドレス」を保有しておらず、「ログイン時IPアドレス」しか開示しないケースでは、法適用に無理が生じていたのです。

改正法の施行日と準備

 新法は、公布の日から起算して1年6カ月を超えない範囲において、政令で定める日から施行されます(附則1条)。具体的な施行日については、2022年9月末から10月上旬ごろと予想されます。

 もっとも、参議院 総務委員会では、新法施行前に生じた権利侵害についても、新法の手続により「開示命令の申し立てを行うことは可能でございます」と答弁されていますので※3、新法施行後、すぐに対応できるよう法制度を検討しておく必要があります。

発信者情報開示命令事件(非訟手続)

発信者情報開示命令事件

 新法では、「発信者情報開示命令」の制度を新たに作り、裁判所の非訟手続により発信者情報の開示ができるようになりました(新法8条)。

 もっとも現行法と同じく、仮処分と訴訟の2段階で発信者情報を開示請求することも認められています。訴訟手続と非訟手続、どちらを選んでも構いません。また、訴訟と非訟を組み合わせて使う方法についても、弁護士の間では研究され始めています。

手続きの一体化

(1)発信者情報開示命令事件の手続き(匿名サイトの場合)

 発信者情報開示命令事件(新法2条9号)では、現行法で2つに分かれていた手続きを「一体化」し、一連の手続きとして取り扱っています(図2)。

 申立人は、まず、サイト管理者を相手方とするIPアドレスの開示命令を裁判所へ申立てるとともに(新法8条)、これを「本案」とする「提供命令」の申立てをします(新法15条1項)。提供命令が発令されると、サイト管理者から申立人に対し、接続プロバイダの名称が提供されます(新法15条1項1号イ)。

 次に申立人は、開示された接続プロバイダを相手方とする、住所氏名の開示命令を裁判所へ申立てるとともに(新法8条)、これを「本案」とする「消去禁止命令」の申立てをします(新法16条1項)。消去禁止命令は、現行法でのログ保存仮処分に相当するものです。

 申立人が、「接続プロバイダに対し開示命令の申し立てをした」旨をサイト管理者に通知すると、サイト管理者は接続プロバイダに対し、IPアドレス等の情報を提供します(新法15条1項2号)。

 最後に、接続プロバイダに対し開示命令が発令されると、投稿者の住所氏名が開示されます。

(2)「一体化」の意味

 上記のとおり、新法でも、サイト管理者に対する開示命令申し立てと、接続プロバイダに対する開示命令申し立てがあり、分析的に見ると手続きは2つです。

 しかし、接続プロバイダに対する発信者情報開示命令事件は、サイト管理者に対する発信者情報開示命令事件が係属している裁判所の管轄に専属します(専属管轄)。そのため、1つの流れとして、2つの手続きは同じ裁判所で審理されます(新法10条7号)。また、2つの手続きの併合も予定されています。これにより、手続きの一体化が図られます。

(3)開示の迅速化

 開示の迅速化に関しては、IPアドレス開示仮処分よりも、ずっと短い期間で、「提供命令」が発令されると考えられます。そのため、接続プロバイダが判明するまでの期間は、現行法のもとでの手続きより、とても短くなります。

 SNS事業者に対するアカウント情報(電話番号やメールアドレス)の開示請求も迅速化します。現行法と異なり外国への送達が不要なため、4〜7カ月程度短縮できると予想されます。

ログイン型投稿への対応

侵害関連通信

 新法では、ログイン型投稿に対応するため、新たに「侵害関連通信」概念が追加されました(新法5条3項)。定義は「侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号」の送信であり、(1)ログイン(「利用し」)→(2)「侵害情報の送信」→(3)ログアウト(「利用を終了」)の流れにおいて、ログインとログアウトを認識する考え方です。

 発信者情報開示請求で使われる「ログイン」は、上記のように、侵害情報を送信するためのログインに限定されます。そのため現行法のように、侵害情報と無関係なログイン時IPアドレスを網羅的に開示請求したり、侵害情報と無関係なログイン時IPアドレスにより、アカウント利用者の住所氏名を開示請求することはできなくなります。

 もっとも、Twitterなどの取り扱いは事実上変わらず、網羅的にIPアドレスが開示されると予想されます。

特定発信者情報

 新法では、ログイン時IPアドレス、ログイン時タイムスタンプ、ログイン時ポート番号など、「侵害関連通信」に関する情報を「特定発信者情報」と定義し(新法5条1項柱書)、サイト管理者に対し特定発信者情報(ログイン時IPアドレスなど)を開示請求する要件と(新法5条1項3号)、接続プロバイダに対し、特定発信者情報(ログイン時IPアドレスなど)をもとに投稿者の住所氏名を開示請求する要件(新法5条2項)を新設しました。

 サイト管理者に対し特定発信者情報を開示請求する際には、サイト管理者が投稿時IPアドレスを保有していないなどの要件充足が必要です(新法5条1項3号)。他方、接続プロバイダに対し、特定発信者情報をもとに、投稿者の住所氏名を開示請求する際には、そのログイン時IPアドレスが、「侵害関連通信」であることが求められます。つまり、侵害情報の直前のログインに使われたIPアドレスかどうかが問題とされます。

意見聴取義務

 サイト管理者や接続プロバイダは、発信者に対し、「開示の請求に応じるかどうか」につき、意見聴取する必要があります(新法6条1項)。

 現行法にも同様の規定はありますが(現行法4条2項)、新法では、単に「開示の請求に応じるかどうか」だけでなく、「当該開示の請求に応じるべきでない旨の意見である場合には、その理由」も意見聴取せねばならないと規定されています。

 もっとも、現行法のもとでも、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会「プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン」の書式(以下、「ガイドライン書式」といいます)では、開示拒否の場合には、その理由も記載できるようになっています。そのため、新法施行後も運用に大きな変更はないと考えられます。

企業法務における影響と対応

業務への影響や変化 対応緊急度
サイト管理者
末端の接続プロバイダ
末端以外の接続プロバイダ
一般企業

サイト管理者

 インターネットでユーザー参加型コンテンツ(UGC、User Generated Contents)のあるサイトは、現行法のもとでもIPアドレスの開示請求を受けていたはずです。新法施行後は、加えて発信者情報開示命令申立事件の相手方となる可能性があります。

 従前は、IPアドレスとタイムスタンプを請求者に開示するだけだったかもしれませんが、新法の発信者情報開示命令申立事件では、IPアドレスとタイムスタンプから接続プロバイダを特定し、提供命令によって、申立人と接続プロバイダに対し、それぞれ新法(15条1項)の予定する情報を提供する必要があります。

 そのため、現行法より、担当者の業務が増えます。具体的には以下の業務が想定されます。

(1)WHOIS※4等を使い、IPアドレスから接続プロバイダを特定する業務

(2)(1)の接続プロバイダの本社所在地や正式名称を調べて申立人に提供する業務

(3)取り扱っているIPアドレスがログイン時IPアドレスであれば、どれが「侵害関連通信」としてのログイン時IPアドレスなのか特定する業務

(4)特定したログイン時IPアドレスまたは投稿時IPアドレス等を接続プロバイダに提供する業務


接続プロバイダ

(1)末端の接続プロバイダ

 発信者の住所氏名を保有している末端の接続プロバイダであれば、業務内容は現行法のもととあまり変わりません。ただし、発信者情報開示命令申立書を見ても、調査対象のIPアドレスやタイムスタンプは書かれていないため、サイト管理者からの情報提供を待ってからの調査になります。

 発信者へ意見聴取する手続きも現行法のもとと変わりませんが、現行法と異なり、「開示拒否の理由」についても聴取義務があります(新法6条1項)。また、開示拒否の意見であった発信者に対しては、開示命令が発令された際には、その旨を遅滞なく通知する義務があります(新法6条2項)。現行法のもとでは、「認容判決が出たので開示しました」と事後的に通知している接続プロバイダが多いようですが、新法では発令された際に遅滞なく通知しなければならないので、要注意です。

 通知により、発信者から「異議の訴え」を提起するよう求められたときは(新法14条1項)、訴えを提起することについて、少なくとも努力義務があると考えられます。

(2)末端以外の接続プロバイダ

 例えば、MNO※5→MVNE※6→MVNO※7の流れで、左側を上流、右側を下流として説明します。この例でMVNEには、新法のもとでは以下の業務が想定されます。

(1)上流のプロバイダ(MNO)から提供された情報をもとに、下流の接続プロバイダ(MVNO)を特定する業務

(2)下流の接続プロバイダ(MVNO)の本社所在地や正式名称を調べて申立人に提供する業務

(3)発信者を特定するための情報を下流の接続プロバイダ(MNVO)に提供する業務


 現行法のもと、弁護士会23条照会や発信者情報開示請求書(ガイドライン書式)で下流の接続プロバイダを開示していたケースもあるようですが、新法施行後は、上記のような新法の予定する業務が求められます。

一般企業

 サイト管理者でも接続プロバイダでもない一般企業は、申立人の立場で、発信者情報開示命令申立事件に関与する可能性があります。

 自社が名誉毀損などの被害者となった場合は、まず、サイト管理者を相手方として、発信者情報開示命令を申し立てます(新法8条)。業務内容は、現行法のもと、サイト管理者を債務者としてIPアドレスの開示仮処分を申し立てるのとあまり変わりません。

 自社の従業員が被害者となった場合には、福利厚生として費用を企業で負担するかどうかは別として、申立人は当該従業員です。そのため、新法施行後も、業務内容に変更はありません。

準備の必要

 上記のとおり、新法施行後は、すぐにでも発信者情報開示命令が申し立てられる可能性があるため、サイト管理者や接続プロバイダでは、事前に業務フローや最高裁規則、総務省令の確認といった準備をしておく必要があります。特に、新法で追加された「特定発信者情報」(新法5条1項)にどのようなものがあるかと、海外法人を相手方とする発信者情報開示命令申立の国内管轄(新法10条2項)は要確認です。

編集部注

※1:参考条文:弁護士 神田知宏 公式サイト「令和3年プロバイダ責任制限法」(2021年4月22日、2021年5月21日最終確認)

※2:日本経済新聞「木村花さん自宅に遺書か SNSで中傷投稿相次ぐ」(2020年5月25日、2021年5月21日最終確認)

※3:第204回国会 参議院 総務委員会 第11号(2021年4月20日)

※4:IPアドレスやドメイン名の利用者を検索するサービス(出典:一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター「WHOISとは」(2021年5月24日最終確認))

※5:Mobile Network Operator:移動体通信事業者

※6:Mobile Virtual Network Enabler:仮想移動体サービス提供者

※7:Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者

本記事は2021年6月14日掲載(2021年8月12日最終更新)のBUSINESS LAWYERS「令和3年改正プロバイダ責任制限法の影響度と実務対応 - 新たな裁判手続の創設、ログイン型投稿への対応、意見聴取義務」をキーマンズネット編集部が一部編集の上、転載したものです。

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