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多忙な現場がロボットの8割を開発、コロナ禍でフジテックが実践したこと

多忙な状況にもかかわらず、ロボットの87%を現場で内製しているというフジテック。コロナ禍でどのような工夫をしたのか。

» 2021年10月06日 07時00分 公開
[元廣妙子キーマンズネット]

 RPA(Robotic Process Automation)の導入企業からは、「費用対効果が見込める業務がない」「現場の小粒な業務を自動化しても、費用対効果が合わない」といった声が聞かれる。一方で製造業のフジテックは、現場の“小粒”な業務の自動化を積み重ねることにより、RPAの導入から約1年半で年間7280時間の業務削減を達成した。

 現在は昇降機の事業部門を中心に23部門で68ロボットが稼働しているが、驚くべきはその87%を事業部門のメンバーが開発しているということだ。多忙な現場のメンバーが外部のコンサルタントの力を頼らず自力でRPAのロボットを開発するのは困難なようにも思えるが、どのような工夫をし、開発に無縁の従業員をどう教育したのか。また導入プロジェクトの最中に襲ったコロナ禍にどう対応したのか。フジテックの友岡賢二氏(常務執行役員 デジタルイノベーション本部)と山本健治氏(デジタルイノベーション本部 プロセス管理部 部長)が取り組みの内容を語った。

ロボットの87%をエンドユーザーが開発

 昇降機の専業メーカーであるフジテックは、中期経営計画としてデジタル技術でビジネスプロセスを革新する「デジタル化の推進」を掲げ、2019年4月にデジタルイノベーション本部を立ち上げた。デジタルイノベーション本部は、R&D機能を担当するテクノロジー研究部と内製DevOpsを担当するシステム管理部、現場の改善を担当するプロセス管理部の3部門で構成される。

 プロセス管理部は立ち上げ早々、業務プロセスの調査を行った。その結果、SaaSなどの社外システムへの入力や集計作業などのスキマ業務が従業員の生産性を下げていることが分かったという。

業務プロセス調査で見えた結果(出典:フジテックの発表会資料)

 これらのスキマ業務を自動化できないかと考えたフジテックは、2019年の10月にRPAの導入を開始した。友岡氏は「働く場所や時間、『特定の人しか作業ができない』ような担当者の制限を排除し、業務の自動化によって削減できた時間を従業員の育成や学習に充て、従業員をより付加価値の高い業務に専念させたい」という当時の思いを振り返る。

 同社では、事業部門のメンバーがロボットを開発し、情報システム部門がそのサポートと、出来上がったロボットの運用を担当する。「11人の情報シス担当者がRPAサポートチームに所属し、担当領域の業務システムに関与するRPAの運用を実施している。ユーザーの相談窓口を担当領域ごとに分けられ、解決策をRPAに限定せず最適解を検討できる」と山本氏は説明する。

 エンドユーザーが主体となって開発を担う意義も大きい。事業部門のITリテラシーが高まり、現場主体のデジタル活用が進んだ。だが、いくら情報システム部門のサポートがあるとはいえ、担当業務で多忙なエンドユーザーがRPAの開発スキルを身に付け、実用的なロボットを開発することは簡単ではない。どのような工夫をしたのか。

エンドユーザーを開発者にする仕掛け

 工夫の一つが、エンドユーザーに向けた「RPA取組説明会」だ。2019年11月に3日間開催し、計190人が参加した。RPAの基本的な説明や導入目的、効果について説明した。単純作業や定型業務からの解放、より高度な仕事へのシフト、単純ミスの削減による作業ストレスからの解放、ルーティンワークのロボット代行による効率改善などの導入効果を強調したという。説明会後にRPA化したい業務を全社で募集したところ、約200件の業務が集まり、121件ほどがRPA化に適していた。だが、その多くが年間120時間以内で行う小粒な業務だったため、小規模な自動化を積み重ねる方針に決めたという。

 部門メンバーに向けたRPAの操作研修にも工夫を凝らした。操作研修会を開始しようという時期にコロナ禍に見舞われ、在宅勤務や移動制限を余儀なくされたが、オンラインシフトによって対応した。2021年6月までに35回のオンライン研修を実施し、今後も続けていく予定だ。なお、RPAツールは「Automation Anywhere」を活用し、ロボットを「Amazon Web Services」(AWS)で運用している。「リモートであっても、クラウド環境に接続すればRPAの開発や管理、実行ができる。コロナ禍であっても、当初のスケジュール通りにプロジェクトを進行できた」と山本氏は振り返る。

KPIで進捗、成果管理(出典:フジテックの発表会資料)

 従業員同士の情報共有の場としては、「RPAサポートサイト」を用意し、RPAの概要や開発のノウハウ、ガイドライン、サンプル集などの情報を集約した。従業員のモチベーションを維持する施策として、各ユーザーの研修受講率や開発申請数、開発進捗(しんちょく)や運用効果をグラフ化し「努力を可視化」する他、「RPA開発者番付」というコンテストの仕組みも作った。「RPA開発者番付では、ロボットを最も多く開発した従業員に『西の横綱』、最大の効果を創出したロボットを作成した従業員に『東の横綱』という称号を与えました」と友岡氏は話す。

 さまざまな工夫によってロボットを内製化する環境を整えたフジテックだが、外部のコンサルタントに頼らないという選択が、結果的にKPIの早期達成に寄与した。同社は2019年10月のRPA導入時に、2021年度に4000時間、2024年度に7000時間分の削減効果を創出するという目標を掲げていたが、2021年の6月時点で7280時間という削減時間に到達し、KPIを3年前倒しで達成したのだ。

RPAによる業務自動化の事例

 一般的に、RPA化しやすい業務としてバックオフィス業務が挙げられるが、フジテックではフロントオフィス業務が主な対象業務で、削減時間の97%を占める。以下では、同社が自動化した3つの業務を挙げる。

 一つは、定期検査報告書作成業務だ。検査業務部門がエレベーターの定期検査を行った後、外部のシステム(定期検査支援システム)に検査報告を入力する業務をRPAで自動化した。手順は以下の通りだ。

  • 検査結果のデータが入力されている社内システムを開き、データを取得する
  • 取得したデータを「Microsoft Excel」に貼り付ける
  • 定期検査支援システムの形式に合わせてExcelデータを成形する
  • 定期検査支援システムを立ち上げ、該当する箇所を検索して開く
  • Excelで成形したデータを貼り付ける

 手作業では1件あたり40分程度かかっていたが、RPA化により約4分で完了できるようになった。従来は、定期検査の度に作業をしていたが、週次でまとめることで作業効率が上がったという。

 2つ目は、製品保管分析用のデータ作成業務だ。国内物流部門が全国の物流拠点で保管する製品の保管状況をデータ化し、RPAとBIツールの連携でデータ分析を自動化した。RPAでデータを自動集計するだけでなく、BIツールを利用して結果をグラフィカルに表示させることで、データ分析が容易になった。

 最後は、知的財産部門による特許、意匠、商標データの入力作業だ。出願作業にRPAを適用させることでプロセスが簡素化したという。

 今後は、BIやAI-OCRなどのITツールの活用を進め、単純作業から従業員を解放し、創造的でより付加価値の高い仕事に専念できる職場づくりを進めていくという。

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