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関心高まる環境対策 「グリーントランスフォーメーション」に企業はどう向き合うべきか?

再生可能なクリーンエネルギーに転換することで脱炭素化に貢献するGX(グリーントランスフォーメーション)。GXに関連した国内IT市場とともに、GX ITの定義やベンダーの動向、ユースケースや市場予測などを詳しく見ていく。

» 2021年10月27日 07時00分 公開
[村西 明IDC Japan]

アナリストプロフィール

村西 明(Muranishi Akira):ITスペンディング グループマネージャー

IDC Japanにおいてリサーチ部門のITスペンディングのグループマネージャーとして、国内IT投資動向のリサーチ全般及び、公共系(官公庁/自治体/スマートシティ/文教関連等)のIT投資を担当する。


情報システム部門が強い関心を見せる「環境対策」

 現在、IT部門で環境対策への関心が高まっている。IDCが企業の情報システム部門に対して実施したIT支出重点項目に関する調査では、2020年は2.1%程度だった環境対策が、2021年度には4.8%まで上昇した。2020年、2021年ともにセキュリティや働き方改革に関連した項目が上位を占めるなか、環境対策は16位から7位にまで順位を上げた。

 業務の効率化や新規事業の創出などを目的としてDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む一方で、デジタル技術を活用して大規模な環境変化へ柔軟に適応し、新たなビジネス機会から成長を加速させていく「デジタルレジリエンシー」にも企業の関心の目が集まる。

 環境対策においてもSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みが注目され、サスティナビリティ―の重要性が高まり、脱炭素化GX(グリーントランスフォーメーション)などの非財務諸表領域への貢献も求められている。この動きにITがどう関わってくるのかを調査した。

「GX by IT」を中心とした脱炭素化GX

 本稿のテーマであるGXとは、温室効果ガスの排出源である化石燃料や電力を再生可能エネルギーや脱炭素ガスに転換することで、社会経済を変革させることを指す。脱炭素化に向けてオンプレミスシステムをクラウド化するだけでも省エネにつながるが、そもそもクラウド化の主たる目的は業務の効率化やサービスを利用することが中心だ。工場におけるエネルギーの見える化についても、工場管理の一環として行われており、脱炭素が主目的ではない。

 これらはいわゆる「GX of IT」の領域であり、他のIT市場に含まれるケースが多い。IDCが定義する脱炭素化GXとは、クラウド化やサーバの省エネ技術など「ITの省エネ」を意味する「of IT」部分は含めず、ITによって脱炭素化を推進する「GX by IT」に絞ったものだ。その上で市場調査を実施した。

 なお、昨今話題のSDGsとGXの関係についてだが、持続可能な世界の実現に向けて17の目標を掲げるSDGsは広範で、飢餓や水の問題などさまざまな社会問題に対するゴールが定められている。この中で脱炭素化に関連するのが、開発目標3「すべての人に健康と福祉を」および開発目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」の部分だ。

 特に安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを全ての人に確保する目標7については、スマートシティーやスマートグリッドなどさまざまな施策で脱炭素化が関係するとIDCは整理する。

GX by ITに含まれるソリューション群

 GX by ITでは、具体的にどのITソリューションがターゲットとなるのだろうか。

 環境に関連する重要なITソリューションとしては、分散型エネルギーを中心とした再生可能エネルギーの需給バランスを管理するシステムや、EV(電気自動車)を開発するためのシミュレーションツールなどだろう。将来的に脱炭素税が導入された場合は、経理システムなどもGX関連市場に含まれる。さらに、サプライチェーンのなかで脱炭素由来の原材料などを使用しているかどうかを追跡する仕組みや、脱炭素化に向けた共同輸送の仕組みなども含まれる。

 脱炭素化GXのIT市場に含まれるものは、大きく「自社事務所の炭素化」「自社事業の脱炭素化」「SDGs/ESG対応」「脱炭素化を生かした新規事業」の4つにカテゴリ分けができる。

 「自社事務所の炭素化」については、CO2排出量をはじめとしたエネルギーの見える化や再生可能エネルギーの重要と供給を制御する仕組み、蓄電池を含めたエネルギーネットワークや省エネ、省人化に貢献するスマートファクトリーなどが含まれる。このカテゴリーは現時点で市場規模が最も大きなものとなっている。

 次に「自社事業の脱炭素化」については、EVや水素電池といった脱炭素化製品を開発するシミュレーションツールをはじめ、再生可能エネルギーなど脱炭素由来の手法で部品が製造されたかどうかを追跡、保証するシステム、共同輸送などの物流システム、再生可能エネルギーの取引システム、そしてEV充電設備の認証および制御システムなどが該当する。なかでも、ブロックチェーンやスマートコントラクトを軸にしたEV充電設備の認証などは今後大きな広がりを見せるだろうとIDCは予測し、特に共同マンションや事務所といった、現在でも充電設備が整っていない場所に設置が広がることで、ビジネスの拡大が期待される領域だ。

 そして「SDGs/ESG対応」については、SDGsやESG(Environment:環境、Socia:社会、Governance:ガバナンス)などの指標を見える化する仕組みをはじめ、CO2排出量や炭素税などを算出するシステムなどが該当する。「脱炭素化を生かした新規事業」には、MaaS(Mobility as a Service)関連や脱炭素化推進のコンサルティングサービス、脱炭素化を中心としたマーケティングの仕組みなど、エネルギーデータを活用した新たな商品開発がこの領域に含まれる。

前年比18%を超える伸びを示すGX IT市場予測

 IDCは、2021年の国内GX IT市場規模および2025年までの国内GX IT市場規模を予測した。この調査は初めての試みであり、2020年度についてはこれまで行ってきたIT市場の実績を基に、取材やアンケート調査を行った上で前年度と比較した。

 2021年の国内GX IT市場規模に関しては4995億円と予測しており、前年比18.2%増と見ている。2021年度については、4つのカテゴリーのうち「自社事務所の炭素化」に関連したITソリューションがその中心となり、GXそのものの認知度は約80%の人に認知される状況であることが調査から明らかになった。また、GXにおけるデータビジネス創出の可能性についても、産業全体の約60%が「可能性を感じている」と回答した。

 こうした結果の背景にあるのは、グローバルと比べて環境整備が遅れていることや、新たな税制の導入など、先行きの不透明さが影響しているようだ。日本では2012年に「地球温暖化対策のための税」が段階的に施行されたが、欧米と比べて温室効果ガスへの対策が遅れており、今後は炭素税の導入についての議論も進むことが考えられる。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響から、環境対策も含めた社会環境の変化に対してIT部門変革の必要性を感じている人が増えていることも、GXの認知度の高さを支えている要因だろう。もちろん、環境対策への積極的な取り組みを進めているサプライヤーやITベンダーの提案を含め、関心を持つきっかけが増えていることもGXの認知度に影響しているはずだ。

 そして、2020年〜2025年の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は22.6%と予測しており、2025年における市場規模は1兆1715億円に達するとIDCは見ている。2021年度以降については、「自社事業の脱炭素化」に関連したソリューションが大きく伸びてくると予測する。

 なお、GXに関連したITソリューションは、環境センサーを活用したIoT(モノのインターネット)や認証などに利用されるブロックチェーンやスマートコントラクトといった、多岐にわたる技術を用いることになるため、ユーザー企業だけでGXに取り組むのは難しい面もある。そこで重要になるのが、脱炭素化の取り組みを支援するITベンダーとのパートナーシップだ。今回の調査ではITベンダーに期待することも聞いており、「技術力」「提案力」「共創力」などが上位を占め、「価格」よりも高くなっていることが明らかになった。

脱炭素化の取り組みを支援するITベンダーに期待する点(出典:IDC Japan提供の資料)

GXに関するベンダーの注目すべき動向

 GX ITに関するITベンダーの動向に関しては、例えばトレーサビリティーやエネルギーの見える化などのソリューションを拡販するために、大手ITベンダーなどが地場の企業に向けてコンサルティングサービスを地道に進めている。一方で、スタートアップでも見える化をはじめとした幾つかのソリューションが登場しており、さまざまなプレイヤーが市場に参入しつつある。

 なかでもNECは、分散型エネルギーリソースを統合制御し、調整力を創出するクラウドサービスを展開している。分散設置された発電設備や蓄電設備などを束ねて1つの発電所のように制御するVPP(Virtual Power Plant)サービスを需要家と直接契約してリソース制御を行うなど、早くからエネルギー・リソース・アグリゲーション事業に着目している企業の一つだ。また日立製作所は「Lumada」と呼ぶIoTプラットフォームを展開しており、産業分野では強みがある。こうしたIoTプラットフォームを生かしてエネルギーを見える化し、脱炭素の支援をするといった動きも注目するところだ。

 特にエネルギーに関しては、従来は電力会社などにおけるITの見える化が中心だったが、全産業に関わるGX ITについては、クロスインダストリーの考え方が重要になってくる。例えば金融業界では、自社店舗の脱炭素化への取り組みだけではなく、企業の脱炭素化の取り組みも融資の指標になりつつある。その意味でも、融資先となる中小企業も含めて、クロスインダストリーで脱炭素化に取り組むことがGX ITにおいては求められてくる。

GX ITに関連した具体的なユースケース

 ここで、GX ITに関連した具体的なユースケースについても紹介しておこう。1つは、EVを軸にした自治体による実証実験だ。マンションに設置されたEVの充電設備に関する使用量の見える化や課金の仕組み、充電設備の利用においてブロックチェーンやスマートコントラクトを軸にした個人情報を用いた認証の仕組みなどを整備する実証実験を一部の自治体が実施している。マンションを管理するデベロッパーやITベンダー、保険会社、学術団体など、異業種連携によってGX ITが進められている。

 またスマートシティー関連のユースケースでは、環境省が行う「脱炭素型地域交通モデル構築事業」に小田原市が取り組んでいる。カーシェアリングを中心に人流の創出や防災機能強化などを進めながら、カーシェア利用時にポイントを付与することで地域通貨のように脱炭素をクーポンに変換するなど、地域資源を最大限活用しながら自立、分散型の社会を形成し、資源を補完し支え合うことで地域の活力が最大限に発揮される地域循環共生圏に向けた活動を進めているところだ。

企業はGX ITにどう取り組むべきか

 最後に、企業がこれからGX ITを取り組む際に、どのようなポイントに留意すべきだろうか。重要なポイントの一つが、トレーサビリティーだ。昨今では強制労働や人権侵害などが大きな社会問題となり、環境意識の高い消費者に対してあたかも環境に配慮しているかのように見せる「グリーンウォッシュ」なども話題だ。こうした問題とならないよう、企業として環境に関連した情報をトレースする仕組みの整備が必要だ。そこで得られたデータはESGや企業の公開情報などに活用されるため、トレーサビリティーの仕組みは十分検討する必要があるだろう。

 また、前述したユースケースのように、エコシステムの観点から異業種との連携が重要になるため、情報システム部門だけに閉じた話ではないことも認識しておきたい。マンション管理組合との連携などITとは遠い環境とも柔軟に連携する必要があり、GXを意識した上で最新テクノロジーをどう活用し、自社の事業を支えていくのかという意識を持つことが重要になる。

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