「DXのためにIT部門を従来の保守的な業務から開放すべきだ」と言われて久しい。業務のデジタル化や自動化といった取り組みが進む一方、テレワークによって現場で起きるIT部門の問題を、経営者が察知できていない可能性がある。
RPA(Robotic Process Automation)は、2020年には幻滅期の底を脱して普及期に移ったとされる。今後はAI(人工知能)などとのテクノロジーを組み合わせた「ハイパーオートメーション」分野でのさらなる需要拡大が期待される。本連載(全5回)では“RPA活用の現在地”を探るため、キーマンズネット編集部が実施したアンケート調査(2021年9月16日〜10月8日、有効回答数378件)を基に、RPAの導入状況と社内各部署への展開状況、問題点や得られた成果など、RPA活用の実態を分析する。
第3回となる本稿では、テレワークとRPAの現状を紹介する。RPAによる業務の自動化やテレワークがDXの「決まり文句」とされる一方で、新たな課題が現場に負荷をかけ、それに経営者が気付けていない可能性が見えた。
企業がRPAを導入するのは、ルーティン業務の自動化やヒューマンエラーの無効化によって人間がより創造的な業務に専念し、生産性を高めるためだ。コロナ禍以降、テレワークが普及した中では、非対面ビジネスへの注力による競合との差別化や先行者利益の獲得といった効果が期待される。
そこで、テレワーク環境下におけるRPAの利用について聞いたところ、全ての業種や従業員規模、所属組織において「通常通り利用している」という回答が最大だった(図1)。
特に目立つのが従業員数5001人以上の大企業で、74%超が「通常通り」と回答している。大企業は一般的にテレワークの導入も先行しているため、非対面ビジネスとRPAはうまくかみ合っているように見える。しかし、ハイパーオートメーションやテレワーク対応に視点を変えて活用状況を聞くと、様相は異なる。
業務の自動化は対象業務に最も精通する現場部門とロボットを管理するIT部門の連携が不可欠で、テレワークにおいてはクラウド型のRPAが理想だ。しかし「現在どのタイプのRPAを使っているか」を聞くと、クラウド型のRPAツールを利用している企業は13%にとどまった(図2)。
最も回答の割合が高かった「デスクトップ型」は、従業員の端末に個別にインストールして利用するものだ。スモールスタートが可能で、組織的な管理を想定せずに個々の従業員が自身のスキルに合わせて自由に利用できる。一方で個人が自由に使うため個別最適化やサイロ化、属人化は解消できず、スキルの高くない人材はIT部門に頼らざるを得ないなど、全体最適につながる自動化が難しくなる。
上記の結果から、RPAが「順調に稼働している」と感じていても、それがRPAの最適な利用方法であるかは疑問が生じる。
RPAが順調に、最適な状況で稼働しているかの評価は、組織内の立ち位置によっても異なる。「2020年からのコロナ禍において、RPAを利用する上で発生した(しそうな)問題」を複数回答で聞いたところ、デスクトップ型やサーバ型で起きがちな「ロボットが停止した時の対応が難しくなった」(29.6%)という課題や、テレワークでノウハウが分散したことによる「RPA人材の育成が難しくなった」(20.4%)などに回答が集まった一方、最も多かったのは「特にない」(43.2%)だった(図3)。
所属部門を見ると、経営者や経営部門は全回答者がテレワークに関するRPAの課題を「特にない」と回答したが、経営企画部門や情報システム部門では3人中2人が何かしらの問題があると回答した。経営者が「テレワークでもRPAは順調に稼働している」と思っていても、現場が「順調に見えるように働いているだけ」という可能性を考慮する必要がある。
自由記述の回答には、現場部門の実態として「専用PCで稼働するため外部からアクセスできない」や「出勤前提のRPAを利用するため、テレワークができなかった」といったコメントが寄せられた。
コロナ禍によってRPAに生じた問題に、どのように対応しているかを聞いたところ、最も多かった回答は「特にない」(55.8%)だった(図4)。
対策をしているという回答の中で最も多かったのは「オンラインの展示会やセミナー、イベントに参加した」(29.6%)で、何かしらの模索はされている。しかし「社外からアクセスできる環境を整えた」(11.7%)や「クラウド型RPAツールの導入」(5.3%)といったリモート対応の仕組みを整備した回答は少ない。
「その他」に寄せられたフリーコメントには「トラブルが起きる度に出社して対応している」や「経営層へのアプローチを検討している」というものが目立ち、現時点では仕組みの見直しよりも「現場の頑張り」に依存している様子が見える。
定量的な評価基準を残業時間や業務時間の削減に置くと、部分最適化にとどまっても「RPAによって業務時間を削減した」という結果は得られる。しかし、全体最適化のためのプロセスの見直しには至らないため、ハイパーオートメーションやDXの実現は遠ざかってしまう。
既存の業務が効率化されているという分かりやすい評価を追うことで、RPAの最適な使い方から外れている可能性がないかは再考する余地がある。
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