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» 2022年01月19日 08時00分 公開

仏教と科学技術の融合で心の理想状態を導く「サイキ・ナビゲーション・システム」とは

デジタル技術を心身の健康に役立てる研究が進んでいる。しかし、人が幸せを感じる心の状態を定量的かつ科学的に解明し、その状態に近づける技術に正面から取り組んだ研究はほとんどなかった。その難題に、伝統知と科学技術で答えようとする研究が「サイキ・ナビゲーション・システム」開発だ。

[土肥正弘,キーマンズネット]

「サイキ・ナビゲーション・システム」とは?

 人文領域の研究と科学技術、デジタル技術を融合し、人の心を「理想状態」に近づけるために研究開発が進むのが「サイキ・ナビゲーション・システム」(Psyche Navigation System/以下、PNS)だ。「心の理想状態」を宗教や哲学といった伝統知から探り出し、個人個人の心の状態を定量化する心理計測技術と「心理アクチュエーション」技術を駆使して幸せや安寧を感じる状態に導くことを目指す。

 この技術は、単一の学問領域や研究領域ではなく、図1に示すような思想哲学空間と感情空間、情報空間、物理空間において多様で多岐にわたる研究と技術開発が必要で、壮大なフレームを持つ総合科学的な開発となる。2021年には科学技術振興機構(JST)のムーンショット型研究開発事業、新たな目標検討のためのビジョン策定(ミレニア・プログラム)で採択された。

図1 サイキ・ナビゲーション・システム(PNS)開発に関連する分野、要素技術(出典:京都大学こころの未来研究センター)

研究の発端は仏教の価値観が根付くブータン社会への感銘

 この研究の端緒を開いた京都大学こころの未来研究センターの熊谷誠慈准教授は、仏教学専攻でインドやチベット、ブータンの歴史と哲学、古文書研究を専門とする。熊谷氏は仏教の価値観が色濃いブータン社会に感銘を受けPNSの研究開発に至った。PNS研究には、認知科学の専門家である京都大学こころの未来研究センター特定講師の上田祥行氏や同大情報学研究科准教授の粟野皓光氏、情報システム工学の専門家であり「粉末コンピュータ」(極小サイズの情報機器)開発などにも携わる大阪大学教授の三浦典之氏らも参画する。

 「仏教国のブータンでは、仏教倫理や哲学が社会の隅々に浸透しています。GNH(国民総幸福量)という独自の国家指標を打ち出し、政策に仏教倫理、哲学を取り入れた国でもあります。幸福とは何かの指標を作るだけでなく、どう幸福を目指すかの取り組みに仏教の価値観が反映されています。GNHは日本でも東京都荒川区などの市区町村をはじめ県単位の自治体からも関心が寄せられ、『幸せリーグ(住民の幸福実感向上を目指す基礎自治体連合)』を形成する動きも出てきています。このGNHのエッセンスから、心の理想状態に近づくための本質的な答え、汎用(はんよう)的に応用できる技術が求められるのではないかと考えたのが始まりです」(熊谷氏)。

 ブータンのGNHは、「持続可能で公平な社会経済開発」「環境保護」「文化の推進」「良き統治」を4本柱とし、指標として「心理的な幸福」「国民の健康」「教育」「文化の多様性」「地域の活力」「環境の多様性と活力」「時間の使い方とバランス」「生活水準・所得」「良き統治」の9分野を設定している。

取り組みによる最初の成果は悩みを解決する仏教対話AI「ブッダボット」

 GNH指標は日本企業も積極的に取り組む従業員のメンタルヘルス改善施策に通じるが、この枠組をそのまま日本に輸入しても歴史や文化の違いから導入は難しい。さらにGNH指標はインタビューなどを基に人の判断で数値化するため、主観的要素が強くなってしまう。そこで熊谷氏は心理状態を定量的に分析できる客観指標によるメンタルフィットネス(従業員などの潜在能力を引き出す心の鍛え方)が実現できないかと考えた。

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