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RPA×iPaaSで“幻滅期”を脱する、日本企業のためのハイパーオートメーションの筋道

RPAの限界を乗り越え、ハイパーオートメーションを実現するための鍵としてiPaaSが期待を集めている。RPAとiPaaSを“かしこく”活用することで、日本企業ならではのハイパーオートメーションを実現できるという。

» 2022年03月16日 09時00分 公開
[吉村哲樹オフィスティー・ワイ]

 RPA(Robotics Process Automation)は比較的低コスト、短期間で導入できる業務効率化の手段として多くの日本企業が導入し、成果を上げてきた。近年は、RPAで小規模な自動化に成功した企業が、より広範な業務を自動化する「ハイパーオートメーション」を目指すケースもある。

 だが、早くも壁に突き当たっている企業も少なくないようだ。RPAは部門に閉じた一部の作業を自動化するツールとしては優れているが、その適用範囲を広げようとするとさまざまな課題が噴出してくる。

 そこで注目を集めているのが、「iPaaS」と呼ばれるソリューションだ。iPaaSは“Integration Platform as a Service”の略称で、APIを利用して複数のシステムをまたぐプロセスやデータの連携を実現するクラウドサービスだ。RPAと組み合わせることで、部門を横断するような業務の自動化が可能になると期待を集めている。

 本稿ではRPAの限界と、それを補完するiPaaSの機能や導入効果について、iPaaSの製品ベンダーであるWorkato日本法人のカントリーマネージャー 中川誠一氏と、業務自動化のエバンジェリストである日立ソリューションズの松本匡孝氏(営業統括本部 インサイドセールス第1部 部長代理/エバンジェリスト)に語り合ってもらった。

RPAの限界を突破できるソリューションとして注目を集める「iPaaS」

Workato 中川誠一氏

──日本は世界的に見ても、RPAが広く普及している国だと言われています。一方で、RPAの限界も一部では指摘されています。RPAを使った業務自動化の現状をどのように捉えていますか?

中川氏: RPAはユーザーがPC画面で行うシステムの操作を自動化するものとして優れています。しかし、部門を横断するような業務を自動化させようとすると“無理”が生じるというのが事実です。RPAの得意領域である個々の作業を超えて自動化のスコープを拡大すればシナリオが複雑化し、RPAの本来の強みである「ローコード/ノーコードによる開発」が難しくなり、SIerの助けが必要になります。

 企業全体のビジネスを最適化するためには、RPAは部分最適のツールであるということを認識し、それとは別に「個々の作業(プロセス)をつないで全体最適を目指す」手段が必要です。

日立ソリューションズ 松本匡孝氏

松本氏: 確かにRPAは多くの日本企業に導入されて一定の効果を上げましたが、「限界がある」とも実感しています。

 RPAは、PC画面の操作ボタンや入力項目の位置を認識して「ボタンを押す」「コピペする」といった操作の積み重ねを模倣するため、画面UIなどの仕様変更や予期せぬ動作で止まってしまいます。また、テレワークに対応するには、社外からRPAを実行・管理をするために認証や通信環境を整えるだけでなく、ロボットの監視や再起動などの作業も必要です。リモート環境でRPAを運用するにはこれまで以上に手間も掛かります。

 多くの企業は部署ごとにRPAを導入・開発して小規模な自動化を成功させていますが、部署の垣根を超えてそれらを連携させることはハードルが高いですね。結局は局所的な自動化に止まり「ROI(投資対効果)が出ない」と嘆く声も聞かれます。

中川氏: はい。これらの弱点を補いながら「プロセスをつなぐ」ソリューションとして、iPaaSがあります。iPaaSは、複数のシステムをまたぐプロセスやデータの連携機能を提供するクラウドサービスです。

図1 iPaaSとRPAの違い(出典;日立ソリューションズの提供資料)

 PCの画面を介さずAPIを通じて内部的にデータを連携させるので、画面UIなどの仕様変更の影響を受けず動作します。APIで機能を呼び出せるため、「データの処理が完了した」「特定の操作が終わった」というようなイベントをきっかけに自動化フローを連動させる際も複雑なシナリオ設計は必要ありません。

 Workatoでは、自動化のシナリオを設計する際、API連携を可能にするための「コネクタ」やアクションなどの部品を作業エリアにGUI操作で配置します。イベントをトリガーにした実行や条件分岐も「ノーコード/ローコード」で設定できるので、事業部門の方が開発に参画しているケースもあります。デスクトップを介さないことから大量のデータ連携に向いていて、その点ではETL、EAI、ESBのような「システム連携」のツールとも機能が重複します。

図2 Workatoによる自動化シナリオ(レシピ)の設計方法(出典;日立ソリューションズの提供資料)

松本氏: iPaaSは業務現場の方々だけではなく、企業のIT部門の方々からもプロセス連携・データ連携のためのミドルウェアとして注目を集めていますね。例えば基幹系システムとして導入している「SAP ERP」を他のシステムと連携させる際に、インタフェースを一から開発するよりはiPaaSを導入した方が手間やコストを抑えられる可能性があります。既に米国では、iPaaSのさまざまなユースケースが出てきています。

中川氏: はい。これまで「業務の自動化(オートメーション)」と「システム連携(インテグレーション)」は別のカテゴリーで語られていましたが、iPaaSはそれらを掛け合わせることで「業務全体の自動化」、いわゆるハイパーオートメーションを実現するカギになると思っています。

日本企業におけるiPaaS導入の現状と課題

──日本におけるiPaaSの認知度や導入はどのような状況でしょうか。

松本氏: 日本においてiPaaSの認知度はまだそれほど高いとは言えません。弊社は、RPAの悩みや業務自動化の課題を解決する手段の1つとして、Workatoを提案しています。RPAの効用や限界を実感されているお客さまや、業務自動化へのモチベーションが非常に高いお客さまは、iPaaSの機能や導入効果に対して「いいね!」と言ってくれます。

 とはいえ、日本企業においては米国のようにはクラウドサービスの利用が進んでおらず、利用中のオンプレミスシステムがAPIを持たないといったケースもあります。いざiPaaSの導入を検討すると、APIを持たないシステムが思った以上に多く、iPaaSで連携するにはかなりの開発作業が必要なことが分かり、「RPAでいいかな……」となるケースが多く見られますね。

中川氏: はい。ただ多くのiPaaS製品は、APIを持たないシステムでもCSVやExcelなどのファイルを介したデータ連携が可能ですし、弊社の製品は例えば「IBM i」(AS/400)などに代表される既存のレガシーシステムのデータベースとも接続できます。「iPaaSはクラウドサービスをつなげるためのもので、APIがないとつなげられない」という誤解がありますが、実際にはAPIがないシステムとも連携できる事実を私たちベンダーもきちんと発信していく必要があると考えています。

 「iPaaSは業務を全社規模で自動化するDXの取り組み」「まずはすべての業務を棚卸しなくては」と大上段に構えてしまう方も多いのですが、「従業員の入社・退社に伴うアカウント生成や削除業務の自動化」といったような一部の業務から適用し、徐々に基幹業務にまで適用範囲を広げる方法もよいでしょう。今後はSAPの「S/4HANA」に代表されるように基幹系システムのクラウド化が進み、API連携も当たり前になってくると思います。

 小さな成功体験を積みながら、最終的には業務の全体最適というゴールを見据えた活用ができることが肝です。

日本企業のためのハイパーオートメーションの筋道

松本氏: 日本企業においては既にRPAが普及しているので、RPAとiPaaSを適材適所に活用することで自動化の範囲をさらに広げられると考えています。弊社は、APIを持たない基幹システムやレガシーシステム、Excelファイルの連携をRPAで、APIのあるERPやクラウドサービス、マイクロサービスなどの連携をiPaaSで実行することを推奨しています。

 ちなみに日立ソリューションズでは、WorkatoとRPAを接続するためのコネクタを独自開発しています。RPAによる業務自動化やシステム連携に限界を感じている方々が、このコネクタとWorkatoを組み合わせて利用することで、APIの有無やクラウド・オンプレミスの別なくさまざまなシステムを自動連携させたハイパーオートメーションを実現できます。

──特に注目しているユースケースはありますか?

松本氏: 個人的には、チャットbotとiPaaS、RPAを連携させたソリューションに注目しています。Workatoは「Workbot for Slack」「Workbot for Teams」などのコネクタを通じてSlackやTeamsと容易に連携できます。この機能を活用すれば、複数のシステムをRPAやWorkatoで連携させた上で、ユーザーとシステム間のインタフェースをSlackやTeamsのチャットbotに集約できると考えています。日立グループ内では、実際にこの仕組みを旅費精算の業務に実装しました。

 ユーザーがOutlookのスケジューラーに行先を登録すると、それをトリガーにWorkatoがRPAを起動して乗り換え検索サイトから候補ルートを取得します。その候補ルートをチャットbot上でユーザーに提示し、これをユーザーが承認するとRPAが旅費清算システムで清算処理を自動実行します。実に便利で「これはあらゆる業務に横展開可能だ」と感じました。

中川氏: Salecforce.comへの案件登録や日報入力、人事システムへの勤怠管理や打刻の入力なども、いちいちPCを立ち上げてキーボードで入力するよりスマホからチャットbotで入力できれば便利ですよね。こうしたiPaaSの使い方は米国では既にかなり一般的になってきていますし、日本でも引き合いが多いものです。今後はiPaaSとRPAでプロセスを連携させた上で、人間による入力やチェック、判断が必要な部分だけをチャットボットに集約して実行するという業務自動化ソリューションが増えてくるのではないでしょうか。

ハイパーオートメーション実現に必要な組織・制度

──iPaaSとRPAを組み合わせたハイパーオートメーションを実現するためには、複数の部署をまたいだ業務を連携させる必要があります。CoE(Center of Excellence)のような部門横断でプロジェクトを指揮する組織が必要だと言われています。

松本氏: 日本の企業でCoEのような組織を立ち上げる場合、得てして既存組織の配下に置かれる傾向にあり、メンバーも兼務の場合が多いですよね。こうした体制では組織に現場を動かすだけの権限がないために、どれだけ優秀な人材を集めて優れたアイデアを出しても現場の従業員は動きません。経営トップの直下に組織を置いて、強力な権限を与えることが重要です。

 ハイパーオートメーションを進めるには、人事評価や採用の仕組みにもメスを入れることが必要です。日本企業は既存業務の達成度をベースに人事評価を下すので、前例のない新たな取り組みは見過ごされる傾向にあります。ハイパーオートメーションの取り組みをジョブディスクリプションとして定義するとともに、高い専門性を持った人材を獲得できるよう評価や採用の制度もメンバーシップ型からジョブ型へと変えていく必要があると思います。

中川氏: そうですね。ただやはり日本企業はいろんな面で保守的ですから、成功事例がないとなかなか前に進めないのも事実です。まずは社内で小さな成功体験を作り上げて、それらを少しずつ積み重ねていくことで徐々に社内の機運を高めていき、最終的にCoEを設置して全社横断型の取り組みへと段階的に育てることが現実的かもしれません。また私たちベンダーが中心となってiPaaSの成功事例の情報を世の中に発信することで、企業のハイパーオートメーションへの取り組みをより後押しできるのではないかと考えています。

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