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小売業「冬の時代」に最低時給1800円の衝撃 大盤振る舞いの理由とは

とある百貨店が「従業員の最低時給を1800円に引き上げる」と宣言した。小売り店舗の苦境が続く中で大幅な支出増に踏み切った狙いとは。

» 2022年04月15日 07時00分 公開
[Kaarin VembarHR Dive]
HR Dive

 ECの普及や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による実店舗買い物客の減少による小売業の苦境が続き、労働人口の減少から人材不足も深刻化している。さらに消費者や投資家は、企業が社会的責任を果たしているか、倫理的な事業活動をしているかなどを厳しい目で見ている。

 そのような中、大手百貨店が「労働者との関係を見直す」として、従業員の時給引き上げと労働時間の短縮を宣言した。教育支援や奨学金などへの支出も増額して従業員の呼び寄せに力を入れる。

 ただし同社はコロナ禍中、数千人の従業員を解雇しながら幹部に多額の報酬を渡していた過去を持つ。

「2カ月以内に最低時給を15ドル、3年以内に30%の民族多様性を目指す」

 米国で百貨店を展開する小売業の大手、Macy'sは2022年3月1日、「より公平で持続可能な未来を創る」として、2025年までに50億ドルを支出することをプレスリリースで発表した(注1)。この取り組みは、同社が「Mission Every One」と名付けた社会貢献活動の一環で、「人(people)」「コミュニティー(communities)」「地球(planet)」という3つ分野に対して「ポジティブな社会変革を推進する」ことを目的とする。

 Mission Every Oneの取り組みには「企業のリーダーシップの多様化」「時間給の引き上げ」「製品に使用する持続可能な素材の増加」などが含まれる。Macy'sのCEOジェフ・ジェネット氏はこの取り組みを「当社の事業を示すもの」と述べ、以下のように語る。

 「レガシーの立場からリーダーシップの立場へとビジネスを変革している。この進化において、どのように事業を運営するかは、何を売るかということと同じくらい重要だ」

 同社は「人(people)」の分野では、百貨店ブランド「Macy's」と高級百貨店ブランド「Bloomingdale's」において、デザイナーやブランド、パートナーへの投資を進める。

 教育給付金へ投資し、2025年までにディレクターレベル以上で30%を民族的な多様性のある構成にする。さらに「2022年5月1日までに従業員の最低時給を15ドルに引き上げる」という姿勢を改めて示した(注2)。

 「コミュニティ(communities)」活動の一環としては、非営利団体への1億ドル以上の寄付やファッション、デザイン、サステナビリティプログラムに参加できない若者のための奨学金を200万ドル支援するなどの施策を打ち出している。

 「地球(planet)」活動では持続可能な方法で調達された原材料や繊維をプライベートブランドに取り入れること、廃棄物をなくすため、材料の削減や再利用、転用する手法への投資をすることに焦点を当てる。同社は、自社ブランドのサプライヤーと労働者の権利を向上させることを約束し、同社のティア1プライベートブランドサプライヤーの全工場に対して社会的、環境的監査を実施している。

小売業で続く「人材の引き留め」

 Macy'sはコロナ禍中、数千人の人材を解雇した過去を持つ。その上での取り組みは「労働者との関係を見直すもの」と言えるが、同様の取り組みは他の小売企業でも進んでいる。

 米国の大型ディスカウントスーパーTargetは、従業員の時給を15〜24ドルの範囲に引き上げると発表した(注3)。同社は2021年の夏に教育支援給付を拡充し、最低条件を週平均30時間から25時間に引き下げて時間給労働者が医療給付を受ける資格を得やすくすることも決定している。その他、Walgreens Boots AllianceやCVS、Costco、Kohl's、Amazonといった企業も時間給労働者の時給を上げた。ホリデーシーズンの労働に対してボーナスを支給したり(注4)、サインオンボーナスを支給したりするなど、離職者が続出する時代(注5)に従業員を呼び寄せ、引き止めるための努力をしている。

 一方、「Black Lives Matter」や「#MeToo」運動の影響から企業ブランドはますます人種的平等や多様性への取り組みに関する自社の社内ポリシーと向き合うことを求められ、消費者は意思決定に際して説明責任を求めるようになっている(注6)。

 Macy'sが2022年2月に開催したアナリスト向けの決算説明会において、ジェネット氏はMission Every Oneの目的とともに同社の将来について語り「Macy'sは常に事業を展開する地域社会のパートナーだ」と述べた(注7)。

 「しかし今日、会社や従業員(役員)に対するステークホルダーの期待が変化する中、自分たちの仕事をどのように公益に結び付けるかをさらに調整する用意がある」(同氏)

 同社は、より包括的な未来に向けた動きは「全社的」なものであり、その規模と文化を活用して世界に大きな変化をもたらしたい、と述べている。

 「Mission Every Oneは、当社がどのような事業を展開し、企業としてどのような決断を下すかということの本質的な部分になる」(ジェネット氏)

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