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ステイインタビューとは? 効果的な退職者の引き留め面談を人事のプロが解説

労働市場のトレンドに関係なく、人材確保は常に課題だ。離職を防ぐ方法として注目される「ステイインタビュー」とは何か。人事のプロがHR Diveに語った。

» 2022年04月19日 08時00分 公開
[Emilie ShumwayHR Dive]
HR Dive

 世界的に退職者の増加トレンドが続く中、人事担当者は従業員の離職を防ぐためにあらゆる手を尽くしている。従業員が企業で働き続けたくなるような特典には、例えば福利厚生の強化や給与の向上、休暇の増加などがある。

 従業員も企業を選ぶ「大離職時代(the Great Resignation)」の中で注目されるのが「ステイインタビュー」だ。退職者の引き留めを目的として人事担当者が従業員と1対1で面談し、従業員が会社や自分の役割について何を重視しているのか、また、何が従業員を退職へと向かわせるのかをより深く理解するための方法だ。

 米国でクラウドベースの給与管理や人的資本管理ソフトウェアを提供するPaylocityで企業人材戦略シニアディレクターを務めるケイト・グリマルディ氏は、HR Diveに対して「大量離職時代(the Great Resignation)の影響でステイインタビュー(退職者を引き留める面談)が再び流行する可能性がある。雇用者はこの面談を奥の手ではなく道具の一部として常に利用するべきだ」と述べる。

退職希望者を引き留める「ステイインタビュー」とは

 一般的に「退職者の引き留め面談」とは、退職を申し出た従業員から「何が問題なのか」を聞き出すものがイメージされる。しかしステイインタビューは、退職の意思表示をしていない従業員に対して定期的に実施し、個人や組織が抱える問題を可視化して対処するための面談を指す。効果的なステイインタビューの実施は退職希望者の引き留めにもつながる。

 しかし、従業員に圧迫感を与えるような面談になってしまうと、多少なりとも組織や業務に不満がある従業員やすでに退職を考えている従業員は、本音を打ち明けなくなってしまうだろう。グリマルディ氏によると面談のアプローチ方法は次の2通りあるという。

 一つは“非常に厳格な”やり方だ。面談のはじめに「面談を始めます。なぜこの会社にいるのか、その理由を質問するので、さまざまなシナリオを描いてフィードバックをしてください」と伝える。この面談は一般的に、フォーマルな雰囲気で、事前にスケジュールが組まれて実施される。

 グリマルディ氏が推奨するのは、より対話的なもう一方のアプローチだ。従業員と対面して「さあ、今日は職場についての面談です」と言うことはほとんどなく「今日は普通の会話をしましょう。ざっくばらんに話す中で、いつもと少し違う質問をするかもしれませんが、それはあなたが最近感じていることや会社への気持ちを理解するためです」という話し方をする。

 人事部門がどのようなアプローチをとるにしても、グリマルディ氏は自由回答形式の質問を推奨する。例えば、「なぜここで働いているのですか?」「なぜ社外に目を向けないのですか?」「新しい業務に取り掛かる余裕はありますか?」「仕事量はどうですか?」「自分の仕事に意義を感じていますか?」「会社はあなたの貢献を評価してくれていると感じますか?」などだ。

 人事担当者は常に従業員の経験を知りたがるが、インタビュー形式ではなく即興的な会話を演出することで、従業員は心を開き、話を聞いてもらえたと感じ、威圧的な雰囲気はなくなるとグリマルディ氏は説明する。

従業員からの危険信号に注意

 人事担当者にとって面談は、従業員の貢献に対する評価の低さや部署内の緊張感など、社内の問題に気付く絶好のチャンスだ。従業員から上がってくる不満のサインに耳を傾け、優しくフォローする必要がある。

 グリマルディ氏は、「明日あなたが辞めたら、会社に穴があくと思いますか?」という質問をよくする。この質問は、従業員の答えによっては、自分がどのように評価されているかを知る上で良い視点を与えてくれるという。マネジャー側が、面談した相手が辞めれば大きな穴があくと考えていても、その従業員の答えが「そうは思いません。会社はすぐに求人広告を出して、自分のことは忘れると思います」というものだったら、断絶があることが分かる。

 また、特定の状況に対して人事がどう対処するかを明確にしておくことは、従業員が話を聞いてもらえたと感じるために必要なことだ。例えば、従業員が「上司から不適切な扱いを受けた」と告白した場合、「上司との関係についてもう少し詳しく教えてください。なぜあなたは大切に扱われていないと感じるのか、例を示してくれますか?」といった質問を持ちかけるなど、その話題に焦点を当てた会話に移行するべきだとグリマルディ氏は述べている。

 「打ち明けてくれた従業員に、『(上司の)そのような行動は評価しない』と伝え、『それは看過できない』と言う。通常は、従業員に『当該リーダーまたはその上席に、あなたが話してくれたことを伝えてもいいですか』と尋ねる。そして、実際にフォローアップをすべきだ」(グリマルディ氏)

価値のあるフィードバックを引き出す

 しかし、従業員が過去に人事と関わった経験や職場の人間関係、雇用の安定に対する懸念などを理由に、不満を打ち明けることをためらうことも予想される。人事部がサイロ化されている場合や、相手が新入社員の場合は、面接に入る前に同僚と親密な関係を築くようサポートすることをグリマルディ氏は推奨する。「信用がなければ、誰も何も話してくれない」とグリマルディ氏は言う。情報がどのように使われ共有されるのか、透明性を保つことも重要だ。

 「勤続年数が長い人や、特定の役職に就いている人にだけアプローチしたくなるかもしれないが、ステイインタビューは6年勤続している人と同じように、入社して6カ月の人の場合も重要」だとグリマルディ氏は話す。経験の浅い新入社員は、シニアリーダーと同様に、企業文化に関する価値のある見識を提供してくれるかもしれない。

 グリマルディ氏は、人事担当者による柔軟なステイインタビューを勧めるが、年に2、3回程度を目安に実施するのが望ましいという。しかし、過度に計画的であってはならない。カレンダーで四半期ごとに面談するとは従業員に知らせないほうがよい。そうすると官僚主義的に形骸化し、人事部がケアしてくれると従業員は感じなくなるからだ。

 「誰かが不満を持っていることを人づてに聞いて特定の従業員が心配になったときにも、ステイインタビューを優先させるべきだ。その従業員は、業務の中で上司や同僚から、会社を辞めたくなるようなフィードバックを受け続けているのかもしれない。このような場合、ステイインタビューが『退職を考える理由の解決』のきっかけになり、従業員を引き留める役に立つことがある」(グリマルディ氏)

日常的な手段としてのステイインタビュー

 ステイインタビューは、労働市場や会社にとって特に困難な時期に、応急手段としてだけに使用されるべきではない。価値のある福利厚生や強力なDEI(Diversity=多様性、Equity=公平性、Inclusion=包括性)プログラムのように、「ステイインタビューはビジネス戦略や人材戦略の一部であるべきだ」とグリマルディ氏は言う。

 「労働市場にかかわらず、人事異動や退職にかかわらず、リテンションは常に課題だ。正しい方法で面談をすれば、真に実用的なフィードバックと、従業員が職場で何を大切にしているかを理解できるようになる」とグリマルディ氏は述べる。

 ステイインタビューでは、フィードバックによる危険信号の発見や、報酬や福利厚生の価値ある部分が示されるだけでなく、従業員を支援する企業文化が育まれることもある。グリマルディ氏は、「従業員は自分の意見を聞いてもらえたという実感を得たがっている」という。

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