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AI契約書レビューサービスをどう選ぶ? 機能と選定ポイント、利用の注意点

企業が取り交わす契約書に潜むリスクを特定して修正を補佐し、品質の高い契約書の作成をサポートする「AI契約書レビューサービス」。一人法務から大企業の法務部門まで、それぞれが抱える課題の解決を支援する。サービスの特徴と主な機能、製品選定時のポイント、活用メリットなどを紹介する。

» 2022年04月27日 10時00分 公開
[名須川竜太キーマンズネット]

 企業活動では、組織と人との間でさまざまな契約が発生する。その内容を明文化した契約書のレビュー(審査)は、各社の法務担当者の重要な業務の一つだ。これまでは過去の契約書や資料などを参照しながら担当者が知識と経験を頼りにレビューするのが一般的だったが、「レビューに時間がかかる」「人によってレビューの質にバラつきがある」「見落としのリスクがある」「知識やノウハウの共有が難しい」といった課題があった。この課題を解決するソリューションとして普及しつつあるのがAI契約書レビューサービスだ。

 本稿では、契約書のレビューに課題を抱く企業に向けて、AI契約書レビューサービスの概要と主な機能、製品選定時のポイント、活用メリットなどを紹介する。「LegalForce」を提供する株式会社LegalForceの村田隆裕氏(リードプロダクトマネージャー)、野々上諒一氏(カスタマーサクセス部 部長)、小川陽祐氏(同 課長)に聞いた。

■記事内目次

  • 契約書レビューの課題とAI契約書レビューサービスの概要
  • AI契約書レビューサービスの主な機能と選定ポイント
    • レビュー機能はリスク指摘、対応類型の充実度がポイント
    • リサーチ機能も効率化の鍵。キーワード検索で類似条文を素早く抽出
    • 編集機能はWordアドインで提供
    • ナレッジ共有機能で改定履歴や過去の経緯を共有
    • 外部システム連携、レビュー受付・進捗管理などの機能も
  • AI契約書レビューサービスのセキュリティにおける注意点
  • AI契約書レビューサービス運用の注意点
  • AI契約書レビューサービスの利用料金
  • 事例「レビュー時間を67%削減」

契約書レビューの課題とAI契約書レビューサービスの概要

 AI契約書レビューサービスとは、文字通りAIが契約書のレビューを支援するサービスだ。AIによる文書解析は発展が著しい分野であり、様式や内容がある程度パターン化された契約書は恩恵を受けやすい。サービスの導入社数は急速に拡大しており、LegalForceの場合、2019年のサービス提供開始から3年余りで約2000の企業や法律事務所に利用されている。業種に偏りはなく、規模も大手から中堅・中小、スタートアップ企業までさまざまだ。

 導入社数が伸びている背景には、契約書レビューに関して企業が長年抱える課題がある。

 1つは効率化だ。契約書のレビューでは「自社に不利な内容になっていないか」「過去の契約とどこが異なるのか」「業界の規制に準じているか」といったチェックに多くの時間がかかる。LegalForceが一部の顧客にヒアリングしたところ、法務部員の業務時間の半分以上を契約書のレビューに費やしているという回答が大半を占めた。人手不足が深刻化する中、レビューをいかに効率的に行うかが喫緊の課題となっている。

 法務部門の規模に応じた課題もある。中堅・中小企業の場合、法務担当者が一人で業務を回している(いわゆる一人法務)、あるいは経営企画などと兼務している(兼任法務)といったケースが多い。こうした担当者の多くが、「契約書レビューに関して頼る相手がいないことが不安」「一人でチェックするだけでは見落としや漏れが生じるのではないかと常に緊張を強いられている」「初めて扱う契約書に関する知識をどうキャッチアップすればよいか分からない」といった悩みを抱えている。

 一方、大量の契約書を扱う大企業の法務部門は、組織内のナレッジ共有が大きな課題だ。複数の担当者による契約書の品質を一定かつ高いレベルで保つには、「過去の契約書の修正履歴や交渉過程を他の担当者が素早く参照できる」「さまざまな契約書のひな型を用意して共有する」「過去の契約について、なぜそのような内容になったのかの情報を共有する」といった工夫が必要になる。

 なお、レビュー対象の契約は2つに大別でき、どちらにおいてもAIが効力を発揮する。一つは秘密保持契約や雇用契約などの定型的な契約であり、1件ごとのレビューは短時間で終わるものの件数が膨大だ。この契約にAI契約レビューサービスを利用することで、レビューの工数を削減して作業を効率化できる。

 もう一つはM&Aなどの非定型的な契約であり、件数は少ないが1件当たりのレビューに多くの時間がかかる。契約書の枚数が多いことが想定されるため、AIで網羅的にリスクを洗い出すことで、法務担当者は指摘箇所の修正方針の検討などに時間を費やせるようになる。事業部門からの法律相談や難易度の高い契約といったより高度な法務業務にも人手を割けるようになるだろう。

AI契約書レビューサービスの主な機能と選定ポイント

 契約業務は、「案件受付→起案・審査→契約締結→管理」のフローから成る。AI契約書レビューサービスの多くは、このフローのうち事業部から依頼を受け付ける「案件受付」、契約書の作成やレビューをする「起案・審査」をカバーする。

 LegalForceは、これらのフェーズに必要な「レビュー」「リサーチ」「ナレッジ共有」などの機能を提供している。機能の概要と、製品選定時のポイントを紹介する。

レビュー機能はリスクの指摘、対応類型の充実度がポイント

 レビュー機能では、PDFやWordの契約書を読み込んでAIが内容を分析し、「自社に不利な条件はないか」「下請法などの法令に違反した内容になっていないか」といったリスクをチェックして該当箇所を指摘し、修正文例や修正内容の解説も表示する。一般に、AIの分析精度は学習データの量に比例するため、利用社数が多いサービスほど高い分析精度を期待できる。

図:LegalForceで秘密保持契約書をレビューした例。AIが契約書の内容を分析してリスク箇所を洗い出し、「この内容では秘密情報が開示される対象範囲が広すぎる恐れがある」ことや、「同意なく秘密情報が複製される恐れがある」といった指摘を行っている。

 契約書には、売買契約や取引基本契約、請負契約など、さまざまな種類(類型)がある。サービス選定時には、自社が扱う類型が対応しているかどうかを確認したい。LegalForceの場合、2022年4月時点で50類型に対応しており、契約当事者の立場別にレビューできる。

 企業によっては、自社独自の基準でリスクなどをチェックしたいという場合もあるだろう。LegalForceでは、自社固有の修正方針や修正文例などを条文単位で登録し、それに沿ったレビューができる。自社のひな型や過去のレビュー済み契約書と比較し、条文内容の差異や条項の抜け漏れがないかをチェックすることも可能だ。

図:LegalForceの「比較機能」を利用し、取引先企業から提示された秘密保持契約書と自社が使っている秘密保持契約書のひな型を比較した例。どこが異なるのかを単語単位で可視化する。

 なお、対応する契約書の言語は日本語が基本だが、英文に対応しているサービスもある。英語での契約業務に利用する場合は、英文の類型の充実度合いも確認したい。例えば、LegalForceでは主に米国法に準拠した13類型を用意している(2021年12月時点)。

 これらの機能を使って契約書のレビューを行うことで、「見落としていた論点に気が付く」「記載すべき条文の抜け落ちに気が付く」といった効果を期待できる。特に条文の抜け落ちは気が付きにくいポイントであり、LegalForceでも多くの利用者に高く評価されているという。その他、契約書をやりとりしている際に、契約相手が修正した文を漏れなく見つけられる比較機能なども備える。

リサーチ機能も効率化の鍵。キーワード検索で該当の条文を素早く抽出

 契約書の迅速なレビュー、修正に欠かせない機能として、リサーチ機能がある。

 契約書の修正時には、特定の条文を過去の契約書や自社のひな型でどのように表記しているかを調べる機会が頻繁に発生する。その場合はキーワード検索機能を使うことで目的の条文を素早く探し出せる。

 また、さまざまな契約書のひな型があれば、それらを参照することでレビューや修正を効率化できる。LegalForceの場合、標準で650点以上のひな型を用意しているという。

図:LegalForceには、一般的な秘密保持契約や業務委託契約からM&Aのアドバイザリー業務委託契約、SaaSの利用規約、株主総会議事録など、さまざまな契約書が和文、英文で650点以上用意されており、契約書の類型や業界・トピックで検索できる。

編集機能はWordアドインで提供

 レビュー結果を踏まえた契約書の修正は編集機能で行う。LegalForceではMicrosoft Wordのアドインを提供しており、担当者は使い慣れたWord上でレビューやリサーチの機能を使いながら契約書を修正できる。また、表記ゆれや条ずれを指摘する機能も提供している。

ナレッジ共有機能で改定履歴や過去の経緯を共有

 ナレッジ共有機能とは、属人化しがちな知識や経験をチーム内で共有するためのものだ。例えば、バージョン管理機能により、契約書の改定履歴を時系列で管理し、後から別の担当者が見た際にも修正の経過を容易に把握できるようになる。

 また、AIはそれぞれの契約書が作られた経緯や取引先との関係を考慮したレビューを行うことはできない。LegalForceの場合、「関係部署とどのような協議を経てこのように修正したのか」「他の契約書と条件が異なるのはなぜか」といった情報を残すことができるコメント機能がある。このコメント機能は、電子メールや「Microsoft Teams」と連携し、コメントが書かれた際に通知を受け取ることも可能だ。

外部システム連携、レビュー受付・進捗管理などの機能も

 契約書レビューの円滑な運用を支援する機能として、電子契約システムや契約書管理システムなど他システムとの連携機能などが挙げられる。

 また、LegalForceの場合、事業部門などから契約書レビューの依頼を受け付け、担当割当などを管理できる案件管理機能を提供している。大量のレビューが動く場合、「Microsoft Excel」などを使い手作業で案件の管理を行っていると煩雑になる。サービス側に案件管理の機能まで用意されているかどうかも、選定ポイントの一つだ。

図:LegalForceの案件管理画面。事業部門などからレビュー依頼を受け付けると、担当者を割り当てて実際のレビュー業務に進める。案件名や依頼者、レビュー担当者、納期、ステータスで全案件を一覧することができる。

AI契約書レビューサービスのセキュリティにおける注意点

 AI契約書レビューサービスに関してセキュリティ面で理解しておくべきことは、クラウドサービス(SaaS)として提供されるため、AIによる解析処理が社外(クラウド側)で行われるという点だ。テナント方式で独立性が確保されるので、当然ながら自社の契約書データやコメントなどが他社のデータと混在することはない。

 また通常、利用者とクラウド間の通信は暗号化されるため通信途上でデータを盗まれる心配はない。だが、社内規定で「契約書などの機密データは社外に出さない」としている場合はそれに抵触する可能性がある。なお、LegalForceではIPアドレスによるアクセス制限をかけることでセキュリティを強化したプランも用意している。

AI契約書レビューサービス運用の注意点

 AI契約書レビューサービスはSaaSであるため、システム運用に関してユーザー側で行うことは特にない。通常は導入初日や翌日から利用できる。

 なお、利用に際して留意したいのは、契約書のレビューから修正までを全てAIに任せられるものではないということだ。AIの役割は人が行うレビュー、修正のサポートであり、「AIの指摘事項をリスクと見なすか、修正するか」を判断するのは、あくまでもユーザー自身だ。

AI契約書レビューサービスの利用料金

 利用料金は、「初期費用」と「月額費用」の構成をとるサービスが多い。初期費用とは初回の導入時にかかる費用であり、次月以降は月額費用のみを支払う。月額費用はユーザー数などに応じて段階的に設定している場合もあるため、問い合わせの際は自社が想定する利用規模を明確にしたい。

 トライアルが可能な場合は、利用部門の担当者の協力も得て積極的に活用したいところだ。

事例「レビュー時間を約6割削減」

 AIによるレビューサービスを利用するメリットは、契約書面の読み込み時間が短縮し、契約締結までのスピードが上がる、レビューの精度が上がりリスクチェックの抜け漏れを防止できる、AIによるリスクの指摘や説明によって担当者の審査スキルが向上する、組織として契約レビューのノウハウを蓄積できるなど多岐にわたる。

 実際にどのような企業が利用しているのだろうか。売買契約など多種多様な契約案件を抱えている某企業の法務部は、複数の法務メンバーの案件が属人化し、進捗状況が分からなくなっていた。各自の負担状況を把握した上で業務を効率化・平準化する必要性にせまられていたという。また、事業が幅広く扱う契約類型も多岐にわたるため対応が難しく、レビューに時間がかかることも課題だった。

 そこで同社は、契約書の新規作成や取引先作成の契約書への対応を中心にLegalForceを導入し、活用を進めている。その結果、レビュー依頼を受け付けてから一次レビューが終わるまでの時間を約6割削減した。

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