コロナ禍でテレワークシフトが進み、SaaSを導入する企業は増えた。ただ、SaaSの数が増えるだけ情シスの業務量が増えてしまう。多くの企業が目を向けられていない“情シスの過酷な状況”を明らかにし、その解決策を紹介する。
コロナ禍でより導入する企業が増えたSaaS(Software as a Service)だが、数が増えれば増えるだけ、ただでさえ人材不足の情シスの業務負荷が高まってしまう。具体的にどのような業務が増えるのか、その解決策はあるのか。メタップスが実施した調査と合わせて、同社の石田 健太郎氏が現状と解決策を語った。
本稿は、2022年4月25日のオンラインセミナー「DXでSaaSを増やした結果、情シスの仕事増えてないか!?」(主催:メタップス)の講演内容を基に、編集部で再構成した。
SaaSの利用数が増加しているのは、クラウドシフトがトレンドであることに加え、コロナ禍のテレワーク対応によってデジタル化が進んだことが挙げられる。
オンプレミスのシステムは買い切りであることが多いためランニングコストが抑えられ、カスタマイズ性が魅力である一方、導入までに時間がかかり、コストが高くなりがちだ。一方でSaaSは、導入までの期間が短くコストは低額になる。ランニングコストはかかるが導入のハードルが低いことが、SaaSを選択する企業が増えた理由の1つだ。メタップスの調査ではコロナ禍にSaaSを導入した企業は66%になる。
導入したSaaSで特に多かったのはコミュニケーション関連のサービスだ。取引先とのやりとりのため、複数のチャットツールが頻繁に利用される。他は経理や電子契約、人事などの領域のサービスで、紙でやりとりしていた情報を電子化して業務を効率化するSaaSの導入が目立つ。
1社当たりのSaaS導入数を調べるためメタップスが実施したアンケートでは、2020年に利用されていたSaaSは平均8.7だった。2022年の直近のヒアリングでは、10以上のSaaSを利用する企業が増加傾向にある。
SaaS増加への情シスの課題感を調査したアンケートでは、情シスの19.2%が課題が「かなりある」と回答する。「ややある」と回答したのは59.0%で、約80%が課題を感じていた。内容を見ると、「コストの増加」「管理の手間」「セキュリティの不安」が上位を占める。
調査からは情シスの人材不足も明らかになった。ITインフラの運用管理を担う情報システム担当者が1人しかいない「ワンオペ情シス」は11.4%だった。一般的に情シス1人当たりで管理できる従業員数は100人程度が目安と言われているが、ワンオペ情シスであると回答した人の約20%が200人以上の企業に勤めていた。
SaaSの増加による情シスの課題感や人手不足の現状が明らかになった。ここからは、情シス人材が不足する中でSaaSが増えることによる、“情シスの過酷な状況”を明らかにする。
SaaSが増えることでアカウントの発行や削除、棚卸しの負荷が高まる。
新しい社員の入社時にSaaSアカウントを登録し、人事異動や組織改編の際には設定変更をして、退職時にはアカウントを停止し、一定の期間を経て後にアカウントの削除するといった作業が、利用するSaaSと利用者の掛け算で発生する。
また、新たなSaaS利用者のために使用できるアカウントの残り数を常時把握する必要があり、定期的に棚卸しが必要だ。退職者のアカウント削除のスケジュール管理も負担になる。作業を怠ると、社内のSaaS利用状況が把握できなくなる。
特定部署が利用するSaaSの場合、管理者権限を別部署が管理していることがあり、情シスの把握と管理を難しくしている。ユーザーもアカウント発行をどこに依頼してよいのか分からず困惑する事態も起きている。
実際にアカウント発行に必要な時間の調査結果もある。従業員1人あたり30分以上が31%、1時間以上が21%となっており、約50%は30分以上の時間をかけている。SaaS導入数が増えるほど、アカウント発行にかかる時間が増える。
1時間以上の時間がかかると回答したケースは、導入したSaaSが1〜5個の場合でも16%、6〜10個の場合は20%、11個以上では35%になる。アカウント発行作業は新人がやってくる3〜4月に集中し、「絶望的に多忙」という情シスの声を聞くこともある。
セキュリティ面の工数も増える。不正アクセス対策で重要なのが、退職者のアカウントの停止・削除だ。共有アカウントを利用していた場合は都度パスワード変更が必要になる。
推測されやすいパスワードを避けるなど、パスワード設定の教育も情シスが担当することが多い。適切な管理や教育がされないと、ユーザーがパスワードを覚えられずメモに残して紛失したり、退職者が発生しても共有アカウントのパスワードが更新されず退職後も社内情報にアクセスできてしまったりするリスクがある。
共有アカウントは利用部署が独自に管理しており、情シスが把握していない場合もある。人事部門の採用サイトアカウントや広報のSNSアカウント、オンライン会議アカウント、商品デモサイトなどのアカウントなどが頻繁に共有されている。
必ずしも情シスが担当するとは限らないが、SaaSのコストや契約の管理が増えるのも課題だ。SaaSの契約プランはさまざまで、「どのプランをいつ契約したのか」「更新タイミングはいつか」といった情報管理を徹底していないと、契約解除すべきSaaSが自動更新されたり、継続利用したいSaaSが利用停止になったりといった事態が起こる。
中堅・中小企業では現場担当者がSaaS契約の手続きをすることが多い。退職時に適切な手続きをしていないと、SaaS業者から通知がない限り契約状況が分からない事態となる。
コストに関しては、各SaaSを正しく把握しないと無駄なアカウントが発生していても気づかず放置されるリスクがある。似たような機能のSaaSを複数の部署が別に導入していることもあり、1つのSaaSにすればボリュームディスカウントが受けられるのに、その機会を逃していることがある。また、コスト管理は次年度の予算に影響を及ぼすため、情シスには重い負担がのしかかる。
以上をまとめると、SaaSの増加は情シスの作業量を増加させ、作業領域を拡大させているのが現状だ。情シスの人材不足は1人あたりの負担増加につながり、セキュリティ強化を図るほど情シスの作業領域が広くなり、結果負担がさらに増すというのが現状と言える。
状況を改善するには、SaaSの増加に比例して情シスの負担が増加しないように何らかの策を講じる必要がある。情シスのあるべき姿は、アカウント管理やコスト管理などに腐心するのではなく、社内のインフラを健全に保ち、従業員が安心・安全に仕事できるようにすることだ。問題発生に対応することではなく、問題が発生しないよう未然防止するのが本来の姿だろう。
情シスの活動を支えるため、SaaS管理ツールの利用は有効な対策になるだろう。「業務負荷増加」に対しては業務を効率化する各種機能や、「セキュリティ面での作業領域拡大」に対してはシングルサインオンなどのセキュリティ強化機能、「利用状況の把握」に対してはダッシュボードなどによる可視化機能などが求められる。
メタップスは、SaaS増加に対応してコスト・時間・セキュリティリスクの課題を解決するために「メタップスクラウド」を2021年にリリースし、毎月の機能更新を続けている。
サービスにはSaaS管理機能と『IDaaS (ID管理機能)』がある。SaaS管理機能では各SaaSにアクセスせずにアカウントの発行や削除、確認などができ、社内のSaaS利用状況やそのコストをダッシュボードで可視化可能だ。『IDaaS』機能では、シングルサインオン、アクセスコントロール、強制多要素認証を可能にし、セキュリティ強化についても情シスの課題解決に有効な機能を提供できる。
IT人材の獲得が困難な現在、このようなツールも利用しながら、情シスの負担を軽減しつつ、社内の生産性向上や業務効率化といった目的に役立つSaaSを安心して利用できる環境を整えることが望ましい。
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