コロナ禍を背景に、部下のメンタルヘルス問題に頭を悩ませている管理職は少なくない。部下とメンタルヘルスについて会話する際、管理職はどのような言葉を使えばよいのか。
メンタルヘルスは、多くの労働者にとって新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにおける最重要課題だ。だが、管理職は実際にこの種の会話を円滑に進める方法を知っているのだろうか。新型コロナウイルス感染症とテレワークは職場のウェルビーングにまつわる偏見を軽減させた。米国でコロナウイルス感染症が発症してから約2年後、Willis Towers Watsonが調査した雇用主の86%が、2022年の最優先事項に「燃え尽き症候群」「ストレス」「メンタルヘルス」を挙げている(注1)。しかし、調査対象の雇用主の半数近くはまだそのような計画を従業員に伝えていない。
2021年のVerizon Mediaによれば、雇用主の93%が「メンタルヘルスが事業全体の生産性を妨げていること」を認めている(注2)。一方、「従業員のメンタルヘルスの要求に対応する準備ができている」と答えた管理職は全体の4分の1から3分の1程度だった。また、80%の管理職が、メンタルヘルスを含むDEI(多様性、平等性、インクルーシブ)問題に関して間違った言葉を使うことに懸念を示している(注3)。メンタルヘルスの問題解決に前向きでも、実践的なスキルがないことは明らかだ。部下とメンタルヘルスについて会話する際、管理職はどのような言葉を使うことが推奨されるのか。
メンタルヘルス支援を専門とするAction Mental Health Works(AMH Works)のマネジャーを務めるレイチェル・パワー氏は「職場には健康にまつわる共通言語があるため、従業員は気楽に自分の体調を話せる」と言う。同僚が「先週ひどい風邪をひいた」と話すことはよくある話だ。パワー氏は「従業員は、コロナの他、深刻な状態について話すことに違和感がない」とHR Diveに語った。
しかし、誰かが「今、不安でたまらないんだ」と言っても、周りの人は何と言っていいのか分からないだろう。パワー氏は「これ以上誰かを怒らせたくない、何かを悪化させたくない、気まずくなりたくない」という心理が働くと話す。
上司は、メンタルヘルスの問題で成果物が遅れている直属の部下との対話となると、状況はさらに緊迫したものになる。パワー氏が所属する団体は、「マインドフルマネジャー」というトレーニングを実施しており、(主にAMHの本拠地のイギリス、アイルランド、北アイルランドで)メンタルヘルスへの配慮を身に付けたリーダーを育成している。
半日のワークショップでは、職場で悩んでいる従業員をマネジャーが特定するためのツールや、「生産性や出勤率が大きく低下する」前にスタッフと協力して問題を解決するためのツールを身に付けられる。
パンデミックによってこうした懸念が表面化されたことはパワー氏も認めているが、AMH Worksはコロナが蔓延するずっと前からトレーニングを促進してきた。AMHは2012年にワークプレイスウェルビーイング部門を立ち上げ、マインドフルマネジャーは最初に開発された代表的なプログラムの1つだった。このトレーニングは、「管理職として昇進したり、採用されたりするのは、その専門知識や功績が評価されてのことであり、必ずしもチームを率いる巧みさが評価されてのことではない」という観察から生まれたものだ。
パワー氏は「管理職が人事管理という個人的問題に立ち入ったサポートされることはほとんどない」とパワー氏は言う。
「雇用主が管理職を研修に派遣することは珍しいことではない。しかし、そのような研修では会社の方針や手順に沿ってマネジメントすることに重きが置かれ、メンタルヘルスに焦点が当てられることはほとんどない」(パワー氏)
マインドフルマネジャーは、これまで2つのパートで構成されていた。第1部では、「メンタルヘルス」の定義を明確にして参加者が同じ認識を持てるようにする。第2部では、管理職の感情的知性のブラッシュアップを支援する。2021年の夏、AMH Worksは参加者の声を反映し、パワー氏が言うところの「一般的なメンタルヘルスへの気付き」に関するカリキュラムを減らし、プログラムのテクニックをより実践的に活用することに重点を置いてトレーニングを刷新した。
パワー氏によれば、現在、参加者はチームメンバーのメンタルヘルスの要求に応えることに「ずっと自信を持っている」という。研修を通じて、参加者は従業員のメンタルヘルスについて「これは仕事にどう影響しますか?」「どうサポートしたらいいですか?」などと質問する力を身に付けた。
このような会話のきっかけを作るには、特に米国では機転が必要だ。雇用機会均等委員会(The Equal Employment Opportunity Commission)のADA(Americans with Disabilities Act)順守ガイダンス(注4)では、求職者に障がいの有無、障がいの内容、障がいの重さについて尋ねることは違法とされている。しかし、雇用主は障がいに関連した質問でない限り、応募者に職務に関連する機能を果たす能力について質問できる。同様に、既存の従業員に対して、「業務に関連し、かつ業務遂行に必要な」要件でない限り、障がいに関する質問をできない。
つまり、米国の雇用主ができること、そしてしなければならないことは、障がいがある人材が応募の過程で公平にチャンスを与えられ、職務の必須機能を果たすことができ、障害のない同僚と同じように職務上の利益や特権を享受できるよう、合理的配慮をすることだ。
部下に「うつ病か?」と聞くのは不適切であり、違法だ。言葉を変えて、「あなたは仕事をほぼ毎回ぎりぎりの時間に終え、締め切りに間に合わないこともあるが、大丈夫?」「ミーティングを欠席したけれど、何かしてあげられることはある?」などと言ったほうが機転が利いていて、ADA絡みの問題も生じない。パワー氏は「あなたの仕事の生産性を高め、仕事を楽しむことができるようにするには、どんな支援が必要かな?」 といった趣旨の質問をすることを勧める。
マインドフルマネジャーから得た最も重要な教訓は、メンタルヘルスに関するオープンで共感的な対話が、最終的に従業員の利益につながるということだ。「泣く人もいるかもしれないし、気まずい思いをするかもしれない。本当に難しいことかもしれない」とパワー氏は言う。
「しかし、そのような会話をすることは、黙って無視したり、他の誰かに投げたりするよりもはるかに良いことだ」(パワー氏)
出典:What’s the most appropriate way to talk about mental health at work?(HR Dive)
注1 Employers pinpoint workforce mental health as one of HR’s top priorities for 2022
注2 Verizon Media identifies the top mental health issues for corporations today
注3 Meet DEI goals with inclusive language, not subjective qualifiers
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