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環境改善事業投資「グリーンボンド」とは? 環境省のガイドラインや利回りなどを基礎から解説

気候変動問題への取組みを債権発行による資金調達で加速する「グリーンボンド」とは何か。ブロックチェーンを活用したスキームや、環境省によるグリーンファイナンスに関連する政策などを基礎から解説する。

» 2022年07月15日 08時00分 公開
[土肥正弘キーマンズネット]

 「グリーンボンド」とは、企業や自治体が地球の気候変動問題に対応した取組みを促進するために誕生した資金調達手段で、「環境債」の一つだ。いわゆる再生可能エネルギーに関連した事業などに関する改善活動としての「グリーンプロジェクト」において資金を募り、事業に活用できる。

 2014年に国内で最初のグリーンボンドが発行(日本政策投資銀行)されて以降、多くの国内組織が後に続き、2021年には発行総額が約1兆8651億円という規模になった。しかし世界での発行総額は5793億ドル(約78兆600億円)で、最大の発行額実績をもつ米国の819億ドル(約11兆1123億円)やそれに次ぐ中国、ヨーロッパ各国と日本では大きな差があり、韓国よりもその額は少ない(注1)。

 脱炭素などの環境問題へ関心が広がり、グリーンボンドをはじめとする「ESG(Environment/Social/Governance)投資」の活発化が近年目覚ましいものの、その勢いは海外に比べるとそう大きくはない。その理由は、本当に投資した資金が環境改善につながるのか、投資側に納得してもらえる材料を透明性高く提供する義務が発行者に課せられるため、そのコンプライアンスコストが障壁になっているという事情がある。

 最近は、国内でもIT活用により発行側がレポーティングの負担を軽くし、投資側は発行側の取組みを定量的に適時モニタリングできる仕組みの構築が始まっている。これが普及すれば、グリーンボンドをはじめとする各種のサステナビリティ評価の透明性が高まり、環境改善活動を強く後押しできる可能性がある。

発行側、投資側それぞれの課題と解決策のデジタル債とは

 グリーンボンド普及に向けて注目すべき出来事は、2022年6月1日に日本取引所グループが発表した「グリーンデジタルトラックボンド」だ。これはブロックチェーン基盤を活用した社債型セキュリティトークン(デジタル債)である。これは投資した資金がどのように活用されて効果が出ているか(発電量やCO2削減量など)を常時モニタリング(デジタルトラック)可能にしたところが大きな特長で、グリーンボンドの活発化を促す方向性を示すものだ。

図1 グリーンデジタルトラックボンドのスキームイメージ(日本取引所グループ 2022年6月1日 ニュースリリースより)

 グリーンデジタルトラックボンドは、日本取引所グループと日立製作所、野村證券、BOOSTRYの4社が協業して開発を進めているもので、日本取引所グループは「第1回無担保社債(社債間限定同順位特約及び譲渡制限付)」として発行した同ボンドで調達した資金を、連結子会社のJPX総研に貸付け、JPX総研はそれをグリーンプロジェクトにかかる再生可能エネルギー発電施設(太陽光発電設備およびバイオマス発電設備)に関する設備投資に充当する。

 注目すべきは、グリーンデジタルトラックボンドがグリーンボンド投資における次の課題の解決を目指している点だ。

【グリーンボンド発行企業側の課題】

  • グリーンプロジェクトにおけるCO2削減量などグリーン性指標の取得が煩雑:データ取得が容易でない、データ集計に手作業が発生、債券とデータのひもづけ管理が煩雑である結果、通常の社債と比較して管理コストが割高

【グリーンボンド投資家側の課題】

  • グリーンプロジェクトのモニタリングのための情報取得機能が限定的:排出量削減効果等の能動的な取得が難しい、計画通りに資金が活用されているかの確認が難しい
  • 投資先の横比較がしづらい:発行後の情報開示にバラつきがある、企業が開示するデータフォーマットが不統一

 つまり調達した資金がグリーンプロジェクトに効果的に活用されているかどうかが不透明で分かりづらいということだ。その解決のための仕組みは先に挙げた図1に示されている。

 証券売買の決済機能を担う証券保管振替機構に代わり、BOOSTRYが主導するコンソーシアム型ブロックチェーンネットワーク「ibet for Fin」を用いるのがこのスキームの特徴だ。これによりボンド発行から期中管理、償還までの業務プロセスを電子的方法により完結できる。ibet for Finは、オープンソースソフトウェアとして開発されている分散型金融ネットワークで、開発コミュニティー内でトークンや取引方法の仕様が標準化されており、有価証券のレギュレーションに完全準拠した流通を可能にしている。このスキームにより、調達資金がどのように利用されていて、どのような効果につながっているかがデジタル技術によって透明性高く検証可能になっているのが大きなポイントだ。

 同ボンドの背後では、日立製作所のIoTをはじめとするデジタル技術が活用されており、資金充当した発電設備の発電量を自動的に計測し、CO2削減量に換算する仕組みが構築されている。この仕組みとBOOSTRYとのデータ連携により、ibet for Fin上に発電量/CO2削減量を記録する。投資家はいつでも外部から発電量やCO2削減量をモニタリング可能になる。グリーンボンドでは年次など定期的なレポーティングが必要とされているが、これにより適時に透明性の高い効果確認が可能になる。

 日本取引所グループでは、将来的にはサステナビリティ目標の達成状況によって利率などの条件を自動的に変更させるサステナビリティ・リンク・ボンドへの応用が検討可能になるとしている。なお今回のグリーンデジタルトラックボンドは、格付投資情報センター(R&I)による「R&Iグリーンボンドアセスメント」の予備評価で最高評価である「GA1」を取得していて、いわばお墨付きの仕組みだ。

グリーンファイナンスの種類と特徴

 ここでグリーンボンドなどのグリーンファイナンスに関して簡単にまとめておこう。

 グリーンファイナンスは、日本で2021年に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の中で重要な項目とされている。目的は2050年カーボンニュートラル実現への布石だ。パリ協定の実現には世界で最大8000兆円の民間投資が必要だとの試算(国際エネルギー機関による)を念頭に、再生可能エネルギー(グリーン)などに加えて、省エネルギーなどの着実な低炭素化の取組等の脱炭素への移行(トランジション)、脱炭素化に向けた革新的技術(イノベーション)へのファイナンスが必要だとし、それぞれの取組みに民間投資を呼び込む政策を講ずるというのがこの決定だ。

 そのグリーン関連のファイナンスとして位置付けられるのは、次のようなボンドやローンである(注2)。

【グリーンプロジェクトに使途を限定したもの】

  • グリーンボンド(公募・私募):公募債は個人投資家、機関投資家が投資可能。私募債の場合は的確機関投資家に限るなどの制限あり。レポーティングは一般に開示し、外部レビューの取得が奨励され、その結果は開示すべきとされている
  • グリーンローン(GL):主に銀行をはじめとする金融機関が投資する。レポーティングについては貸し手に報告、GLであることを表明する場合には一般に開示すべきだが、中小企業の場合は概要のみを示すことも可。外部レビューの取得が奨励されるが、要件を満たせば内部レビューでも可能、レビュー結果は貸し手に報告すべきで、一般開示も奨励

【使途が限定されないもの】

  • サステナビリティリンクローン(SLL):主に銀行をはじめとする金融機関が投資する。レポーティングや外部レビューに関しては上記GLの場合と同様

 ちなみに、グリーンだけでなくESG要素を投資判断にするファイナンスは「サスティナブルファイナンス」とも呼ばれる。日本銀行が示しているサスティナブルファイナンスの例は図2の通りだ。

図2 サスティナブルファイナンスの取組み事例 日本銀行「SDGs/ESG金融を巡る最近の動向」より

(4)サスティナブルファイナンスのメリットとデメリット

 一般的にサスティナブルファイナンスのメリットは、脱炭素やSDGs推進という世界的な課題に貢献できることだが、その姿勢を明らかにする(発行側も投資側も)ことができる点で組織のブランドイメージ強化や、金融機関との信頼強化につながり、有利な条件での融資などが期待できることが挙げられよう。また発行者にとっては幅広い投資家を募り、長期的な債権保有(償還期間は数年〜30年以上まで多様)が期待できること、比較的低い金利での発行が可能なこともメリットだ。

 また投資家は満期まで保有すると「元本+金利」の金額が受け取れてリスクが少ないため、各種投資のリスクヘッジとして利用可能なこともメリットになろう。ただし例えばグリーンボンドの場合は国内の発行企業ではほとんどが1%以下の金利であり、金利目的での魅力は他の投資対象に比べて低いところがデメリットかもしれない。

 一方で発行者のデメリットと考えられる最大のものが、「インパクトレポート」と呼ばれる調達資金の使途に応じた成果を明確に示すレポーティングにまつわるコストである。外部レビューを取得する場合にはさらにコストがかかる。しかし透明性や客観性を保つコンプライアンスコストとして不可欠なもので、仮にこのコストを低減させることができれば環境債発行のハードルが大きく下がる。

環境に対する投資効果を客観的・定量的に把握可能な「インパクトレポート」は必須

 上記のグリーンデジタルトラックボンドの例に見るように、インパクトレポートなどの資金活用状況と効果のモニタリングにデジタル技術の利用により、コンプライアンスコストのデメリットは相応に削減可能になる。日立製作所では、サスティナブルファイナンスのための「サステナブルファイナンスプラットフォーム」の研究開発を進めており、発行者が複数のグリーンプロジェクトを容易に管理し、インパクトレポートを半自動的に作成可能にすることを目指している。また、IoTを通じてグリーン対応の設備の稼働データを取得し、ブロックチェーン技術で改ざん不可能な形で保管、活用により透明性を確保し、そのデータ分析によって経済・環境・社会の3面での効果指標を得ることが目標だ。

 このようなデジタル技術を活用した適時のモニタリングとレポーティング、評価の迅速化、意思決定のスピード化を汎用的に進められるプラットフォームは、グリーンボンド発行やサスティナブルファイナンス活用のための取組みに、今後いっそう求められるものと思われる。

注1:環境省資料「Climate Bonds Initiative」

注2:環境省「グリーンボンドガイドライン(2020版)

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