「IT導入補助金2022」は中小企業や小規模事業者がITツールを導入する場合に受け取れる国の補助金だ。本稿では、IT導入補助金の基本と、補助金を用いて自己負担額2分の1でAI開発を始める事例を紹介する。
「IT導入補助金2022」は、中小企業や小規模事業者がITツールを導入する場合に受け取れる国からの補助金である。2022年3月に受付が始まり、10月3日の6次締切分までに何度かの受付締切が設けられている。2022年8月時点では、終了日は未定だ。
補助金交付の対象になるのは、補助金事務局に登録された「IT導入支援事業者」と「認定ITツール」(クラウドサービスを含む)に限られ、必ずIT導入支援業者を通して導入することが条件だ。
本稿では、IT導入補助金の基本と、補助金を用いて自己負担額2分の1でAI(人工知能)開発を始める活用事例を紹介する。
IT導入補助金2022は4つの枠が設けられている。
通常枠として対象となるITツールは図1の「ソフトウェア」や「オプション」「役務」に関する3つの大分類があり、ソフトウェアには図2のプロセスが設定されている。
A類型は、図2「業務プロセス」の「共P-01〜05」および、「各業種P-06」の業務プロセスを1つでも担うソフトウェアやクラウドサービスの導入であれば申請可能である。補助額は30〜150万円未満で、補助率は2分の1以内だ。
B類型は、図2の「業務プロセス」全ての中で、4つ以上のプロセスを担うソフトウェアやクラウドサービスでなければならない。補助額は50〜450万円以内(交付申請額が50万円未満ならA類型として申請)、補助率は2分の1以内だ。
B類型は申請時に「賃金引き上げ計画の策定・表明」などが条件になっているが、A類型では必須でなく、賃上げ目標を設定すると加点があり、目標未達となった場合でもペナルティーは課されない。
多くのソフトウェアやクラウドサービスがA類型として補助対象だ。補助金額の上限はB類型より低いとはいえ、申請するための条件が緩やかで利用しやすい。
今後の通常枠(A・B類型)申請締切スケジュールは、4次締切分は2022年8月8日、5次締切分は2022年9月5日、6次締切分は2022年10月3日だ。
会計ソフトや受発注ソフト、決済ソフト、ECソフトに補助対象を特化した枠で、PC・タブレットなどのハードウェアにかかる購入費用も補助対象である。クラウドサービスに関しては2年間の利用料が対象になる。
補助額が5〜50万円以下の場合の補助率は4分の3以内だ。50〜350万円以下の場合は補助率は3分の2以内になる。
デジタル化基盤導入類型の今後の申請締切スケジュールは、8次締切分は2022年8月8日、9次締切分は2022年8月22日、10次締切分は2022年9月5日、11次締切分は2022年9月20日、12次締切分は10月3日だ。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)公表の「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているサービスに特化した枠で、最大2年分のサービス利用料が対象だ。
補助額は5〜100万円以下、補助率は2分の1以内だ。50〜350万円以下の場合の補助率が3分の2以内になる。
セキュリティ対策推進枠の今後の申請締切スケジュールは、1次締切分は2022年9月5日、2次締切分は2022年10月3日だ。
サプライチェーンや商業集積地の複数の中小企業・小規模事業者などが連携してITツールを導入することにより、生産性の向上を図る取り組みを支援する枠で、条件がやや複雑だ。
補助上限額は3000万円または200万円、補助率は4分の3以内または3分の2以内と、少々補助率が高くなっている。
複数社連携IT導入類型の今後の申請締切スケジュールは、2次締切分は8月19日、3次締切分は10月31日になる。
IT導入補助金2022はまだ申請可能だ(2022年8月時点)。以降では、補助金を用いて自己負担額2分の1でAI開発を進めた事例を紹介する。
以降の内容は、経済産業書の公表情報およびヒューマノーム研究所が開催したオンラインセミナーの内容を基に編集部が再構成したものだ。
AI開発ツールベンダーであるヒューマノーム研究所の代表取締役瀬々 潤氏は、「中小企業でもAI開発のニーズが高まっているが、依然として導入は進んでいない。IT導入補助金を活用できる今こそ、クラウド型のAI開発ツールを導入し、他社との差別化を進めるチャンスだ」と語る。
経済産業省による2019年度の調査では、中小企業360万社のうち「AI導入のニーズがある」と回答した企業は60%に及ぶが、実際にAIを導入済みの企業は3%にすぎないとされる。そこで、中小企業や小規模事業者だけが申請できるIT導入補助金を使ってAI活用すれば、競争力を高められる可能性があると瀬々氏は言う。
特に瀬々氏が勧めるのは「通常枠・A類型」での申請だ。クラウドサービスの初期導入や利用の促進などが重視されており、1年間のサービス料金が最大150万円補助される。同社はIT導入支援業者の1社であり、補助金の対象となるAI開発ツールなどを提供している。同社のツール導入を例にとると、補助金申請から交付までは次のような流れになる。
現状確認では、事業者の希望や現状をIT導入支援業者(ヒューマノーム研究所)の担当者がヒアリングし、AIによる業務効率化に向けて、最適なプランを提案する。次の申請手続きでは、申請事業者側で申請書を作成し、補助金事務局に申請する。この際、申請計画作成に当たってた、支援業者の担当者が作成をサポートする。
交付決定では、補助金交付が決定した場合、決定通知が届き次第ツールの利用手続きと料金の支払い手続きを進める。補助金交付では、事務局に事業実績報告(納品や導入、支払いに関する報告)をする。
しかし、IT導入補助金のA類型で認められるのは総費用の半分で、補助金額上限は最大150万円という制約がある。150万円の2倍の300万円で、果たしてAI活用が可能なのだろうか。
瀬々氏は「中小企業のAI導入事例では、約8割の企業がAI導入の初期費用は最大50万円と回答した」と述べる(出典:経済産業省の2019年「戦略的基盤技術高度化・連携支援事業(中小企業のAI活用に関する調査事業)」より)。同社の2つのAI開発ツールである、表データを対象とした「Humanome CatData」、画像データを対象とした「Humanome Eyes」の導入費用の試算を示した。
申請がそのまま認められるとは限らないが、この試算は目安となる。この負担額であれば、AI導入に踏み切るのも難しくないだろう。瀬々氏は「AI開発ツールはさまざまな用途に利用できる。いま補助金を利用してツールを導入し、1年をかけて用途拡大を図ることで企業の生産性が向上する」と説く。
このように安価に導入できるAI開発ツールで何ができるのだろうか。瀬々氏は事例として次の3件を挙げた。
機械などの稼働データ(例えば温度・回転数など)を取得してExcelのような表形式のデータを作成し、AI開発ツールに渡して学習を実施すると、いつもと傾向が違う稼働データを自動判定して故障の可能性を予測できる。故障前にメンテナンスして、稼働を継続させられれば生産性が向上する。補助金申請においては、補助金の目的である生産性への寄与を明らかにすることが重要だ。
ドローンによる建造物などの撮影画像や動画をAI開発ツールで学習させると、ひび割れ箇所などの自動発見(推定)が可能になる。危険が伴う従業員の目視などの調査に代わり、現地調査が安全に遂行できる。人材の配置や派遣コストを削減でき、業務効率化が可能だ。
商品の形状をカメラで撮影してAI開発ツールで学習させると、その商品に該当するもののカウントなどが自動化できる。例えば、監視カメラで常時撮影している駐車場のエリア別の車台数など、負担の大きい業務をリアルタイムで実施できる。例えば車の誘導を効率化したり、商品運搬効率を上げたりすることが考えられる。
瀬々氏は「サービスの導入でITやAIに対する従業人の知識が広がり、新しい発想が出てくることが多い。データ活用に関する意識が向上することで、業務がボトムアップされ改善の方向が見えてくる。AI開発の外注では時間や費用がかかり、完成を待つ間に必要なデータが変わることもあり得る。AIを内製することで社内の意識変容や業務に即したデータ活用がしやすくなる」と強調した。
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