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IT資格の取得状況(2022年)/後編

ビジネスの変化と資格トレンドは密接な関係にあると言える。ビジネス環境やITトレンドが変われば、当然求められる能力やスキルも変化する。2022年の傾向を踏まえて、2023年はどのような能力、スキルが重視されるのだろうか。回答者が答えた「注目IT資格」10選を紹介する。

» 2022年12月15日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 前編では、キーマンズネットが実施したアンケート調査(期間:2022年11月18日〜12月2日、有効回答件数:443件)を基に、IT資格の保有状況や取りたい資格などを紹介した。後編では受験までに要する学習期間や受験に至るまでの学習方法、勤務先の支援制度の有無と内容、そして2023年に注目されるであろう資格について、アンケート回答者に尋ねた結果を紹介する。グラフで使用している合計値と合計欄の値が丸め誤差により一致しない場合があるので、あらかじめご了承いただきたい。

勉強時間は「6カ月以下」が8割、クラウド資格は「e-ラーニング」

 まず、「試験勉強を開始してから受検するまでのおおよその期間」について尋ねた項目では、「1カ月〜3カ月」(35.6%)、「4カ月〜6カ月」(28.1%)、「1カ月未満」(15.1%)となり、約8割が受験までの勉強期間は「6カ月以下」とした(図1)。ただし資格難易度によって勉強期間には差があり、「応用情報技術者」や「ネットワークスペシャリスト」など難易度が高いとされる資格については「7カ月以上」の割合が高い傾向にあった。

図1 試験勉強を開始してから受検するまでのおおよその期間

 資格取得に向けた勉強方法は、「参考書を購入し独学で勉強した」(86.0%)が最も多く、次いで「通信教育やe-ラーニングを受講した」(22.6%)、「社内外の勉強会や学習サークルで学んだ」(12.0%)と続いた(図2)。

図2 資格の取得に向けてどのような方法で学習したか

 特徴的だったのは、クラウド関連の資格勉強には通信教育やe-ラーニングを用いる割合が高かったことだ。背景として「AWSトレーニングポータル」などクラウドベンダーが学習コンテンツを提供するケースや、eラーニング教材が市場に豊富に存在することなどが考えられる。

これからは単発技術よりも総合力か、2023年の狙い目資格一覧

 「IT資格の取得状況(2022年/前編」では、アンケート回答者目線でこれから取りたい資格について尋ねた結果を紹介した。後編では、今後注目が集まると考えられる資格について、アンケート回答者の予測と選定理由を紹介する。

2023年に注目される資格とその理由、10選

 「今後、IT資格の中でどの資格が注目されると思うか」と尋ねた結果を抜粋して、一覧にしたものが以下の表だ。これからは単発のスキルを証明する資格だけでなく、トータルの力が求められるのではないかというコメントも寄せられた。

資格 回答者の選定理由
ITサービスマネージャ試験 ビジネスとITをつなぐために必要な知識で、ニーズが高まると考えたから。
ITストラテジスト試験 DXではITの活用が要求されるが、特定の専門スキルよりもトータルの能力がより求められると考えるため。ITサービスが多様化する中で、どのサービスを経営に活かすかを考える力が重要になると考えるため。
応用情報技術者 知名度があり、IT業界では分野によらずほとんどの会社で認められている資格だから。
G検定 DXに必要とされるRPAやAIの構築で必要だと考えらえれるため。
AWS認定資格 今後、公共分野での利用が増加するのではと考えるため。
Python 3 エンジニア認定基礎試験 汎用(はんよう)的な言語のため。これらの分野の技術を用いた製品やサービス、インフラが増えると考えるため。
CITP(認定情報技術者) 今までは内向きでテクニカルスキルが求められたが、今後はそれに加えて顧客側の立場に立って、総合的に技術を扱える技術者が必要になると考えるから。
情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)    IT人材不足の危機が迫る中で、国家資格を持つ情報セキュリティ人材の必要性がより高まると考えるから。
CGEIT認定 日本企業の弱点をカバーできるグローバル資格だから。
データベーススペシャリスト試験         データの取り扱いが業務品質を分ける状況が今後増えると考えるため。

 「AWS認定資格」などクラウド分野のベンダー資格は引き続きの注目資格として多くの声が挙がった。理由として「AWSなどクラウド対応のアプリ開発が増える」「スキルを持つ人材が不足している領域だから」などのコメントが寄せられた。

 他にもAI(人工知能)やRPA(Robotic Process Automation)をキーワードに、「RPA技術者検定アソシエイト」などのRPA関連資格や、データアナリストやデータサイエンティストに関連する資格への注目度も高い傾向にあった。また、DXに着目して「DX検定」や「DXアドバイザー検定」を挙げる人も少なくはない。

 これらに加えて、今回の調査結果の特徴として「ITストラテジスト試験」を挙げる声が目立った。理由としては「ITを事業に取り込めていない企業が多く、ITコンサルが必要とされそうだから」「ビジネスモデルの構築に必要とされそうだから」などのコメントが寄せられた。

 DX需要は今後も活発化することが予想され、テクニカルスキルだけでなくビジネスとひも付けたIT活用を考える能力がより求められるのだろう。

報酬は「合格時」か「合否問わず」か、企業で分かれる資格支援

 企業によっては、資格取得に必要な費用を補填(ほてん)する「資格取得支援制度」が設置されている場合もある。アンケート回答者に、勤務先に資格取得支援制度もしくはそれに準ずる制度はあるかと尋ねたところ、50.8%が「ある」と回答した(図3)。

図3 勤務先では資格取得に必要な費用を補填する「資格取得支援制度」またはそれに準ずる制度はあるか。

 資格取得支援制度が「ある」と回答した人に対して、支援内容を選択式で尋ねたところ、「試験に合格した場合、報奨金が支給される」(43.1%)や「試験に合格した場合、会社が受験料を全額負担」(40.4%)など、合格時に報酬が支給される方式が多いようだ(図4)。

図4 資格取得支援制度の内容について。

 「受験料の全額負担」(21.3%)や「書籍購入費用を会社が負担」(18.2%)など、合否によらず手厚い支援を提供する企業も一部見受けられたが、全体で見ると2〜3割程度と少数派だ。その他に寄せられた回答では「資格取得で給与に資格手当が付く」「合格資格の難易度に合わせて報奨一時金が出る」といった制度もあり、資格取得による従業員の能力向上が企業活動にどう影響するか、どのようなメリットがあるかを考えた支援制度もあるようだ

「従業員の興味は無視」限定的な支援制度に従業員は不満

 企業ごとに特色が見られる資格取得支援制度だが、実際に制度を利用している人に対して「要望」や「課題」をフリーコメントで尋ねたところ、コメントや意見を3つに分類できる。

「支援内容」に対する要望

 「資格報奨制度は報奨金という一時金が支給されるだけだが、給与にも継続的に反映してほしい」「試験難易度に見合った報奨金制度を考えてほしい」など、現業への影響度や難易度を考慮した報奨金を望む声があった。

 難易度の高い資格については合格率も低いため「資格の難易度にかかわらず、合格時しか支援が受けられないため、何度もチャレンジしにくい」「難関国家資格に対して参考書1冊だけでは足りないため、参考書の購入費用を全額補助してほしい」といった声が寄せられた。

 他にも「勉強にかかる負担は全て個人持ち」「取得した資格を維持する負担が個人負担になる」といった資格の取得前と取得後にかかる費用を考慮してほしいといった意見もあった。特に受験前は「業務の関係で資格習得支援制度を利用できない社員がいる」「金銭的な支援はありがたいが、講習など教育の支援も欲しい」など、業務負担の軽減や学習機会の提供といったフォローを求める声もあった。

「支援対象となる条件」への要望

 ここでは「事業と異なる資格には支援制度が適用されないため、資格取得のモチベーションにつながらない」「現在の所属部門の業務に関連しない資格は報奨金の対象にならない」といった声が目立った。

 企業が資格取得を後押しする背景として、従業員の能力アップによる生産性の向上やモチベーションアップ、顧客に対する企業イメージの向上などが考えられる。対象資格を現業に近い資格に限定しすぎると、「対象資格が少なく、現状のニーズに合っていない」などの不満が噴出しやすくなるだろう。企業はこれらの課題に向き合あわなければ従業員の取得意欲の減退はもちろん、市況ニーズに合った資格保有者を集めづらくなるといった課題にもつながりかねない。

資格取得後の活用における課題

 3つ目は、資格取得後の課題だ。「IT関連資格を取得しても生かせる場がなく、受験しようというモチベーションにつながらない」「資格を業務に生かせる場がない」「資格を有効活用できていない」などのコメントに見られるように、企業は資格取得を後押しする一方で、活用機会がないことで従業員は「資格を取得しても無駄」というイメージを持ちやすい。

 人手不足や優秀な人材確保が深刻な企業課題となっている今、資格取得を通じた既存従業員の能力アップは必須だ。適切な人材教育と人事戦略を考え、それに準じた資格制度の運用が求められるだろう。

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