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「最低限の仕事しかしない」上司の対処法、部下目線で考える

最低限の仕事しかしない「静かな退職」という言葉が若い世代を中心に流行している。しかし、「静かな退職」は若手だけの特権ではない。上司がこの選択をした場合に、職場はどのような状態に陥るのか。また、部下や組織はどのような対応ができるのか。

» 2022年12月19日 09時00分 公開
[Kyra Leigh SuttonHR Dive]

このコラムの筆者であるカイラ・リー・サットン(Kyra Leigh Sutton)博士は人事の専門家で、ラトガース大学経営労務学部(School of Management and Labor Relations at Rutgers University)の教員です。本稿の内容は筆者個人の見解です。

 「静かな退職」(quiet quitting)という言葉を耳にしたことがあるだろう。従業員が必要最低限の仕事しかしなくなる現象だ。Gallup(注1)の世論調査によると、米国の労働人口の少なくとも50%が、給与をもらうために必要最低限の仕事しかしていないことが明らかになった。

 しかし、上司が静かな退職をした場合の話はあまり聞いたことがない。特にキャリアをスタートさせたばかりの部下は、上司に指導を仰ぐ中でどのような影響を受けるだろうか。

部下の出世にも響く、上司の「静かな退職」

 筆者は、ラトガース大学経営労務学部の学部生121人を対象に、彼らが職場で何に気付き、それが自分にどのような影響を及ぼしているかを調査した。その結果、次のようなことが分かった。

 筆者の学生の多くは、銀行や物流センター、医療施設などでアルバイトや正社員として働いている。あるいは、接客業、通信業、運輸業、非営利団体などの事務職に就いている。彼らは、教授から課題を与えられるだけでなく、勤め先のマネジャーからも仕事を委任されている。

 Gallupの調査結果の通り、私の学生の53%が「現在または以前の上司が静かに退職していくのを目の当たりにしたことがある」と報告している。次の3つの行動が最も多く報告された。

  • 仕事の完成度が低い
  • 退社時間が早い
  • メッセージの返信に時間がかかる

 ある学生は、「上司はミーティングにめったに現れないし、以前ほど頻繁にオフィスに来なくなった。また、Microsoft Teamsのメッセージに返信するのに2日近くかかったり、完全に無視することもあった」と答えている。

 上司の静かな退職を見たことがある53%の学生のうち、ほとんどが「無視された」「上司の関与が薄れた」と報告している。残りの47%は、「上司が辞めたらどうしよう」と心配している。

 調査結果を分析すると、気掛かりな男女差が浮き彫りになった。女子学生は、上司が退職するような環境で働くと、定期的なフィードバックを受けられなくなることを懸念する傾向にある。

 これまでの研究(注2)で、女性は仕事でのパフォーマンスや成長に貢献するような実用的なフィードバックを受けられる可能性が低いことが明らかになっている。静かな退職は、この問題をさらに悪化させるおそれがある。

 静かな退職によるフィードバックの低減は、職場で昇進するための不文律を学ばなければならないキャリアの浅い女性にとって、特に懸念される事項だ。フィードバックがなければ、組織に影響力のある重要人物との関係を構築できず、ミスの許されない重要任務を理解できなかったり、組織のリーダーシップのあるべき姿に添った行動を示せなかったりする。

「静かな退職」は伝染する

 アンケート結果には、もう一つ興味深い男女差が見られた。女子学生は「我慢して頑張る」と答えるのが一般的だが、男子学生は「上司の静かな退職に倣った振る舞いをするだろう」と答えた。

 ある男子学生は、「上司は尊敬の的であり、一般従業員はその下で働いているので、モチベーションが下がるだろう。上司の真似をする可能性が高くなる」と言う。

 この結果は、マネジャーが職場のロールモデルとなることの重要性を物語っている(注3)。強いリーダーは、信頼関係を築いて、自分の行動に責任を持ち、チームに期待する行動を示すことに重点を置いている。弱いリーダーは、しばしば非礼な態度をとって、従業員の仕事量を減らしてしまう。

 上司が静かに退職すると、それが職場全体に広がり、生産性が低下するおそれがある。

マネジャーが「静かな退職」をする組織が若い従業員を守るには

 このような状況にあるキャリアの浅いの専門職をサポートするには、2つの重要な方法がある。

 まず、メンターを付けることで(注4)、若手従業員に発言力を持たせる。メンターは、日々のパフォーマンスに関するフィードバックを提供することはできないが、従業員の懸念を上層部に伝え、その気持ちを代弁できる。このような支援は、従業員が組織に対して抱く印象にプラスの影響を与えるという研究結果もある(注5)。

 次に、企業は若手の従業員に職場での経験について継続的に話してもらう必要がある。マネジャーはこのプロセスを自分たちだけで進めることはできないし、そうすべきではない。結局のところ、マネジャーが問題の一端を担っている可能性があるからだ。その代わりに人事担当者は、若い従業員が安心して悩みを打ち明けられるような従業員支援グループを作るべきだ。

 これは、静かに退職した上司から不当に影響を受ける可能性のある女性や有色人種などのマイノリティーに属する労働者にとって、非常に重要なことだ(注6)。

 静かな退職は今に始まったことではないが、全国の職場で驚くほど頻繁に起こっている。上司の行動が職場文化をむしばみ、生産性を低下させ、早期退職者の成長を阻害するおそれがある場合、企業は対策を講じなければならない。

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