では、自律技術システムのユースケースには、どのようなものが考えられるのか。
現在もっとも注目されているのは、OpenAIが2022年11月に公開したチャットbot(会話型AI)の「ChatGPT」だ。言語モデルの開発には継続的に投資が行われており、その技術進歩は目覚ましい。例えば米国Alphabet傘下のGoogleは、2018年に自然言語処理モデルの「BERT」を発表して以降、2021年には会話技術の「LaMDA」を、2022年には「PaLM」をそれぞれ発表している。
ただし、言語モデルを搭載した自動化機能の適正なビジネス利用には、一定のハードルがあると飯坂氏は指摘する。具体的には学習データの偏りによって生じてしまうバイアスや不正利用を排除したり、各種ハラスメントを回避したりしなければならない。もちろん、著作権などの法令順守も必須である。これらが徹底されない場合には、企業の信頼やブランドを傷つける可能性がある。飯坂氏は「会話型AIは、リターンかリスクかのジレンマを乗り越える必要があります」と指摘する。
IDCが2022年8月に行った「2022年国内会話型AI市場動向調査」によると、会話型AIを導入、または導入検討の際の課題に挙げられたのは「投資対効果」や「技術者の不足」などが多かった一方で、「自動化範囲の拡大」や「安全性のリスクコントロール」といったリスクマネジメントに関する項目も挙がった。こうした傾向について、飯坂氏は以下のように指摘する。
「IDCでは2025年までには国内のGlobal 2000企業のCFO(最高財務責任者)の30%が、AIリスクを企業リスクプログラムの一部として取り入れると予測しています。安全性やリスクコントロールのハンドリングは複数の部門に関連する課題であり、(解決には)時間がかかります。ですから、会話型AIの導入を検討しているのであれば、“今”着手することがよいと言えます」
グローバルでは自律技術システムの導入で効果を上げている企業も目立つ。講演ではインド最大手のIT企業であるTata Consultancy Services(以下、Tata)の導入事例が紹介された。
Tataでは2万人以上のコンサルタントを擁しており、日々、膨大な量のカスタムレポートを作成している。しかし、保持しているデータがサイロ化し、レポートを作成するアプリケーションチームに負荷が集中するという課題を抱えていたという。その解決策としてビジネス部門がセルフサービスの分析機能を利用できるよう、自然言語によるクエリとAIによるスマート検索機能を導入したところ、アプリケーションチームの負荷が軽減されて分析レポート作成に要する時間は半減したとのことだ。
こうした状況下で自律技術システムを活用し、企業価値を高めるには何をすべきなのか。飯坂氏はこれまでの内容を総括し、ITバイヤーに対する提言として以下の3点が重要だと述べた。
一方、ITサプライヤーとしては「顧客の変革プロジェクトのバーチャルリーダーとなる」「最新技術情報の探索と実験、新しいサービスの商用化とマネタイズに貴重なリソースを割く」「リスクマネジメントのオファリングを迅速に着手する」ことが重要だとし、以下のように指摘した。
「顧客の変革プロジェクトのバーチャルリーダーになるためには、ITサプライヤー自身の体制見直しも必要です。具体的には、営業やマーケティングの組織改正やKPI(重要業績評価指標)も再検討しなければなりません。また、限られたリソースを最適配分するためには、人材の役割定義を継続的に見直すことも重要です。そして、AIやアナリティクスのセルフサービス機能をリソースの中にうまく組み込むこと。そのためには各機能がもたらすメリットを理解し、(既存システムとの)ギャップを意識する必要があるのです」
今後は自動化システムやAI、セルフサービス機能が企業戦略の中核を担うことは間違いない。企業はこれらの技術がもたらすメリットとリスクを適正にマネジメントする必要がある。
最後に飯坂氏は、「ブランド瑕疵(かし)や人材流出、最新技術の機会損失などに伴う財務的インパクトを企業の意思決定者に把握してもらうことで、自動化システムやAI、セルフサービス機能といった分野への投資に対して理解が深まり、(投資拡大などの)具体的な行動につながるでしょう」と語り、講演を締めくくった。
注1:仕入れから現金を回収するまでの日数を示す財務指標
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