業務担当者が自らの業務を自動化できるとしてブームになったRPAだが、「コストがかさむ一方で徐々に効果を実感できなくなる」「使わないロボットが増えて、徐々に効果がコストを下回る」といった課題も聞こえてくる。その理由と解決策とは。
「一時期『RPAで○○時間削減』という文言をよく目にしました。しかし、部分的な自動化を積み上げても、効果は水のように消え、残るのは維持費のみという話をよく聞きます」――こう話すのはデジタル・インフォメーション・テクノロジーの成田裕一氏(プロダクトソリューション本部 執行役員 DXビジネス研究室 室長)だ。
同氏はユーザー企業で6年間、RPAの大型スケールを指揮した後、日本RPA協会 スケール化Evangelistとして企業の自動化プロジェクトを支援している。その中で、「コストがかさむ一方で徐々に効果を実感できなくなる」「使わないロボットが増えて、徐々に効果がコストを下回る」といった課題に悩む企業を目の当たりにしてきた。
同氏は、その理由について「RPAが個別最適化のためのツールだから」として解説し、その課題を乗り越えるために“全自動”と“費用対効果の可視化”のための仕組みを作るアプローチを提唱している。同氏が解説した内容を前編と後編に分けて紹介する。
成田氏はセッションの冒頭、業務の個別最適化と全体最適化について例を挙げて説明した。
「派遣契約の延長の確認と契約の締結を行う業務」を7つのステップに分けるとする。「人事部の担当者が契約者の一覧を人事システムから抽出する」が1つ目、「部門別に契約者の一覧を作成する」が2つ目、「部門長に一覧をメールで送付する」が3つ目のステップだ。
続いて「メールを受け取った部門長が契約の締結を行う人をチェックして、人事部にメールを返送する」が4つ目、「人事部の担当者がチェックリスト受け取る」が5つ目、「チェックリストを基にして派遣契約書を作成し、メールで送付する」が6つ目、「戻って来た契約書を保管する」が7つ目のステップになる。
成田氏によると、RPAによる個別最適化とは前半の1〜3までのステップをRPAで自動化し、残りの4〜7のステップは今まで通り人が担当することだという(図1)。この場合は業務全体の20%が自動化されたことになり、RPAはこうした部分的な使い方をされることが多い。これについて成田氏は次のように解説する。
「RPAは個別最適化を積み重ねて全体最適化を実現するツールです。しかしこの方法では効果を実感しづらいのも事実です。私はよく企業から『RPAで業務時間を大幅に削減したものの、勤務時間や残業時間にあまり変化が見られず具体的な効果を実感できない』といった相談を受けるのですが、これはRPAが個別最適化のためのツールだからです」(成田氏)
「活用が進むにつれて効果がコストを下回る」こともRPA活用時の課題として頻繁に取り上げられる。成田氏によると、これは「使わないロボットが増える」ことと関係しているという。
「RPAの導入時は、ロボットが停止するリスクの低い業務から自動化しがちです。これは逆の言い方をすれば、『停止しても問題のない業務を自動化している』ことになります。ロボットが停止しても人力で対応できる業務であれば、トラブルが発生した際に元の状態に戻る可能性が高いことは容易に想像がつくでしょう」(成田氏)
RPAは外部環境の変化に弱く、OSやブラウザ、メールソフト、グループウェアソフトの変更によってロボットが動かなくなることは珍しくない。パソコンやグラフィックコードの性能を上げることで画像の質が良くなり、画像を認識しなくなることもある。また、自動化している基幹システムそのものが変更になり、急に動作しなくなることもある。これらに加えて、開発担当者が異動になった後にロボットが停止し、修正できないまま放置されるケースもある。
ロボットの数が増えると当然保守運用コストは上がるため、活用が進むにつれて効果がコストを下回る可能性がある。そのためロボットを管理するための体制を構築し、運用コストを適正化することも大切だ。これについて成田氏は次のように語る。
「ロボットを管理するための体制が構築されていないと、動かなくなったロボットを放置して使わなくなるだけでなく、業務が人力に戻ってRPAのコストが残ります。こうなると、業務を自動化してコストを削減するという当初の目的が逆転してしまいます」(成田氏)
これらの課題を解決するためにはどうしたらよいのだろうか。成田氏は「業務の全体最適化を見据えて費用対効果を可視化する」ことを解決策として提案する。
「RPAによる個別最適化だけでは費用対効果が上げづらいため、個別最適化から徐々に全体最適化に近づけていく必要があります」(成田氏)
RPAによる業務自動化の効果を実感するには、個別の業務の自動化にとどまらず、一連の業務全体を自動化し、費用対効果を可視化するための仕組み(図3)を作る必要があるという。
費用対効果を可視化する仕組みについて、成田氏は「削減時間だけに惑わされず、RPAの導入の効果をしっかりと把握する必要がある」と強調する。
「例えば保守や運用も含めたRPAの累積コストを可視化したり、業務全体がどう効率化されたかを数字で確認したり、費用対効果のルールを作って点検したりする必要があります」(成田氏)
RPAの累積コストには「初期コスト」「インフラコスト」「ライセンスコスト」だけでなく、バージョンアップや外部環境の変更に伴う保守運用コストも含まれる。成田氏は個々のロボットを派遣従業員と見なし、ロボットごとの累積コストを試算しているという。
効果はコストに比べて可視化が容易ではない。しかし削減時間を金額に換算して算出する定量的な効果だけでなく、「品質が向上した」「精神的な負荷が軽減した」といった定性的な効果もアンケートなどでしっかりと把握する必要がある。そうすることで初めてコストと効果の比較が可能になる。
「効果の満足度」といった定性的な効果は、RPAの活用が進むにつれて次第に減少する傾向がある。成田氏は「RPAの効果は導入時とその後で変化します。定量的な効果と定性的な効果をしっかりと把握しつつ指標を作り、費用対効果を分析する必要があります」と語った。
後編では、成田氏が提唱するRPAとローコード開発ツールを組み合わせた業務の全体最適化の方法について紹介する。
本稿は、アイティメディアが主催したオンラインイベント「ITmedia DX Summit vol.14 DIGITAL World 2022」(2022年11月7日〜10日)のセッション「RPAによる個別最適の反省から生み出した“全自動”を叶えるローコードツールの生かし方」を編集部で再構成した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。