企業は人的資本経営に本当に取り組んでいるのか。人材ポートフォリオ策定やリスキリング、D&Iなどの具体的な取り組み状況が明らかになった。
人的資本情報の開示義務化で注目が集まる「人的資本経営」。「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営」(注1)と定義されている。
日本企業は人的資本経営を実施できているのだろうか。経営層へのアンケート結果から、企業の実情と本音が見えてきた。
2023年3月1日、人事・労務関連のシステムを提供するチームスピリットは従業員1000人以上の企業の経営者・役員102人を対象に行った調査の結果を発表した。
同調査によると、人的資本経営の取り組み状況に関して「継続して取り組みが実施できている」と回答したのは全体の47%だった。「特に実施していない」という回答者も15.7%存在するものの、多くの企業が着手し始めているようだ。
人的資本経営に着手している企業に対して具体的な取り組み状況を聞いた質問では、「動的な人材ポートフォリオ(人材ポートフォリオの定義、必要な人材の要件定義、適時適量な配置・獲得)」が58.4%、「リスキル・学び直し(リスキリングの機会提供、経営陣のリスキル、キャリア構築の支援)」が44.2%、知・経験のダイバーシティ&インクルージョン(多様な価値観の取り込み)が41.6%、従業員エンゲージメント(多様な就業機会の提供)が41.6%という結果だった。
高度なスキルを持つ人材の獲得が厳しいため、既存の人材の活用がトレンドとなっており(注2)、そのための人材ポートフォリオの策定を急ぐ企業が多いようだ。
同調査ではISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)で定められた11項目に関して、人的資本経営に着手している企業がどの項目に重点を置いた情報発信を行っているか尋ねた。その結果、「コンプライアンスと倫理」と答えたのは50.6%、「ダイバーシティ」は33.8%、「スキルと能力」は20.8%だった。
一方、同様の項目において「本音」としてどの項目に重点を置きたいか尋ねた質問では「コンプライアンスと倫理」が37.7%、「コスト」が29.9%、「ダイバーシティ」が24.7%、「生産性」が20.8%だった。本音では「コスト」と「生産性」が上位に挙がった形だ。
生産性に重点を置きたいと回答した人にその理由を尋ねた質問では「組織のパフォーマンス向上につながるから」「利益に直結するから」「より効果的な業務効率化につながるから」といった回答が多かった。
「リスキリング」や「多様性」といったキーワードが取り上げられることが多い人的資本経営だが、まずは業績に直結する部分から注力したいという経営者の本音が表れた調査結果となった。
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