アイダ設計とLIXILトータルサービスは、ノーコード/ローコード開発で業務改革に挑み、大きな成果を出した。両社の業務改革の成功の裏には、現場担当者を巻き込んで業務改革を進める際の“あるコツ”があった。
大量の紙による業務課題を抱えていたアイダ設計と、老朽化したワークフローシステムによる非効率に悩んでいたLIXILトータルサービス。両社はノーコード/ローコード開発ツールで業務革に取り組んだ。
アイダ設計は、年間13万2000枚の紙の削減を実現し、LIXILトータルサービスは複雑なワークフローに起因した申請ミスを84%なくすことに成功した。開発に携わったメンバーがいずれもシステム開発を経験していない、事業部門のメンバーだったという。
両社の業務改革の成功の裏には、現場担当者を巻き込んで業務改革を進める際の“あるコツ”があった。アイダ設計の大槻智輝氏(常務執行役員 営業本部担当 DX推進・SDGs推進担当)と、LIXILトータルサービスの池田かおる氏(デジタル推進部活用促進チーム)が語った。
設計事務所をルーツとするハウスメーカー・アイダ設計。自由設計でありながらローコスト・高品質な木造注文住宅を提供し、年間3300棟の契約実績を誇る。そんな同社が抱えていた課題を、アイダ設計の大槻氏は次のように振り返る。
「当社は紙とFAXの文化が根付いていたうえ、業務のやり方やルールが統一されていなかったため、部署間での多くの作業が重複していました。これらの課題を解決するためには、単純なペーパーレス化ではなく、業務の見直しも必要だと感じていました。しかし当社にはIT人材が不足していたため、ITを活用した業務改善に取り組む余裕がありませんでした」
この課題を解決するために同社は3ステップの方針を打ち出した。「1、紙業務の電子化」「2、業務プロセス全体のデジタル化」「3、デジタル化推進体制の全社展開」だ。そしてこの方針を推進するために導入したツールが、ワークフローとWebデータベース機能を備えたノーコード・ローコード開発プラットフォーム「SmartDB」だった。
アイダ設計ではこのSmartDB(スマートデービー)を利用して、手初めに契約管理業務のデジタル化に取り組んだ。
同社の契約管理業務とは、顧客商談管理から契約書の作成、社内決裁、契約締結および保管までの業務フローのことを指す。実際にデジタル化した契約管理業務フローは次のようなものだ。
まず、Salesforceで顧客・商談管理を行い、その顧客情報をSmartDBと連携させて、SmartDBで間取り・見積もり管理を行う。契約が決まるとSmartDBで契約決裁書を作成。そこに間取りや見積もりの依頼書や工事工程などの必要書類を反映させ、SmartDBのバインダ機能でまとめる。そして社内決済後、SmartDBより必要な契約書類を帳票出力し、それをクラウドサインと連携させて契約を締結する。契約締結後は契約書類と合意締結証明書が契約決裁書(SmartDB)へ格納される。これにより契約書類の原本郵送は不要になった。
SmartDBでの契約管理業務フローの開発にあたっては、“システム開発経験ゼロ”の現場部門を中心に開発担当者をアサインした。担当業務後にメンバーが集まり、店舗の意見も踏まえながらアプリ開発を進めたという。
「メンバーの得意な内容を業務分担することでアプリ開発を迅速に進められました。限られた時間での開発だったので、8割ぐらいの完成度で運用をスタートしました。そして運用開始後に、予想していなかった問題や、各部署からの要望に対して早急に対応していきました」。大槻氏は導入の成功要因についてこう語った。
SmartDBによる契約管理業務フローの構築によって、年間13万2000枚の紙の削減、1650時間の作業時間の削減を実現した。また、現場部門から10人のデジタル人材を創出したことも成果の一つだ。現在は基幹システムとSmartDBをAPI連携させて、同一データの重複入力などの削減と、多角的な情報の活用を目指して取り組んでいる。
「今後はさらにデジタル人材を増やしてアプリ開発を進めることで、生産性の向上を目指します。ITリテラシーがそれほど高くない従業員でも自然にデータを活用できる状況にすることで、データ活用の幅を全社的に広げていきたい。デジタル化を進めるためには、あまり難しく考えないこと、とにかくデジタル化したい内容を声に出すことが重要です。そうすれば、情熱のあるスタッフとSmartDBがそれを実現してくれると信じています」(大槻氏)
LIXILトータルサービスはLIXILグループの中で、住宅設備機器・建材の工事やリフォーム、メンテナンスなどを行う会社だ。メンテナンス件数は年間118万件、工事件数は年間42万件にも上る。同社では幅広いパートナーと協業しているため月間3000件ほどの業務にかかわる申請があるが、それを支えるワークフローシステムの老朽化が課題となっていた。LIXILトータルサービスの池田氏はSmartDB導入前の状況について次のように語る。
「旧システムはモバイルに対応しておらず、現場でタイムリーに処理ができない上、修正対象をシステム開発部門に依頼する必要がありました。合併前のシステムを引き継いでいるため、現行組織に対応できていませんでした。他にも各部署で作成された紙やExcelでの申請業務が多数存在しており、目的に合った申請を探すだけでも担当者は苦労していました」
そこで同社は、現場主体でデジタル化を進められるツールとしてSmartDBを採用。SmartDBによる新ワークフローの開発に取り組んだ。
「ワークフローの開発にあたって目指した姿は、旧ワークフローシステムをそのまま移行するのではなく、業務をシンプルにしてスピードアップを図ることです。そのために、利用する全ての部署の担当者と1対1で面談をし、納得してもらった上でフォームの作成に入りました。重複申請や重複項目を全て見直した結果、申請フォームの70%削減、入力項目の30%削減につながりました」
池田氏はSmartDBにより業務をシンプル化できた事例を2件挙げた。1件目は、「新規取引口座の申請業務」だ。従来、この業務のワークフローは、条件ごとに申請フォームが異なっていたことが原因で、選択ミスが多発していた。また、自由形式による入力ミスや、必須項目の設定ができないことによる入力もれも多かった。
SmartDB導入後は、条件分岐機能を活用して申請フォームを一本化。承認担当者DBも同時にSmartDBで作成し、承認ルートが自動的に判定されるようにした。これらによってミスは84%削減されたという。
2件目の事例は、「従業員のスキルチェックフローのシンプル化」だ。同社の従業員のスキルチェックの工程は、本人の評価から本部集計までに複数のアプリを利用する煩雑なフローで、約5カ月をかけて実施していた。前年データを引き継げず、データを毎年再入力する必要があったことや、数百人分のデータを手作業で集計する本部の負荷が大きかった。
この業務をSmartDBで一本化した。前年データを反映させることで入力負荷を低減し、データも自動集計させ、進捗の確認も一覧化できるようにした。これにより、ワークフローシステム刷新と併せて年間5048時間の削減に成功。利用者からも、「入力が簡単」「分かりやすい」「直感的に操作できる」といった声が上がっている。
今後は、APIを活用したSmartDBと関連システムとの連携や、122の申請業務をSmartDBで一本化することを目指すという。
「自分たちだけで完璧を目指さずに、7割〜8割の完成度で現場に提供し、使ってもらったうえで改善を繰り返すことが、より良い業務アプリに育てることになると考えています。今後もSmartDBでアジャイルなスピード感のある改革を続けていきます」(池田氏)
社内のデジタル部門は、基幹システムなど社内全体やグループ企業に関わる業務が中心となるため、業務システムの対応には時間がかかりがちだ。そこで現場の要望に合わせてスピーディーに構築、アップデートできる使いやすいシステムとしてSmartDBを活用した点が両社に共通している。開発担当者も両社ともに、非デジタル部門の現場担当者だ。
実務担当者による実務担当者のための業務アプリの開発、導入を成功させ、ひとまず定量的な目標を達成した両社。SmartDBがコンセプトとする「デジタルの民主化」へ向け、さらなる歩みを進めている。
本稿は、オンラインセミナー「DX組織に求められるバックオフィス変革〜デジタルの民主化DAY〜」(主催:ドリーム・アーツ)における両社の講演内容を基に編集部で再構成した。
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