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4割が正確な勤務時間「報告せず」 なぜそこまでしてサービス残業するのか勤怠管理システムの利用状況(2023年)/後編

法令改正により重要度が増す「勤怠管理」。どうやら、正確な勤務時間を報告しないケースも多発しているようだ。なぜそのような状況に陥るのだろうか。

» 2023年04月27日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 テレワークの普及により見えにくくなった従業員の勤務状況。法令対応のため、企業は正確な勤怠管理に努めているはずだが、実態はどうだろうか。テレワーク下の従業員はそうした環境整備をどのように感じているのだろうか。

 キーマンズネットは「勤怠管理に関するアンケート(2023年)」と題して調査を実施した(実施期間:2023年3月24日〜4月4日、回答件数:317件)。後編となる本稿では、調査結果を基にテレワークの実施状況や残業時間の管理状況について紹介する。

なぜ正確な勤務時間を「報告しない」のか?

 そもそも、従業員は正確な勤務時間を報告しているのだろうか。以下は「正確な勤務時間を報告しなかった経験があるか」を聞いた結果だ。

 全体では約4割(36.0%)が「はい」と回答し、従業員規模別に見ると、500人以上の企業で「はい」の割合が下がるが、さらに規模が拡大するにつれて増えている。多くの企業が「中堅」と呼ばれるラインで一度ルールの引き締めを図るが、さらに成長して「大企業」と呼ばれるようになると、規模が大きすぎてルールの浸透が難しくなるのかもしれない。

図1 正確な勤務時間の報告をしなかった経験はあるか(従業員規模別)

 業種別に見ると、教育機関や医療機関、官公庁などでは法令順守意識の高さからか、「はい」の割合が低い。その他の業種ではあまり差がなく、どの業種でも正確な勤務時間を報告しない、またはできない状況が発生していると思われる(図4)。

図2 正確な勤務時間の報告をしなかった経験はあるか(業種別)

 ではなぜ、勤務時間を正確に報告しないのだろうか。理由をフリーコメントで募集したところ、以下のような回答が集まった。

個人的な要因

  • 休日や定時後に短時間の業務処理を行った時、報告が面倒だった
  • 深夜、早朝など短時間なので報告しなかった
  • 後日まとめて勤怠情報を入力しようとして勤務時間を忘れてしまい、間違った時間を入力した
  • 時間外が発生した背景に、自分のミスがある場合は申請が面倒

環境要因

  • 定時になったら「とにかくタイムカードを押せ」と業務連絡があったため
  • 申請しても承認されないため
  • 社内の雰囲気
  • 業務はあるが残業規制をオーバーするから

 「面倒」「失念していた」などの個人的な要因による報告ミスは、勤怠管理システムの使い方の周知や上司からの定期的な声掛けによって、一定程度減らせる可能性が高い。「自分のミスで時間外労働が発生してしまったので言いづらい」というケースは、個人的な要因ではあるが、職場の雰囲気が原因の可能性もある。

 さらに問題なのは、環境要因による報告漏れだ。正確な勤務時間の把握を組織ぐるみで否定するのは、法的にも倫理的にも問題がある。業務量のコントロールや人材の補充など、できることから、速やかに始める必要がありそうだ。法令対応や従業員のメンタルヘルスの観点からも、会社全体で向き合うべき課題として認識してほしい。

進む「オフィス回帰」、深まるテレワーク派との「分断」

 勤務時間の把握が難しくなりがちなテレワークだが、現在はどの程度実施されているのだろうか。全体では「全社的に実施」(45.1%)、「一部の部門及び職種で実施」(25.6%)を合わせた70.7%が実施中であることが分かった。従業員別に見ると規模が大きい企業ほどその割合は高く、100人以下の企業ではテレワークを実施しているケースは約半数にとどまる。2021年8月に実施した前回調査と比較すると、どの規模の企業でもテレワークの実施率が下がり、コロナ禍が落ち着き、「オフィス回帰」している様子がうかがえた(図3)。

図3 テレワークの実施状況の推移(従業員規模別)

 業種別では「IT製品関連業」でのテレワーク実施率が高いことが分かった(図4)。業種特有の勤務環境や雇用形態によりテレワークへの適応のしやすさに差があることが要因だと思われる。

 前回調査からの推移を見ると、「全社的にテレワークを実施」の割合は増加傾向、または横ばいだが、「一部の部門および職種でテレワークを実施」の割合は減少している。特に「製造業」や「流通・サービス業」でその傾向が顕著で、これらの業種ではコロナ禍で導入した一時的なテレワークから、オフィスへと回帰しているようだ。全社的なテレワークを実施する企業もまだ多いことから、テレワーク派とオフィス派で分断が進んでいるようにもみえるが、「出社が必要な業務」と「テレワーク可能な業務」の切り分けや制度化が一定進んでいるとも読み取れる。

図4 テレワークの実施状況の推移(業種別)

企業による残業管理「未対策」が半数の実態

 テレワークの普及により「時間外労働時間(残業時間)の正確な管理が難しい」「長時間労働になりやすい」といった課題も近年浮き彫りになってきた。実際、厚生労働省主管の働き方改革実行計画(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)においても、テレワークが長時間労働につながる恐れがあることが指摘されている(注1)。管理する企業側も「働き方改革関連法」が定める「時間外労働の上限規則」の観点から、従業員の残業時間を正確に把握する必要がある。

 残業管理の実態を調査したところ「対策している」(41.0%)、「対策を検討中である」(12.3%)となり、約半数が対策済みまたは検討中となった(図5)。2021年の前回調査と比較すると「対策検討中」が7.6ポイント減少する代わりに「何も実施していない」が5.4ポイント増加。「対策済み」は2.2ポイントと微増にとどまっていることから、対策を検討した結果「対策をしない」「対策できない」とする企業も少なくないようだ。

図5 従業員の残業時間管理対策をしている割合の推移(従業員規模別)

 従業員規模別では大企業ほど「対策している」の割合が高いが、前回調査と比較すると、「1〜100人」「101〜500人」の中堅・中小企業で特に対策済企業が増えた。働き方改革関連法「時間外労働の上限規則」の一部猶予期間が2020年3月に終了となったことや、パートタイム・有期雇用労働法における「同一労働同一賃金」が2021年4月から対象になったこと、月間60時間を超える時間外労働に対しての割増賃金率についても2023年4月より大企業と同様「一律50%以上」に変更されたことなどが背景にありそうだ。

 参考までに、対策済みの企業で実施している具体策を聞いた結果が以下だ。

  • PCイベントログを収集して勤怠管理システムとの乖離がチェックされている
  • 在宅勤務時のVPN接続状況のログと労働時間の申告を照合している
  • ログイン、ログアウト時間の監視、ファイル操作履歴の監視
  • 規定時刻(22:00)以降の残業については事前承認が必要
  • 規定就業時間を超えたらアラートが来る

 IT資産管理やPCログ管理ツールを利用し時間外労働の申請漏れを防ぐ仕組みを構築しているケースが多いようだ。「監視」は従業員が嫌う可能性もあるが(注2)、未対策の企業はこれらの事例も参考に残業時間の管理体制を検討してほしい。

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