PCのログを収集し、より良い働き方への改善を促す「生産性モニタリングツール」。テレワークの浸透、働き方の適正化への意識の高まりなどが背景に導入が広がっているが、どのような機能が備わっており、製品選定時のポイントは何だろうか。
従業員の業務実態を把握するために「生産性モニタリングツール」を活用する動きが見られる。勤怠の打刻時間と実稼働時間の乖離(かいり)防止や長時間労働の抑制、サボり防止など効果はさまざまだ。
本稿では、働き方の適正化を課題とする企業に向けて、生産性モニタリングツールの概要と主な機能、製品の選定・導入・運用時の留意点、活用のメリットなどを紹介する。
そもそも生産性モニタリングツールとはどのようなサービスなのだろうか。
パーソルプロセス&テクノロジー(以下、パーソルP&T)の高田亮平氏(プロダクト統括部 MITERAS部 営業グループ マネジャー)によれば、生産性モニタリングツールとは、PCにインストールしたエージェントアプリなどで収集したログに基づいてPCやアプリケーション、Webブラウザなどの利用状況を明らかにし、従業員の働き方を可視化するツールだ。目的は、PCを利用した業務の遂行実態を明らかにし、生産性の向上や働き方の改善につなげることにあるという。
なお、IT資産管理ツールなどでもPCの利用実態を可視化でき、これらを生産性モニタリングツールに分類するケースもあるが、本稿では生産性の向上や働き方の改善を目的にPCの利用実態を可視化するツールを生産性モニタリングツールと位置付ける。パーソルP&Tの「MITERAS(ミテラス)仕事可視化」の場合は労務管理ツールの名目で提供されるが、主な用途が「ホワイトな働き方の実現による業務生産性の向上」であることから生産性モニタリングツールとして扱った。
企業が生産性モニタリングツールを利用する目的は大きく分けて次の3点だ。
特に、人材不足の深刻化を背景に多くの企業で生産性向上が急務となっている現在、働き方改善や健康管理などの目的で生産性モニタリングツールを活用することは採用と離職防止の観点からも重要だと高田氏は指摘する。
「転職サービスの『doda』によれば、転職希望者が最も検索するキーワードは『テレワーク』、次が『在宅ワーク』だそうです。つまり、テレワークや在宅ワークを提供できない企業は、それだけで採用市場において不利になると考えられます。生産性モニタリングツールを活用してより良いテレワークの環境を作ることは、優れた人材の雇用と離職防止を目指す企業にとって不可欠な取り組みです」
また、無駄な働き方をなくし、一人一人の業務時間の使い方を改善して従業員満足度を高めていく手段としても、生産性モニタリングツールが有効だと高田氏は話す。
続いて、MITERAS仕事可視化を例に取り、生産性モニタリングツールに備わる主な機能を紹介する(ただし、契約するプランによって機能が異なる)。
「PCログと勤怠データの比較」では、勤怠データとPCログを比較し下図のように両者の乖離を可視化できる。
「乖離を検知した場合はアラートを赤く表示し、管理者にメールで通知できます。これにより、サービス残業を見つけて給料の未払い状態を解消したり、水増し申告を見つけたり、マネジャーや人事部門が労働時間の実態を把握したりすることができます」
高田氏によれば、同ツールを選ぶ際にアラート機能のバリエーションも確認すべきだという。MITERAS仕事可視化の場合、勤怠データとPCログの間に乖離がある場合、1カ月の規定時間以上の残業が発生しそうな場合、深夜残業を検知した場合のほか、日中のPCの無操作時間が規定値に満たない場合にも通知する機能がある。
他社製品にはある時刻を過ぎるとPCを自動でロックする機能を備えたものもあるという。勤怠管理をどこまで厳正化したいか、自社の要件に沿った機能を持ったツールを選定したい。
MITERAS仕事可視化にはソフトウェアの利用状況やキーボードの打鍵数などを下図のようにレポートする機能も備わっている。
「アプリの利用状況やキーボード打鍵数は10分単位でグラフ化され、どの時間帯にどのソフトウェアを使ってどの程度仕事をしていたかを一目で把握できます。ソフトウェア別で利用時間をサマライズしたり、日別、月別で表示したりすることも可能です」
これらのグラフを活用することで、マネジャーや人事部門は従業員の労働実態を正確に把握できる。例えば、テレワーク中の従業員のPCログがある時間以降に全く記録されておらず、カレンダーにWeb会議や外出の予定がない場合、体調不良で休んでいる可能性が考えられる。あるいは、深夜に「Microsoft Excel」などを長時間利用しており打鍵数も多い従業員は、日中に対応しきれなかった業務の処理に追われている可能性がある。そういった業務過多の従業員に対してはタスクの振り直しなどを早急に行うことが望まれる。
マネジメントに生かしやすい形で見やすくデータが可視化できるかどうかも、生産性モニタリングツールの選定ポイントの一つになるだろう。
ダッシュボード機能を使えば、月次のPC利用時間や無操作時間の推移などを個人やチームなどの単位でグラフ化して表示できる。アプリケーションの利用状況も確認できるので、例えば、これまでは「Microsoft Teams」などコミュニケーション系アプリの利用時間が長かった営業担当者について、ある時期からExcelが上位を占めるようになり、同時に業績も低下し始めたといった場合、「顧客接点が減ったのではないか」といったことが推測できる。
なお、MITERAS仕事可視化ではPCログを最大1分単位で取得し、それぞれの時間に使っていたアプリケーションやウィンドウのタイトル、Webブラウザの場合はアクセスしていたURLまで記録することが可能だ。どこまで詳細な情報を収集するかは方針次第だが、詳細なログデータをさまざまな分析で活用できる。
「あるお客さまは、Excelを使った業務を簡略化するために有償のアプリケーションを導入しました。ところが、MITERAS仕事可視化でPCログを取ってみると、Excelの利用時間が全く減っていなかったため、そのアプリケーションの社内展開の仕方を再検討しました。MITERAS仕事可視化のPCログから、導入したアプリケーションが全く使われていないことが分かり、利用の中止を決めたというケースもあります」
この他、MITERAS仕事可視化によってハイパフォーマーやローパフォーマーの働き方を観察し、部署や役割ごとにハイパフォーマンスな働き方のモデルケースを作ったり、MITERAS仕事可視化のデータを人事評価データと組み合わせて、タレントマネジメントへの活用を模索したりしている企業もあるという。
生産性モニタリングツールで収集したデータの活用方法については、人事部門や業務部門などで連携して検討することになるが、勤務実態の把握やアラート通知の他、下表に挙げるような分析で使う企業が多いという。
以上のような特徴を備える生産性モニタリングツールの導入や活用に際しては、留意すべき点がいくつかある。
まず導入を検討すべき企業は、業種業態やテレワークの有無に限らず、PCを業務遂行の中心的な端末として利用する企業だ。特に相性が良いのは情報通信業だが、MITERAS仕事可視化の場合は大手製造業のバックオフィス部門や、BPOなど受託業務が中心の業態で導入されるケースも多いという。
また、製品選定時に最も重要なのは、導入目的を明確化することだ。例えば、不適切なアプリケーションやWebサイトへのアクセスを防止するためにログを収集したい場合、MITERAS仕事可視化のような労務管理系ツールよりも、セキュリティ系のツールが適しているだろう。主要な目的、不可欠な機能は何かを明らかにしてから、それに最適なツールを選定してほしい。
また、導入に際しては、何のために入れるのかを従業員にしっかりと説明することが不可欠だと高田氏は強調する。
「生産性モニタリングツールは監視されているようで従業員が嫌がるのではないかと考えるかもしれませんが、当社主催セミナーの参加企業の半数以上がすでに資産管理ツールなどで従業員の詳細なPCログを収集しています。そのような企業が生産性モニタリングツールを導入するのは、サービス残業や長時間労働を是正する『働き方の適正化』を進める意思があるからです。従業員の不安を払拭するためにも、『皆が働きやすい環境を作るためだ』と明言して導入することが大切です」
生産性モニタリングツールの多くはSaaSとして提供されており、導入に要する期間はMITERAS仕事可視化の場合は申込みから最長で1カ月だという。
大半はベンダー側での初期設定に費やす期間であり、ユーザー側で行うのは申込書への記入やエージェントアプリのインストール、SaaSを使うための社内のセキュリティ申請程度だ。
「半数以上のお客さまが人事部門など非IT部門だけで導入・運用しています。運用においては、勤怠管理システムから出力したCSVデータを取り込むための簡単なデータ加工が発生しますが、一般的なExcelのスキルがあれば問題なく対応できます」
導入コストは製品によってさまざまだが、導入時に一定額の初期費用を支払い、その後は毎月、ユーザー数に応じた利用料金を支払う製品が多いようだ。
生産性モニタリングツールの活用による主な効果としては、働き方の適正化によるサービス残業や長時間労働の削減、従業員の健康状態の改善などが挙げられる。特に効果を実感しやすいのが、自己申告による勤怠記録とPCログに基づく実働時間の乖離時間の削減や残業時間の削減だという。
「あるお客さまがMITERAS仕事可視化を導入したところ、3カ月で大半の従業員の残業時間が大きく削減され、なかには20時間から5時間程度に減った従業員もいました。勤怠データとPCログを比較した結果、長時間の隠れ残業をしていたケースや、逆に残業時間の水増し請求をしていたケースも見つかったと伺っています」
工数の大幅削減に成功したケースもある。ある企業でMITERAS仕事可視化を導入したところ、ある営業組織のメンバーの多くが長時間にわたりExcelで作業していることがわかった。
「不思議に思った上長が該当者に確認したところ、与信チェックなどのためのデータ入力に多くの時間を費やしていることが判明しました。これは営業担当者がやるべき作業ではないと判断した上長が事務員をアサインして作業を移管したところ、営業担当者の工数が年間で約1000時間削減され、営業活動に多くの時間を使えるようになりました」
その他、MITERAS仕事可視化で収集した情報とパルスサーベイを組み合わせて分析し、従業員のストレスチェックや離職防止などに役立てている企業も多いという。
生産性モニタリングツールは今後、どのように進化していくのだろうか。拡充が予想される機能の一つは、勤怠管理システムや人事管理システムなど、他システムとの連携強化だ。現在はCSVを使った連携が主流だが、APIを使ってより柔軟かつ高度な連携を模索する動きも始まっている。
AIを活用した機能の強化も期待される。「MITERAS仕事可視化でも、収集したデータをAIで分析して、従業員の働き方についてツールから提案していくような仕組みを検討していきたい」と高田氏。今後は生産性のモニタリングにとどまらず、生産性向上の支援へと機能拡充が進むことが期待される。
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