コロナが5類になり、「テレワーク継続か物理出社か」という議論が起きています。テレワークを継続する鍵となる生産性のモニタリングについてお話しします。
「IT百物語蒐集家」としてITかいわいについてnoteを更新する久松氏が、情シス部長を2社で担当した経験を基に、情シスに関する由無し事を言語化します。
2023年5月8日、コロナの感染症法上における分類が現在の「2類相当」から「5類」に移行します。それに伴い、「テレワークか物理出社か」という議論が起きています。
物理出社に戻す企業の中間管理職の方とお話をすると、フルリモートによるメリットは一定程度認めつつも、「売り上げが落ちた」「業務内容を調査したところ、サボっていたことが分かった」という理由から、物理出社に戻すという声が聞こえてきます。「確証はないが何をしているか分からないので、目の届く範囲で仕事をして欲しい」という意見もあります。
この際に話題となるのが生産性です。Offersデジタル人材総研の調査によると、「開発組織の生産性指標にどのように取り組んでいますか」という問いに対して、回答者の77.6%が「生産性を計測できていない」と回答しました。
「顔の見えないフルリモートではきちんと事業貢献しているかどうかを客観的に測ることができない」という課題は、やり方によっては解決を図ることができます。今回は情シス目線で生産性のモニタリングをテーマにお話しします。
先のOffersデジタル人材総研の調査にもありましたが、「開発生産性を計測している」とした企業の39.3%が、売り上げや粗利益額を生産性の指標としていました。ある大手企業の生産性についてのプレスリリースでも総売上を社員の総労働時間で割ったものを生産性と定義していました。
しかし、この売り上げや粗利益額といったものは計測しやすい一方で、外部要因や環境要因に大きく左右されます。「たまたまトレンド的に商品の引き合いが強かった」や「営業担当者がクライアント開拓に成功した」「マーケターが母集団形成に成功した」といったことでも売り上げは増加します。生産性のモニタリングの観点では不適切です。
こうしたことから生産性のモニタリングはシステム導入を伴うものをお勧めします。エージェント登録型とアウトプットモニタリング型の二つについてお話しします。
PCにエージェントを登録し、サーバに情報を集約することで監視するタイプのものがあります。
海外製の製品で、30分に一度など決められた時間ごとにスクリーンショットを取得するというものがあります。前回取得時との更新時の画面の差分などが分かり、就業時間中の何%に動きがあったかが分かりました。しかし、機密情報やパスワード管理画面などがスクリーンショットされる可能性もあることに加え、海外のサーバに画像が保存されるというセキュリティリスクが確認されました。
キーボードやマウス入力を定常的に監視するモニタリングサービスもあります。集中度合いやストレス度合いなども確認できますが、考えている時間などは何も記録されないため、管理者がそういった時間を差し引く必要があります。このような製品は派遣社員を大量に抱えている事務作業の現場などでウケているそうです。ものづくりの場では監視の色合いが強すぎるため、注意が必要です。
資産管理システムを転用する組織もあります。資産管理システムの基本機能としては下記のようなものがあります。
これらの履歴は契約しているパッケージによって変わったり、ポリシー設定で取得のON/OFF切り替えができたりします。作業が全くない場合はアラートを上げられるものも多いです。上場審査などで労務管理が厳しい組織の場合、申請のあった勤怠管理システムのログと、PC操作ログの突き合わせが求められることもあります。
いずれの場合も多かれ少なかれ監視の要素が強めのため、導入時や入社時に一言説明しておく必要があるしょう。個人的な経験としては、海外人材などは「監視され、信用されていないように感じる」などと退職につながることがあるため、理解を求めましょう。
開発の現場などでは、思考の時間は手が止まることが多いため「働いていない」と判断されるのは腑に落ちないと思われます。そこで、アウトプットが期待された質や量を伴っているかどうかをモニタリングするという考えが出てきます。
生産性をモニタリングできる指標としては下記のようなものがあります。
単純なチケット消化数などを指標とした場合、簡単なチケットばかり消費され本質的なモニタリングではなかったという事例がありました。変更障害率なども交えつつ、複合的な要素を基にプロジェクトの進め方やツールによって指標を選択するのがよいでしょう。モニタリングツールとしては「Offers MGR」「Findy Teams」といったソリューションがあります。
生産性のモニタリングは、スポットではなく定常的にする必要があります。社内の状況や、会社や事業の方針転換などもモニタリングに影響することがあります。
一方、こうしたモニタリングの結果を評価につなげるという意思決定には注意が必要です。例えばエージェント登録型を導入している現場で実際にあった事例として、「サボっていると思われないようにしなければならない」という思いが強すぎ、ずっとマウスを弄(いじ)り続けるという非生産的な行動をする社員が登場したことがあります。モニタリングツールより生産性の課題が見て取れた場合、1on1などでヒアリングするなど、トリガーとして用いるのが落とし所でしょう。
モニタリングツールの導入は、テレワークが良い例ですが施策を継続や撤回する意思決定の良い指標となります。労働者の観点からもしっかりとアウトプットが出せているという証憑(しょうひょう)になります。経営層から「なんとなくテレワークになって社員が働かなくなった気がする」などと印象論で言われないように、前もって継続的にモニタリングされることで潔白を証明することも必要なのではないかと考えています。
エンジニアリングマネージメントの社長兼「流しのEM」。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学で大学教員を目指した後、ワーキングプアを経て、ネットマーケティングで情シス部長を担当し上場を経験。その後レバレジーズで開発部長やレバテックの技術顧問を担当後、LIGでフィリピン・ベトナム開発拠点EMやPjM、エンジニア採用・組織改善コンサルなどを行う。
2022年にエンジニアリングマネージメントを設立し、スタートアップやベンチャー、老舗製造業でITエンジニア採用や研修、評価給与制度作成、ブランディングといった組織改善コンサルの他、セミナーなども開催する。
Twitter : @makaibito
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。