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SaaS ERPはクラウドERP、オンプレERPと何がどう違う? インフラから実運用まで解説

SaaS ERPはクラウドERPと同一視されがちだ。SaaS ERPはクラウドERPやオンプレミスERPとどのように異なるのだろうか。インフラやアプリケーションの構成における基本的な違いから、機能やユースケース、コスト、導入といった実運用における違いまでを解説する。

» 2023年08月23日 07時00分 公開
[David EssexTechTarget]

 SaaS ERPはクラウドERPの提供形態の一つであるが、これら2つの言葉は同一視されがちだ。クラウドERPというワードの方が頻繁に使われているため、SaaS ERPのみを扱うベンダーが、SaaS ERPをクラウドERPとして提供することも少なくない。

 SaaS ERPとクラウドERPの違いは何なのだろうか。また、従来提供されてきたオンプレミスERPとは何がどのように異なるのか。インフラやアプリケーションの構成といった基本的な違いから、機能やユースケース、コスト、導入といった実運用における違いまでを解説する。

クラウドERPと混同されるSaaS ERPとは

 SaaS ERPは、クラウドベースのERPの一種で、ベンダーまたはクラウドプロバイダーのサーバで稼働する。販売はサブスクリプション形式で、インターネット経由のサービスとして提供される。

 SaaS ERPは通常、マルチテナントSaaSアーキテクチャを採用する。複数の購入者がソフトウェアの同一インスタンスと基盤インフラ、データベースを共有またはコピーして利用するが、各テナントのデータは分離している。ソフトウェアのアップデートのタイミングはベンダーにごとに決めていて(通常は四半期ごと)、全ユーザーの環境が同時にアップデートされる。ソフトウェアの諸機能は個々のユーザーに関係なく標準化していて、簡単にはカスタマイズできない。

 シングルテナントモードのSaaS ERPも存在する。各顧客が個別にソフトウェアとデータベースのインスタンスを占有し、通常はアップデートやカスタマイズもある程度管理できる。自社のプライバシーポリシーを守る、データプライバシーやセキュリティに関する規制に従うといった目的で、シングルテナントのSaaS ERPが選ばれる。

SaaS ERPとクラウドERP、オンプレミスERPの違い

 ERPはモジュール型ソフトウェアシステムであり、その目的は企業のビジネスプロセス(経理や人材管理、調達など)の情報を、モジュール間で保存、共有するための集中型データベースと統合することにある。

 ERPの稼働する場所がオンプレミスでもクラウドでも、企業の取引やその記録をデジタル化、標準化し、部署間のコミュニケーションを改善してビジネスプロセスを高速化し、顧客とサプライヤー、パートナーをより緊密に統合することでデータの精度を高める。

SaaS ERP

 SaaS ERPはクラウドERPのサブセットだが、これら2つの言葉は同一視されがちだ。クラウドERPの方が頻繁に使われており、SaaS ERPしか扱っていないベンダーが、クラウドERPとしてSaaS ERPを販売しているケースも少なくない。だが、すべてのクラウドERPがSaaS ERPというわけではない。マルチテナント性の有無や、ベンダーによる定期的なアップデートの有無といった点で異なることがある。

クラウドERP

 クラウドERPにはプライベートクラウドも含まれる。プライベートクラウドは通常、ERPベンダーのクラウドまたはクラウドサービスプロバイダーのクラウドで稼働する、オンプレミスソフトウェアの単一インスタンスだ。

 ERPのオーナーはアップグレードのタイミングを自由に決めることができ、インフラについてもある程度管理し、その責任を負う。独自のクラウドインフラでプライベートクラウドを運営することもできる。

ホスト型ERP

 ホスト型ERPは、外部プロバイダーのデータセンターで稼働するリモートアクセスのオンプレミスERPの通称だ。一部のベンダーはクラウドERPと称して販売しているが、ホスト型ERPは通常、低コストやリソースのシェア、導入の容易さといったマルチテナントのSaaS ERPを特徴付けている要素はない。

 ホスト型ERPにはオンプレミスERPであることによるメリットが多くあり、カスタマイズできる点や、アップグレードのタイミングを決められる点などが挙げられる。また、ホスト型ERPは、サブスクリプション価格の設定や、ニーズに応じてコンピューティングリソースを適合できる点など、クラウドインフラが持つメリットも有する。

 SaaS ERPのプログラムコードも差別化要因の一つだ。オンプレミス型とSaaS型をどちらも扱うERPベンダーは、クラウドプロダクトのベースとしてオンプレミスERPのコードを使うのが一般的だ。しかし、SaaS ERPのコードは一般的に、より小規模に整理されていて、機能を限定した新しいバージョンである傾向がある。

 実際のところ、クラウドサービスプロバイダーとERPベンダーは、クラウド「スタック」のさまざまな階層でシングルテナントとマルチテナントの特徴を部分的にブレンドしている。

 例えば、あるクラウドサービスプロバイダーが、データセンターを構成するサービスやサーバ、ストレージ、ネットワークハードウェア、関連ソフトウェアをマルチテナント版のサービスとしてのインフラを提供しているとする。しかし、そのSaaS ERPは、シングルテナントの可能性がある。

 理論上できあがるのは、クラウドの最大のメリット(共有型マルチテナントサービスが持つ効率性や経済性、柔軟性)と、シングルテナントアプリケーションのプライバシーと管理を組み合わせたERPになる。

 一部のSaaS ERPプロバイダーは、専用アプリケーションをプリパッケージ版で提供するとともに、カスタム拡張機能のプログラミングを可能にするマルチテナントインフラの階層をシングルコードベースで追加することで、SaaS ERPをうまくカスタマイズできるようにしている。

 市場調査やERPベンダーの財務諸表によれば、オンプレミス型とホスト型、プライベートクラウド型のERPを合わせると、SaaS型は売上高でその足元にも及ばない。しかし一方で、SaaS型は現在、年率2桁の成長途上にある。2010年代後半から、SaaSはERPのHRコンポーネントに適した導入メカニズムになったが、CRM(顧客関係管理)もまた、いまやSaaSとして提供するのが当たり前になった。

 クラウドオプションが複雑なため、潜在購入者がSaaS ERPを他のクラウドERPと区別するのが難しくなることもある。Forrester Researchによれば、厳密な意味でのSaaS型ERPは、次の要素をすべて含んでいなければならないという。

  • サブスクリプション制の価格設定
  • ERPベンダーによるホスティングと管理
  • マルチテナント性

機能とユースケース

 一般的に、ERPはSaaSの方がオンプレミスよりも使いやすく、所有や維持にかかるコストが下がり、他のシステムやユーザーと接続しやすくなる。それは、インターネット接続が低価格なため実現する。

 SaaS ERPはまた、データ処理やデータストレージ、ネットワークに関するクラウドコンピューティングの優れた能力を必要とする新興技術(AIやアドバンストアナリティクス、ブロックチェーン、IoTなど)にアクセスするための手段でもあり、そこに多くの企業が目を向けている。

 たまにしかアップグレードしない個々にカスタマイズされたオンプレミスERPよりも、マルチテナントSaaSの単一インスタンスの方が、ERPベンダーは最新技術を多くのユーザーに提供できる。

 SaaS ERPのユースケースは数えきれないほどある。SaaS型は初期費用が安く、導入にかかる時間も短いため、小規模かつ成長過程にある企業の最初のERPに選ばれることが多くある。

 また、2層ERPの第2プラットフォームとしても高い人気だ。2層ERPでは、例えば本社の古いオンプレミスERPに、リモートオフィスや海外事業部の小さくて機敏なERPプラットフォームを追加できる。AIやビッグデータ分析、オムニチャネルeコマースといった、自社の戦略上重要な最新技術を導入するのに最も容易なのがSaaS ERPであるため、古いオンプレミスERPからSaaS型へと移行する企業も見られる。

他のERPと比較したSaaS ERPのメリット

 SaaS型ERPのメリットの多くは(特にオンプレミスERPと比較した場合の)、クラウドインフラに元来備わっているものと同じだ。したがって、それらは他のクラウドアプリケーションにも備わっており、ERP固有のものではない。Saas ERPのメリットは以下のものがある。

  • 短期間で導入が可能
  • リソースプーリングがもたらす規模の経済性
  • リソースのオンデマンドセルフサービス「プロビジョニング」
  • エラスティシティー(弾力性)
  • ほとんどのデバイスから簡単にネットワーク接続が可能

 その一方で、SaaS ERPには通常、他のタイプのERPに勝る独自のメリットもある。以下のようなものだ。

  • より最新のユーザーインタフェース
  • 標準化、簡略化されたビジネスプロセス
  • クラウドの新興技術
  • 迅速かつ頻繁なアップデート

コスト

 SaaS ERPにはサブスクリプションモデルが採用されているため、導入にかかる初期費用はオンプレミス型に比べるとごくわずかだ。オンプレミス型の場合は通常、数十万〜数百万ドル(数千万円〜数億円)のアップフロントライセンスが必要になる。

 しかしその一方で、数年後には総費用でオンプレミス型を上回るケースもあり、ユーザー数が急増する場合は特にその可能性が高まる。ERPベンダーは長期的な視点から、SaaS型を信頼性と採算性で勝る収益源とみなしている。理由の一つは、オンプレミス型よりもサービス提供やアップグレードにかかる費用が安価だからだ。

 したがって、SaaS ERPの購入では、サブスクリプションモデルをよく吟味して、その所有にかかる総費用を見積もるべきだ。サブスクリプションにはさまざまなオプションが用意されており、ユーザーごとの価格設定や、会社の規模に合わせてSaaS ERPとクラウドのサービスとリソースを一括する、いわゆるティアードプライシングなどのオプションがある。クラウドインフラは、必要に応じて変動する個別価格の対象になる傾向にある。

導入

 SaaS ERPは、ERPベンダーまたはクラウドパートナーがITインフラを管理し、ユーザーもデスクトップWebブラウザやスマートフォンからソフトウェアにアクセスすることから、数時間〜数日で導入できる。

 ただし、古いERPからデータを移行しなければならない場合、導入に時間がかかることもある。また、新しいソフトウェアの操作方法でビジネスプロセスを実行するため、ユーザーが慣れるための時間も必要だ。

 SaaS ERPは通常、他のSaaS型アプリケーションやオンプレミス型ソフトウェアと情報を交換しなければ、製造や倉庫の管理といった機能にアクセスできない。そのため、統合が厄介な問題になることもある。SaaS ERPは一般的に、ほとんどのオンプレミス型よりも使いやすいという評価を受けている。しかしそこには、時間とリソースを研修に投じ、管理体制の変更を組織に求めるといった、独自の学習曲線もある。

 古くからのオンプレミスERPベンダー(SAP、Oracle、Microsoft、Inforなど)の多くは、真のマルチテナントのSaaS ERPプロダクトを少なくとも1種類は提供している。

 これまでにマルチテナントのSaaS ERPしか提供してこなかったベンダーはごく少数だ。「Oracle NetSuite」(1998年創業の、初のクラウドERPベンダー)や「Workday」は、こうしたいわゆる「専業」SaaSのパイオニアだ。FinancialForceやPlex、Rootstock Software (Salesforce.com傘下)、Sage Intacctなども、SaaSベンダーとして広くその名が知られている。

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