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業務自動化スケールの4つの壁と成功の掟

RPAによる業務自動化プロジェクトは、導入初期は順調に進んでも、社内にスケールする段階で課題が噴出しがちだ。RPAを全社展開して自動化の効果を最大化するために必要なこととは。

» 2023年09月05日 09時00分 公開
[元廣妙子キーマンズネット]

 DX(デジタルトランスフォーメーション)推進のきっかけとして、RPA(Robotic Process Automation)による業務自動化に改めて注目が集まっている。一方でRPAを導入し、小規模な業務の自動化に成功しても、社内にスケールする段階で「Botがエラーでたびたび停止する」「現場を巻き込めない」といった課題に直面しがちだ。

 導入コンサルタントとして、顧客の課題解決を支援してきたオートメーション・エニウェア・ジャパンの下田ひかる氏(プロフェッショナルサービス ソリューションアーキテクト)が、RPAのスケールに関する課題を4つ紹介し、解決策を語った。

スケールの壁を克服する方法とは?

ロールの設定

 下田氏はまず、よくある悩みの一つとして「ガバナンスの強化」を挙げた。自動化のスケールにおいてガバナンスの強化は必須であり、そのために必ず実施しなければならないのが「ロールの設定」だという。

 ロールを設定せずに運用を開始してしまうと、「開発者が監査ログなどの管理者用の情報を閲覧・操作してしまう」「他部門のBotを間違って操作してしまう」といったリスクがある。下田氏は、「こうした事態を防ぐにはスケールの前に適切なRBACを導入し、ユーザーの権限を最適化しておく必要があります」と強調する。

 RBAC(Role Base Access Control)とは、限られたユーザーのみに特定の処理ができる権限を付与することでセキュリティを担保する手法のことだ。必要に応じてロールを作成し、適切なユーザーに割り当てて権限を付与する。ロールには「操作の権限」と「操作の対象」を指定でき、ユーザーの役割や役職、所属部門によって付与するロールを決定する。

 「RBACを導入する際には、想定する役割に応じたロールを過不足なく作成しなければなりません。そのためにはユーザー部門の数やそれぞれの役職の権限を事前に把握し、ロール作成計画を立てておく必要があります」(下田氏)

 RBACを正しく導入すると、他部門のBotにはアクセスできなくなり、誤操作や不適切な閲覧を防ぐことができる。また、管理者以外のユーザーが、管理者向けの情報を閲覧・操作することも防止できる。

 「RBACの導入は、スケールの根幹となる重要なポイントです。先延ばしすればするほど実施は困難になるため、ガバナンスの強化に課題を感じている場合は、一刻も早くロールの見直しをすることをお勧めします」(下田氏)

Botの品質

 次に下田氏は、スケールの際の課題として「Botの品質が低い・品質にばらつきがある」ことを挙げた。

 「品質の低いBotは頻繁にエラーを起こします。また、品質にばらつきがあると修正箇所を見付けにくく、エラー対応に時間がかかってしまいます。この問題を解決するには、Botの品質を担保するための開発ルールを策定し、Botの品質を底上げして規格を統一しなければなりません」(下田氏)

 Botの品質を上げるためには開発者のスキル向上が必要だと考えられがちだが、下田氏はその前提として、「開発ガイドラインの策定と順守」「Botテンプレートの活用」を勧めている。

 Botの可読性や安定性を上げ、エラー率を低下させるためには、「Botは最大500行までにする」「変数は用途が分かる名前にする」といった開発のルールを開発ガイドラインとして事前に定義し、現場に周知する必要がある。

 また、「Botテンプレート」を活用すれば、品質の高いBotを早く簡単に開発することが可能になるという。Botテンプレートとは、「親子構造」「エラーハンドリング」「ログ出力」「前処理」「後処理」「クリーンアップ処理」「メール通知」の7つの処理で構成されるテンプレートで、Bot開発の標準化と効率化を目的としている。Botテンプレートを利用すれば、テンプレートの子Bot内にビジネスロジックを実装するだけで開発が完了し、ログの出力場所が統一されて修正箇所の特定が容易になる。

 「Botが増えれば増えるほど、既存Botの品質を高めるのは困難になります。Botの品質に課題を感じている場合は、ぜひ今のうちに開発ルールを見直し、開発者のスキルに依存しない開発体制を構築してください」(下田氏)

IT部門と現場のギャップ

 スケールの際には、IT部門とユーザー部門の足並みが揃わないことも課題の一つだ。下田氏によると、IT部門とユーザー部門の間に自動化に対する考え方や取り組み方の違いがあり、溝が埋まらないと感じている企業が多いという。

 自動化を管理するIT部門は、「ROI(投資対効果)実現のため、多くの時間を削減できる業務を自動化したい」と考えがちだ。一方でBotを開発・利用するユーザー部門は、「自動化で自分の業務を楽にしたい」と考えているケースが多い。

 「ギャップを埋めるためには、ユーザー部門に当事者意識を持ってもらう必要があります。そのためにはユーザー部門に具体的な目標を設定してもらい、自動化推進の役割を担ってもらうのがいいでしょう」(下田氏)

 ユーザー部門は業務を知っているからこそより具体的な目標の設定が可能であり、このときに「SMART」というフレームワークに沿った目標設定を実施することがポイントになるという。

 SMARTとは、「Specific(具体的に)」「Measurable(測定可能な)」「Achievable(達成可能な)」「Related(経営目標に関連した)」「Time-bound(時間制約がある)」の先頭のアルファベットを組み合わせたフレームワークだ。SMARTに沿って目標を設定すると、「自動化で自分の業務を楽にしたい」ではなく、「自動化で残業をいつまでに何時間減らしたい」のような具体的な内容になりやすい。

 ユーザー部門が具体的な目標を設定すると、IT部門はROIを可視化しやすくなり、次のIT投資を計画しやすくなる。また、ユーザー部門が目標達成に向けて進むことで、IT部門と足並みをそろえた自動化の推進が可能になる。

「自動化」の限界

 スケールの際には「自動化の対象になる業務が見つからない」という悩みもよく聞かれる。下田氏によると、従来の自動化には成功したが、その先の一歩で悩んでいる企業は少なくないという。

 「自動化効果が高い業務はおおよそ自動化してしまい、その後の展開に悩んでいる企業には、ユーザー部門に成り替わるのではなく、ユーザー部門の業務を助ける方向へかじを切ることを勧めています」(下田氏)

 従来の自動化は業務を完全に自動化することだったが、完全に自動化できる業務には限りがある。下田氏は、これまでは通しでの自動化が難しかった業務の一部をパーツとして自動化し、ユーザーと連携して業務を効率化するための新たな自動化ツールとして、「Automation Co-Pilot」を紹介した。Automation Co-Pilotは、ユーザーとの対話型のやりとりを実現するソリューションだ。

 「従来の自動化と新たな自動化ツールを組み合わせることで、より広範囲の業務を自動化できるようになります。これからの自動化では、ユーザーの負担軽減や本来の業務への貢献度を指標にし、範囲を拡大していくことが重要だと考えています」(下田氏)

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