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商船三井がiPaaSで巨大レガシー基幹システムから脱却 3年間の苦労と工夫を担当者が語る

商船三井は2019年11月から3年間かけて基幹システムを刷新し、2022年4月に利用を始めた。新システムのデータ連携基盤には、InformaticaのAI搭載データマネジメントクラウド「Intelligent Data Management Cloud(IDMC)」を採用した。どのような苦労があったのか。

» 2023年09月29日 07時00分 公開
[平 行男合同会社スクライブ]

 商船三井グループでは、部門ごとに導入していた複数のシステム同士をオンプレミス環境で接続していたが、変環境変化へのスピーディーな対応や、システムの維持、管理にかかるコストが課題だった。

 そこで同社では2019年に基幹システムの刷新に乗り出し、自動車船管理システムや燃料調達システムといった中核システムをSaaSに移行させると同時に、iPaaS(Integration Platform as a Service)を使ってそれらのデータをリアルタイムで連携させる仕組みを構築した。

 新基幹システムの導入経緯や稼働後の状況について、商船三井の100パーセント子会社であり、商船三井グループのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を担う商船三井システムズの片濱和彦氏(DXテクニカルプール・プロセスアーキテクト&デザイン Associate General Manager)と右田卓氏(DXテクニカルプール・プロセスアーキテクト&デザイン SURF技術運用保守チーム コーディネーター)が解説した。

巨大なレガシーシステムが進化の壁に

 商船三井は、さまざまな輸送ニーズに対応する海運業を中心に、フェリーや客船などのB2C事業、不動産事業、社会インフラ事業を展開する。グループ全体で約8500人の従業員が活躍し、世界中で約800隻の船舶を運航している。システムの処理件数は1日当たり1万件強で、今後、さらに増える可能性がある。

商船三井システムズ 片濱和彦氏

 「旧システムは会計重視で、営業支援の機能が十分ではなく、追加機能を開発するにも時間がかかり、業務の変更に対してタイムリーに対応できなかった。定期的にシステムの再構築が必要だったが、その都度多額のコストや大量のリソースが必要なことも課題だった」(片濱氏)

 こうした課題を解決するために、商船三井は業界標準のSaaSを導入し、徹底した業務の標準化を進めた。どのような方法をとったのか。

 基幹システム刷新プロジェクトは、「Standardize(標準化する)」「Upgrade(高度化する)」「Renovate(刷新する)」「Flexibiliser(柔軟にする)」をスローガンに、それぞれの頭文字を取って「SURFプロジェクト」と名付けた。

 移行先システムとして、財務・経理システムは「SAP S/4HANA Cloud, Single Tenant edition」、営業部門の船舶管理システムは「VESON IMOS Platform」を採用。データ連携基盤としてInformaticaの「Intelligent Data Management Cloud」(IDMC)、IDMCのコンポーネントである「Cloud Application Integration」(CAI)、「Cloud Data Integration」(CDI)を導入し、さまざまなシステムのデータがリアルタイムに連携される仕組みを構築した。これによって、システムの導入や維持、運用管理のコストの平準化を実現し、属人化を大幅に抑制したという。

基幹システム刷新の概要(出典:商船三井の講演資料)

ノンカスタマイズで既存システムとの接続をノーコードで実現

 「商船三井は、各事業部門が個別に導入してきたシステムをつなげた巨大なシステム群を運用してきた。今回のシステム構築では幾つかのシステムをSaaSへ移行するとともに、既存のシステムとデータを連携させるという課題があった。IDMCの導入後はノンカスタマイズを徹底し、システム間の連携をノーコードで実装できた」(右田氏)

商船三井システムズ 右田 卓氏

 右田氏によれば、IDMCをデータ連携基盤として採用した理由は、拡張性と信頼性、コストだ。拡張性については、新たに導入したSaaSや、今後増えるだろうシステムの連携をスピーディーに実現できることを重視した。その点、IDMCは開発者のためのノウハウがグローバルを含めたマーケットから確保しやすいという。

 また各システムのハブとなるIDMがシステムダウンした場合の影響は甚大だ。IDMCはグローバルで実績があり、安定性や信頼性が高いと評価した。社内にサーバを設置すれば、インターネットを介さずにデータの収受が可能である点も魅力だったという。

 その他、IDMCはデータマネジメントのレイヤーを標準化でき、データ連携をローコードで実装できる。その特徴によって今後発生するだろう連携工数とコストを大幅に削減できると考えた。

安定稼働を実感 将来的にグループ全体の情報分析を担うDX基盤へ

 「従来は既存システムをカスタマイズしてインタフェースとつなげる作業が発生するが、IDMCによってシステム間を疎結合で接続可能になった。当初の計画通り、既存システムをカスタマイズすることなくノーコードでデータを連携できた」と右田氏はシステムの導入を振り返る。

 一方で、課題もあるという。「IDMCは非常に多機能であることからナレッジの蓄積が困難だった。ローコ―ドで開発できることは間違いないが、実際はETL(抽出、変換、書き出し)に精通したエンジニアが学習しながら活用した。開発メンバーは、将来的にジョブローテーションで担当を離れるため、今後のナレッジトランスファーを検討している」(右田氏)

IDMCが実現したこと(出典:商船三井の講演資料)

 2022年4月の稼働後はさまざまなシステムトラブルに遭い、業務繁忙期に慌てたことも何度かあった。しかし、その度にInformaticaのフォローの下、バグ改修やインフラ増強などに尽力してきたという。2023年9月現在、安定稼働を実現し、システムへの信頼性の向上を日々体感している。

 コストについて、従来のオンプレミスのシステムと単純比較はできないものの、基幹システムをSaaSに変えたことでコストの最適化を感じている。

 「2022年にIDMCのライセンス形態がプリペイド型になったことで、購入済みのクレジットでコネクターや新機能を自由に試せるようになり、新しい取り組みのハードルが下がったこともうれしい」(右田氏)

IDMCのライセンスモデルについて(出典:商船三井の講演資料)

 商船三井は、未来に向けてデジタルを活用した商船三井グループが目指す姿「DXビジョン」を策定した。「DXビジョン」ではデジタルを活用することで定型業務を減らし、その分を価値創造に振り向けることで、会社の成長ひいては社会への貢献を目指す。

 「『DXビジョン』のコンセプトに『統合データ基盤を活用し、経営の状況をリアルタイムに分析、把握できる環境の実現』がある。今後はデータウェアハウスやタレントマネジメントシステム、グループ会社の会計システムも連携させたい。将来的には、IDMCによって全社の情報を可視化、分析できる環境を整えて当社のDX基盤へと発展させていきたいと考えている」と右田氏は締め括った。

今後の計画(出典:商船三井の講演資料)

本稿は、2023年9月15日にインフォマティカ・ジャパンが開催したイベント「Informatica World Tour 2023」での講演を基に編集部で再構成した。

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