メーカー各社はAIを活用した事業の合理化や効率性向上に取り組んでいる。本稿は汎用(はんよう)性のある10のユースケースを紹介する。
かつて、ロボットの労働者で埋め尽くされた工場と言えばSF映画のワンシーンでしか見なかったが、現在はメーカー各社によるAI(人工知能)の活用例が増え、現実世界のシナリオになっている。
本稿では、ビジネスリーダーが検討すべきAIのユースケースを10個紹介する。
コラボラティブロボット(協働ロボット)、通称「コボット」は、人間の「もう一組の手」として機能する。
自律型ロボットは特定のタスクを繰り返すようにプログラムされているが、コボットは複数のタスクを学習できる。また、コボットは障害物を検知して回避することも可能だ。
メーカーがコボットに任せるタスクの多くは、重いものを持ち上げる仕事や工場の組み立てラインの仕事だ。例えば、自動車製造工場ではコボットが重い車の部品を持ち上げている間に、人間の労働者が取り付けを行うといった連携作業が行われている。コボットは大きな倉庫に置かれた商品を見つけて取ってくることもできる。
製造の最前線で活躍するコボットに対して、バックオフィスでその力を発揮するのがRPAだ。RPAはシステム間のデータ転送やクエリ処理、計算、記録管理といった大量のデータを扱うタスクや繰り返されるタスクの処理を担う。
RPAを導入すると、注文処理などの業務が自動化され、人間がデータを手動で入力する必要がなくなる。これによって、入力確認などの時間を省くことが可能だ。RPAの活用は時間と労力の節約につながる。
またRPAは、サーバの問題やダウンタイムへの対応にも役立つ。こうしたトラブルが起きてもRPAがサーバを再起動して再設定する。これは最終的にIT運用コストの削減につながる。
メーカー各社は効率アップとコスト削減のために、ますますAIコンポーネントを自社のプロセスに組み込むようになっている。
デジタルツインによって、複雑な機械の内部構造に対する理解を深められる。
デジタルツインは現実世界に存在する物体をバーチャルモデル化したもので、対応する物体に取り付けられたスマートセンサーを通じて、その物体に関する情報を得られる。デジタルツインによって、ユーザーはAIをはじめとするテクノロジーを駆使し、対応する物体に関するより深い理解を得られるようになる。企業は対象物とそのライフサイクルをモニタリングし、検査やメンテナンスの必要性を訴えるアラートを設定することも可能だ。
例えば、飛行機のエンジンにセンサーを取り付けるとその飛行機が離着陸するたびにエンジンのデータを取得できる。航空会社はこの情報を使ってシミュレーションを行い、さまざまな問題を予測できるようになる。
製造工場や鉄道といった重機を扱う現場では、メンテナンスのタイミングを予測するのにAIベースの予知保全(PdM:Predictive Maintenance)が利用されるようになっている。
機器が適切なタイミングでメンテナンスされず、何か問題が起きれば貴重な時間と資金を失う可能性が高まる。メンテナンスのタイミングが早すぎれば費用とリソースが無駄になることもあり、反対に遅すぎれば機器が広範囲に損傷する事態を招きかねない上に、労働者を危険にさらすおそれがある。
企業はPdMを使うことで、どの交換部品がいつ必要になるのかも予測しやすくなる。
製造現場におけるAIのユースケースで、大きな注目が集まっているのが「完全自動化工場」だ。AIやロボットなどの次世代テクノロジーを駆使する完全自動化工場は、完全にロボットの労働力のみで稼働し、人間とロボットのやりとりは最小限になっている。
工場で働くロボットに人間の労働者と同様の環境を整える必要はないので、完全自動化工場がコスト削減につながる可能性は十分にある。例えばロボットしかいない工場なら、照明や冷暖房などの環境整備が不要にがなる。こうした要素をうまく調整すれば、メーカー各社は経費を節約できるはずだ。
働き手としてのロボットは24時間年中無休で働いても、疲労や病気で稼働できなくなることがない。人間の労働者よりも多くの製品を製造でき、ミスも少なくなると期待される。
機械学習アルゴリズムを使ったAIシステムは、消費者の行動から購買パターンを見つけ出し、メーカーにインサイトを提供する。
例えば、機械学習アルゴリズムが見つけ出した購買パターンが特定の製品を増産するきっかけになるケースがある。購買行動を予測できるというこの能力を活用すれば、メーカー各社は需要が高い製品を販売店から発注が来る前に生産できるようになる。
製造業者には、AIシステムを自社製品のニーズ管理に役立てているところもある。
AIシステムであれば、供給量を追跡し、補充が必要になった時にアラートなどで知らせられる。さらに、業界内で生じているサプライチェーンのボトルネックを特定するようAIをプログラムすることも可能だ。
例えば、薬に使う原料の品質保持期間が短い場合、製薬会社はAIシステムを用いてその原料が生産に間に合うタイミングで到着するのかどうか、あるいは到着が遅れている場合はその遅れが製造にどう影響するのかを予測できる。
製造業におけるAIの有力なユースケースに「サプライチェーン管理」がある。
大手メーカーのサプライチェーンは膨大な量の注文や購入、材料、原料の取り扱いが絡んでおり、これらの案件を処理するには時間がかかる。これらを手動で処理すればかなりの時間とリソースを費やすため、サプライチェーン処理をAIでアシストする企業が増えている。
例えば、ある自動車メーカーはナットとボルトをサプライヤー2社から仕入れている。そのうちの1社が問題のあるナットとボルトを納品した場合、このメーカーはこのナットとボルトがどの車両に使われたのかを把握する必要がある。AIシステムであれば、自動車メーカーが問題の車両を追跡し、それを販売代理店からリコールできる。
多くのメーカーは生産ラインで不良品を検知するために、自動外観検査(AVI)ツールを使うようになっている。外観検査機器(目視検査の代わりとなるマシンビジョンカメラなど)は不良品をリアルタイムで検出でき、検出の速度と精度は人間の目を上回る。
例えば外観検査カメラは、携帯電話のような小さくて複雑な製品の欠陥も簡単に見つけられる。カメラに付属するAIシステムが人間に問題を通知するので、不良品が市場に出て消費者の不満を招くことも防止できる。
製薬会社などのメーカーは、AIシステムを製品開発のスピードアップに役立てているところもある。
AIは実験あるいは製造工程から得たデータを分析できる。メーカーはこのデータから得られた情報を活用することで、医薬品開発の時間短縮やコスト削減、複製法の効率向上などが可能になる。
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