メディア

Dynamics 365の導入で直面する7つの課題とその解決策とは

ERP「Microsoft Dynamics 365」の導入には7つの課題があるという。従来システムとの兼ね合いや従業員への浸透などの問題点を解決する方法とは。

» 2023年12月13日 08時00分 公開
[Joel AbbottTechTarget]

 新しいツールを導入する場合、それが「Microsoft Dynamics 365」(以下、Dynamics 365)のような有名なシステムであっても、プロジェクトの成否を分けるほどの課題に直面する可能性がある。

 Dynamics 365はエンタープライズ向けのビジネスアプリケーションを集めた製品で、「営業」「カスタマーサービス」「フィールドサービス」「人事管理」「財務および運用」などのツールを企業のニーズに合わせてカスタマイズできる。主に、顧客関係管理(CRM)とERP(統合基幹業務)の機能を統合しており、処理の自動化や、データに基づく意思決定、コラボレーションの強化にも役立つ。

 Dynamics 365は企業にメリットをもたらす一方で、その導入には課題もある。導入を成功させるには、プロジェクトチームが問題を理解し、克服する方法を学ぶ必要がある。

課題1  レガシーシステムにデータが分散

 レガシーシステムからDynamics 365にデータ移行するのは難しい作業だ。重要なデータが古いERPシステムからスプレッドシートまでさまざまな場所に散らばっている場合は特に問題になる。

 導入プロジェクトにおいては、データ移行を導入作業のついでではなく、プロジェクトの要として取り扱わなければならない。徹底的にデータを監査し、結果を分析し、移行するべきデータか否かを判断する。専用のデータ移行ツールを使えば、検証機能を使ってデータの完全性を補償することもできる。

課題2 従業員に受け入れられない

 どんなツールを導入するにしても、ユーザーである従業員に受け入れられるかどうかが重要だ。誰も利用しないシステムは導入しても意味がない。しかし、従業員は研修不足や変化を恐れて新しいツールの導入に抵抗する場合が多い。

 この問題を解決するには、企業がさまざまな階層に属する従業員を巻き込んで管理チームを立ち上げて、円滑な移行を促すべきだ。早い段階からプロジェクトに従業員を巻き込んでいれば、そのメンバーが新しいツールを支持するようになり、ツールの可能性について同僚と共有する可能性も上がる。研修プログラムも整備すれば、導入は円滑に進むだろう。

課題3 ツールをむやみにカスタマイズしてしまう

 Dynamics 365は企業のニーズに合わせてカスタマイズできるが、カスタマイズ過剰に陥ることもある。変更箇所をまとめておかなければ、それがパフォーマンス低下につながり、以降のシステム更新も難しくなる可能性がある。

 IT部門は以下の基準でカスタマイズの計画を立てるべきだ。

  • できる限り既存機能を使う
  • 提供されているツールを使ってプラットフォームを設定する
  • それでも不満があれば、既存のカスタマイズツールを使う
  • システム統合には「Microsoft Power Automate」(以下、Power Automate)「Azure Logic Apps」「Microsoft Power Platform」のようなツールを使う
  • 必要な場合のみ、Microsoftがサポートするフレームワークを使って必要な要素を開発する

課題4 旧システムとの統合が複雑

 Dynamics 365は広範囲をカバーするエンタープライズ向けアーキテクチャであり、既存のERPシステムやCRMシステムとの統合が必要になる場合がある。使っているAPIの古さや可用性次第では、このプロセスに時間がかかり、作業が複雑になる恐れがある。

 そこで、Power Automateや「Microsoft Power Apps」、Azure Logic Appsが役に立つ。必要なコネクターが既存システムになくても、導入チームがカスタムコネクターを作成できるため、既存のデータやワークフローをDynamics 365に持ち込める。

課題5 予算が足りない

 プロジェクトが予想以上に複雑になったことや、関係者間のコミュニケーション不足などが原因で、実装にかかる費用が予算を超える場合も多い。サービスの調査や設計、開発を行う際には要件変更を避けるため、小回りの利くアプローチが必要だ。そうすれば、プロジェクトの進捗に合わせてチームが適応できる。

 このアプローチはチームが予算問題を早期に認識するのにも役立つため、増え続ける予算でプロジェクトが頓挫する前に利害関係者にその事実を知らせられる。

課題6 テストが不十分

 テストが不十分だと、導入後にバグやパフォーマンスの問題が発生するかもしれない。バグが原因でツールに対する従業員の信頼が低下し、導入が台無しになる恐れがある。導入前にバグが見つかると、導入プロジェクトのスケジュールが伸びる可能性もある。

 こうした問題を避けるためには、プロジェクトチームがテストの優先順位を付けるべきだ。実施するのは単体テストや回帰テスト、統合テストなどだが、これらは自動化できる場合もある。テストが完了したら、成功を保証するのに役立つユーザー受入テストも実施するのがおすすめだ。

課題7 法令順守

 GDPR(EU一般データ保護規則)にしてもCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)にしても、とにかく導入チームは(プライバシー関連の)法規制について導入間際になるまで見落とすことが多い。そのせいでプロジェクトの成功が脅かされることもある。

 MicrosoftはDynamics 365が世界各国の法令要件をいかに満たしているか説明している。導入チームが法務部門やコンプライアンス部門と話し合い、設計段階のうちに資料を活用すれば、法令順守も可能だ。

 Dynamics 365の導入には問題もあるが、上手に導入できれば企業のプロセスと行動にメリットをもたらす可能性がある。企業が課題を理解し、本稿で説明した戦略を実施すれば、導入成功の可能性は大幅に高まるだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。