Forresterの専門家は「企業は従業員の体験への関心が低く、それらを改善する業務はコスト削減や手抜きの対象になりやすい」と述べている。企業はなぜ従業員体験を重視しなくなっているのだろうか。
パンデミックによる人材不足の時期、多くの雇用主は従業員体験の向上に投資したが、その後は投資を控え始めている。これは、従業員の仕事に対する感じ方や、雇用主の収益に影響を与える可能性がある。
調査企業であるForresterの報告書「働き方の未来に関する予測 2024」によると(注1)、2024年は従業員体験の向上が後回しにされる“冬の時代”が到来するという。
同社の専門家は、「企業は従業員の体験への関心が低く、それらを改善する業務はコスト削減や手抜きの対象になりやすい」と述べた。何が起きているのだろうか。
Forresterにおいて、Future of Workのチームに所属するJ・P・ゴウンダー氏(バイスプレジデント 主席アナリスト)は、「企業は従業員体験への関心が低く、それらを改善する業務はコスト削減や手抜きの対象になりやすい」と述べた。エンゲージメントや生産性、成長を向上させる戦略は後手に回っているという。
Forresterは、「社内におけるDEI(多様性、公平性、包摂性)の実現に投資している」と回答した雇用主の割合が、2022年から2023年にかけて調査対象の3分の1から27%に減少したことを指摘した。また、同社はこれらの数値が2024年の終わりまでに20%に減少すると予想している。ゴウンダー氏は、「一部の企業は、DEIの目標を達成したというチェックボックスにチェックを入れるだけで、従業員に変化をもたらすDEIの実現に真の意味で投資することはないだろう」と述べた。
ゴウンダー氏によると、その理由の一つは、労働市場がそれほど逼迫(ひっぱく)していないことにあるという。「雇用主が従業員体験に投資するのは、大量退職時代(Great Resignation)のように従業員の離職が多いときや、人材を確保できないときが多い」とゴウンダー氏は述べた。そして現在、人材確保にそれほど必死でない企業は、人材に関するアクセルを踏み込まないことが多い。
Forresterは「ソフトウェアに携わる技術意思決定者の66%は『2024年に従業員体験および人財管理のためのソフトウェアへの投資を増やす』と回答しているが、その投資は十分に活用されない」と予測している。同社の予測では、これらの投資は、従業員体験の成果を改善するのではなく、人事機能の効率化に充てられる。
Forresterによると、2022年から2023年にかけて従業員エンゲージメントはすでに急落しており、2024年もその傾向が続くという。
2022年から2023年にかけて、米国では従業員エンゲージメントが48%から44%に低下し、カルチャーエネルギーは69%から66%に低下した。Forresterは、2024年には、従業員エンゲージメントは39%に低下し、カルチャーエネルギーは64%に低下すると予測している。
「従業員エンゲージメントは、従業員体験の指標として、生産性や創造性、仕事に対する多くの興味とモチベーションを推進する点で重要だ。それを失うと、従業員は仕事に全力を尽くさず、企業は雇用から最大の利益を得られない」とゴウンダー氏は述べた。
「このような変化は企業全体に悪影響を及ぼす。従業員体験に投資せず、コスト削減を優先したり、人々を単なる資源として扱ったりする状態に戻ると、組織のエンゲージメントが低下し、その結果、他の成果も低下する」(ゴウンダー氏)
これらの悲観的な見通しに対して、ゴウンダー氏は、次のように付け加えた。
「全てが失われたわけではない。このような傾向に逆らい、従業員体験への投資に関するアクセルを踏み続けることで、従業員体験の冬を回避することができる。つまり、コスト削減や見せかけのチェックリストに頼るのではなく、従業員との純粋な関わりに投資するのだ。従業員体験に関するテーゼは、従業員や人間中心の経験に投資することで、エンゲージメントを高め、離職率を下げ、生産性を向上させ、顧客も幸せにするというものだ。なぜならば、幸福な従業員は幸福な顧客を呼ぶためだ」とゴウンダー氏は述べている。
「従業員体験に投資し続ける企業は、従業員がそれらの投資についてどのように感じているかを測定し理解することも重要だ。これらの2つはしばしば相互に関連している」ともゴウンダー氏は述べた。
従業員体験のヒアリングはしばしば後回しにされがちだ。Forresterの報告によると、従業員体験の改善を優先事項と考えているビジネスおよびテクノロジーの専門家のうち、従業員のフィードバックの収集を、従業員体験を向上させるための主な行動と認識しているのは、わずか31%だった。同社は、この数値が2024年には34%に上昇すると予測している。
エンゲージメントを測定するための取り組みには、デジタル活動、バッジのスワイプ、休暇に関する分析などのデータ収集が含まれるが、経営幹部がデータを効果的に活用し、単に仕事に関するコンプライアンスの順守を追跡するのではなく、従業員の成功が組織の成功をどのように向上させるかを聞き、学ぶことが課題となっている。
重要なのは、投資と、その投資が従業員にどのような影響を与えるかの両方を理解することだ。
ゴウンダー氏は、次のように述べた。
「これらの2つを注意深く見守ることが重要だ。一方で、従業員体験の向上に投資せずに企業の業績が低下した場合、責任を追うべき対象は明白だろう」
出典:Is an ‘employee experience winter’ coming?(HR Dive)
注1:Predictions 2024: The Future Of Work(FORRESTER)
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