プロジェクト管理ツールの利用状況調査を実施したところ、8割を超える企業でプロジェクトの失敗が起きていることが分かった。失敗の原因やプロジェクト管理ツールの利用状況を聞いた。
プロジェクトの効率化やコスト削減、進捗(しんちょく)管理のしやすさなどを背景に、プロジェクト管理ツールの需要が世界的に増している。グローバルインフォメーションが2023年1月に発表した「プロジェクト管理ソフトウェア市場 成長、動向、予測(2023年-2028年)」によると、プロジェクト管理ツールの市場規模は2023年から5年間で98億1000万ドルに達し、予測期間中に10.67%のCAGR(年間平均成長率)で成長すると予想されている。
そこでキーマンズネットは「プロジェクト管理ツールの利用状況調査(2023年)」を実施した(実施期間:2023年12月15日〜2024年1月15日、回答件数:324件)。前編となる本稿は、失敗だらけのプロジェクト管理の実態や管理ツールの導入状況が分かる。
プロジェクトに関わったことのある人の大多数は「スケジュール通りに進まない」「予算を超過した」といった失敗経験がある(図1)。
調査の結果、全体の81.8%がプロジェクトの失敗経験があり、従業員規模が大きくなるほどその傾向がある。
要因としては「関係者とのコミュニケーション不足」(58.9%)や「時間か、予算か、人的リソースなどの見積もりが甘かった」(54.3%)、「タスク管理が甘かった」(46.4%)「リスクマネジメントができていなかった」(42.3%)などが続いた(図2)。
2022年12月実施の前回調査と比較すると「想定外のトラブルが発生してスケジュール修正ができなかった」が9.4ポイント、「タスク管理が甘かった」が7.3ポイント、「時間か、予算か、人的リソースなどの見積もりが甘かった」が7.2ポイント増加している。
2021年10月実施の前々回調査から継続して増加傾向にある「テレワークでのプロジェクト進行で情報共有ができていなかった」(7.2%)から考えられるように、テレワークやハイブリッドワークといった働き方の変化を起因とした課題の影響と考えられる。
そこで、「働き方の変化が原因で起きたプロジェクトのトラブル」について、フリーコメントで意見を募ったところ、4つの課題が浮き彫りになった。
1つ目は「進捗管理の難しさ」だ。「テレワークだと報連相含めチーム内での連携が疎かになり、ある程度時間が経った時に蓋を開けてみると目標と実績に乖離(かいり)があり納期が遅れた」や「対面で進捗確認ができないため本当の進捗が分からず、上辺だけの報告を聞いて鵜呑みにした結果、失敗した」が挙げられた。
2つ目は「タスク管理の難しさ」で「定例以外のちょっとした確認や質問などの機会が減り、個人の思い込みなどの修正が遅れることがあった」や「細かなコミュニケーションを取れず、タスク管理不足が発生」「誰かがやるだろうと考え、誰もやっていない工程があった」といった声が寄せられた。
3つ目は「決裁に時間がかかる」で「上長承認の説明の時間がなかなか取れずに途中で止まってしまう」や「経営層の承認を取りづらい」「物事を決められず、時間ばかりがかかってしまった」などの失敗例が寄せられた。コミュニケーション課題に起因するものが多く、テレワークやハイブリッドワークのコミュニケーションの在り方を再検討する余地がありそうだ。
次に4つ目は「テレワークの意図していない影響」で「物理的に製品を触る必要があったが、出社できない状況でプロジェクトが止まってしまった」や「休日や深夜に作業する人間が増え、日中に連絡が取りづらいケースがあった」があった。
また、「『Microsoft Excel』(以下、Excel)によるタスク管理表を使用していたが、メンバーで共有されていないため、メンバー個々のタスク管理が不十分になってしまう」や「Excelやファイルサーバなど、共有に向かないツールや環境が足かせになっている」に見られるように、環境が変わったことで従来のツールがマッチしなくなったという声もあった。
多様な環境で働く影響でプロジェクトの難易度が上がり、「プロジェクト管理ツール」のニーズも増加した。ツール導入率は34.9%で、100人以下の中小企業においては18.0%から21.8%と前回調査から3.8ポイント増加した(図3)。
また、「現在は導入していないが、導入を検討中」(9.0%)と「必要性は感じるが導入するかどうかは未定」(39.5%)を合算した「ツールの必要性を感じる人」の割合も45.1%から48.5%と3.4ポイント増加しており、プロジェクト管理ツールのニーズが高まっているのが分かる。
業種別では、IT機器やソフトウェア製造・販売や受託開発などの「IT関連業IT製品関連業」での導入率が48.5%と突出して高い半面、医療・教育・官庁といった「公共機関」では12.0%と低く、両者で4倍近い差が見られた(図4)。ただし、公共機関では「ツールの必要性を感じる人」の割合が64.0%と最多であることから今後導入が進むとみられる。
ツールの利用及び利用予定部門は「情報システム部門」(37.0%)、「全部門」(28.5%)、「製造・生産部門」(20.7%)、「営業・販売・営業企画部門」(16.7%)と続いた(図5)。開発部門での利用イメージが強いプロジェクト管理ツールだが、情報システム部門での利用は年々下がってきており、代わりに全部門や営業・販売部門での利用が増加している。
全体の16.4%であった「ツール導入の必要性を感じない人」の理由は「対象となるプロジェクトがない」(52.8%)や「Excelで十分」(34.0%)、「運用、導入コストが高い」(28.3%)が続き、特に中小企業帯で高い傾向にあった(図6)。
中小企業で導入が進んでいる中、プロジェクト数や実行予算も関係し、ツールの優先度の高い中小企業とそうでない中小企業の二極化が進んでいる可能性がある。
次にプロジェクト管理ツールの利用形態を調査したところ「SaaS型」(62.7%)が過半数で、次いで「オンプレミス型」(25.4%)、「自社開発型」(7.0%)と続いた(図7)。
全従業員規模帯においてSaaS型の利用割合が最も高く、前回との比較でもSaaS型が10.2ポイントと最も伸び率が高い。反対にオンプレミス型は4.9ポイント、自社開発型は5.1ポイントとそれぞれ減少しており、プロジェクト管理ツールの主流はSaaS型へと変転している。
SaaS型プロジェクト管理ツールの必要性について聞いたところ「簡単かつスピーディーに導入できるため」(70.8%)、「社外関係者を含むプロジェクトでの利用に適しているため」(43.8%)、「導入コストの削減が期待できるため」(36.0%)が上位に挙がった(図8)。
特に注目すべきは前回比較で7.3ポイント増の「社外関係者を含むプロジェクトでの利用に適している」という理由だ。先に挙げたプロジェクト失敗で多く見られた、多様な環境でのコミュニケーションやタスク管理の改善を最優先課題とする企業が増えているのだろう。
中には「発注者より利用をリクエストされるようになったため」との声もあり、社内外の異なる環境において必要なコミュニケーション促進および、管理機能をスピーディーかつ低コストに提供できる点が選ばれる理由となっているようだ。
以上、前編では多様な環境でのプロジェクトの課題やツールの導入状況について紹介した。後編では、プロジェクト管理ツールの満足度や選定時の重視ポイントを中心に調査結果を解説する。
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